十五 会長とデート?②
会長と澄川先輩、そして俺の三人で買い出しして気付いたことがある。
それはめちゃくちゃ注目を浴びるということ。
街行く人みんな会長と澄川先輩を見ている気がする。
それも当然だ。片方は校内にファンクラブがある女性。もう片方は現役のモデルだ。
会長は白を基調にしたシックなオフィスカジュアルな服を身に纏う。澄川先輩は、同じく白が基調ではあるが、赤をワンポイントに入れ、ミニスカートを履いている。会長がパンツなので対照的だ。
冷静に考えて両手に花だ。周りの視線も痛い。
当たり前か。花の周りにハエが一匹飛んでいるようなものだから。
とはいえ、残念ながら現在の俺は両手に花どころか両手に荷物を持っていた。
買い出しで購入した備品たちである。
★
澄川先輩と合流したのち、俺たちは駅を出発して、駅近のショッピングセンターではなく、少し離れた商店街に向かった。
てっきりショッピングセンターで購入するものだと思っていたので、会長に聞くと、緑川高校と古い付き合いがあるお店が多く、価格など色々まけてくれるらしい。それに緑川高校のOB・OGも多くいるため、色々便宜を図ってくれるとのこと。
複数のお店を回るため、会長と澄川先輩で二手に別れることになり、俺は会長について行くことになった。
交渉はおもに会長が担当し、
「――はい。今年も購入したいのですが、例年と同じ値段でも問題ないでしょうか?」
「そうだねぇ、今物価も高くなって、その値段だとなかなか厳しいねぇ」
「そうでしたか。……でしたら今年の学園祭でも購入させていただければと思いますがいかがでしょうか?」
「お、本当かい? よし、ならいいよ。その値段で!」
会長がお店の人と話をどんどん進めていく。どのお店も事前に電話をしていたようでスムーズに話を進めることができた。
俺はというと、特に手伝えることがなく、後ろで会長の交渉を見ているだけだった。できることと言えば、荷物持ちしか思い浮かばなかったので、渋る会長を説得して購入した備品が入っている紙袋は全て持っていた。
「よし、これで行きたいお店はすべて回れたわね。麻倉くんありがとう」
「いえ、俺は見ているだけだったので……」
ほとんど交渉は会長に任せっぱなしだった。
緑風祭の会議には出ているため、何が必要かは理解しているのだが、特に何も手伝えず、ほとんど見ているだけだった。
「そんなことないわよ。香久耶商店では麻倉くんのおかげでスムーズに話せたわ」
「ありがとうございます。でもただ将棋の話をしただけですよ」
今日訪ねたお店の一つに、香久耶商店というお店があるのだが、その店主が将棋好きということで話が盛り上がったのだ。でもただそれだけだ。特に何かしていない。
「そんなことないわよ。ここだけの話……実はね……」
会長があたりを見渡して、小声で話す。
「去年生徒会が香久耶商店のおじいさんを怒らせちゃったのよ」
「え? そうなんですか?」
「そう。去年発注ミスがあって迷惑をかけたの。こっちのミスなので怒られて当然なのだけどね。もちろん当時の担当者は謝罪しているのだけれど、その際、もう取引なんてしないって言われていたのよ。その時は学校の力を借りてことのなきを得たのだけど。ただ、今日行くことになって――」
会長はより小声で話す。
「――実は私、緊張していたのよ」
会長でも緊張することがあるなんて、意外だった。何事にも冷静に対応しているため、緊張とは無縁だと思っていた。
「でも麻倉くんのおかげで無事購入できたわ。それに去年よりもずっと安い値段で。ありがとう」
「いえいえ。そんな褒められることではないですよ。本当にただ将棋の話をしていただけで」
本当にただ将棋の話をしていただけだ。たまたま店奥に将棋版が置いてあるのを見て、声をかけただけだ。まあ、はからずもおじいさんの得意戦法が右四間飛車であることが判明して、話は盛り上がったが。そして気を良くしたおじいさんがめちゃくちゃ値引きしてくれた。
「いいのよ。私は結果として助かったのだから、素直にお礼を受け取りなさい」
さて、と先輩は携帯を確認して話を変えた。
「今ちょうど由奈も終わったそうだから合流しましょうか。駅前の広場に行きましょう」
頷いて一緒に広場に向かう。
最後のお店が駅よりだったのもあり、すぐ目的地に着いた。
振宮駅の広場は、ショッピングセンターのすぐ隣にある。一呼吸つけるよう、ベンチが至る所に設置されており、ショッピングで疲れた人たちの憩いの場となっている。
広場にはすでに澄川先輩がベンチに座っていた。両脇を紙袋に挟まれている。買い出ししたものが入っているのだろう。
「由奈。お疲れさま。ってすごい荷物ね。そんなに買う予定あったかしら」
会長が声をかける。
「お疲れさま! 思ったより早く終わっちゃって。別日に行こうとしていた店も行ってきたの。夜は? 無事に回れた?」
「ばっちりよ。麻倉くんのおかげで無事すべて回れたわ」
その言葉を聞いて、澄川さんはニヤッとする。
「おお! 流石麻倉くん! 頼りになるねぇ」
「え、いやいや俺はただ見ていただけで」
「あら、麻倉くん、謙遜しすぎるのも良くないわ」
「え、じゃあ……頑張りました」
「にひひひ。麻倉くん面白いねぇ」
澄川先輩が俺と会長のやりとりを見てニヤニヤする。
「じゃあ夜、時間も時間だしお昼にする?」
「そうしましょう。……麻倉くんは何か食べたいものあるかしら?」
「俺は何でも食べたい気分です。お二人が食べたいもので」
「遠慮しなくていいのに! あ、でもせっかくならあそこにしようよ。夜」
「あ、いつもの場所? いいわね。ここからも近いし。そこにしましょう」
「じゃ決まり! 麻倉くん、私と夜のオススメのお店を案内してあげよう」
そう言うと、澄川先輩は立ち上がり、両脇の紙袋を手に取る。
「あ、先輩! 荷物持ちますよ」
「ありがとう。でもこれぐらいなら持てるよ」
「いえ、持たせてください」
澄川先輩は申し訳なさそうな顔をした。
でも、今日はほとんど戦力になれなかったのだ。せめて荷物持ちだけでもやらせてほしい。
「由奈、こうなった時の麻倉くんは梃子でも動かないから渡しちゃったほうが楽よ。私も押し切られたわ」
「む。じゃあお願いしちゃおうかな?」
「はい!」
澄川先輩から荷物を受け取る。
ふと、目の前を見ると会長たちがニヤニヤしていた。
「……なにか?」
「なんでもないわよ、ね、由奈?」
「うん、何でもない。可愛い後輩だなんて思ってないんだから」
「……からかってますね?」
「ふふふ。ほら早く行こう!」
「麻倉くん、置いていくわよ」
二人して笑うと、店の方に向かった。
「ちょ、待ってください! 両手に荷物持っているのでもう少しゆっくりで」
店の場所は知らない。見失ったら迷子確定だ。
だが、走れない。せっかく買った荷物を落としてはいけない。
慌てて早足で追いかける。
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