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九 図書委員長

 図書委員と生徒会の会議は多目的ルームで行われた。多目的ルームとは生徒会が管理している部屋で、モニターやプロジェクター、ホワイトボードなど様々な備品が用意されている。

 

 会議は円滑に進んだ。まずは生徒会の新メンバーの紹介から始まり、現状の共有、そして隔週で会議を行うこともあり、新しく設置する図書委員と生徒会の各窓口担当者の紹介が行われた。当初の予定通り、生徒会側の窓口は俺が担当し、図書委員の窓口は九条さんだった。そして最後に次の会議の議題を決め、今日の集まりは解散した。


「麻倉くん。ちょっといいか?」


 帰ろうとして呼び止められた。

 呼び止めたのは、黒縁メガネをかけ、腰まである黒髪をひとつ結びにしている女性。俺と同じくらいの身長に、胸元は紫色のリボン。

 

 藤宮(ふじみや)(かえで)

 

 今日紹介をうけた図書委員会の委員長だ。

 藤宮さんは周りに人がいなくなったのを確認すると、口を開く。


「先日はすまなかったな。何度か書類を届けてくれたのに、席を外してしまって。エルセから色々聞いたよ」

 

「いえ、こちらこそタイミング悪く、また、直接渡せず、失礼しました」


「……ふむ」


 藤宮さんはなにか思案するような顔をしてこちらを見た。


「……君は真面目だな」

 

「……そうでしょうか?」

 

「そうだ。別に直接渡すことに拘らなくともその場で誰かに渡せばよかっただろうに」

 

「直接お渡しできれば安全ですし、生徒会の窓口となるので、事前に挨拶できればと思いまして。それに会長からは急ぎの書類ではないと聞いていたので。まあ結局九条さんにお願いしてしまいましたが……」


 親の教えとして、事前準備が何よりも大事だと教わっている。仕事柄、人と人との関係性が大切らしく、プロジェクトを円滑に進めるには、事前の準備がとても大事らしい。それをするとしないでは、進捗が大きく変わるとのことだ。

 で、事前準備の一つとして、事前挨拶がある。自分の意見を通すには、会議の前に顔を売っておくのが肝とのこと。

 まあ学生のうちにそんな機会もないけど、とりあえず挨拶は大事だと思うので、会長から提案されたのもあるが、せっかくなら事前に顔合わせがしたかったのだ。

 

 藤宮さんはじっと俺を見る。

 

「……ふむ。流石冬月さんの人選だな」

 

「……?」

 

「いやなんでもない。本題に入ろう」


 藤宮さんはそう言うと、席に座った。促されて同じく席につく。


「さて、実はエルセのことで少し話したいことがあってな」


 エルセ……。九条さんのことか。


「はい。なんでしょう」

 

「エルセとは私は中学からの付き合いなのだが、その……エルセはすごくモテるんだ。正しい言い方が見当たらないが、いい意味で浮世離れしているだろう? 目立つこともあってよく告白されているんだ。知り合って間もない人や初対面の相手にもよく、な」


 モテるのは納得だ。名前からして、外国の血が混ざっている影響かもしれないが、その外見はとても目立つ。


「そんなすぐ告白してくるやつなんて外見に惹かれたただの軟弱者ばかりなのだが。……エルセは外見ももちろん素晴らしいが、内面も素晴らしいんだ。礼儀正しく、思いやりのある子なんだ」


 それもなんとなくわかる。話した時間はわずがだが、そんな雰囲気を感じた。

 しかしなぜ九条さんの話を俺に?


「で、そんなエルセなのだが、色々とトラブルに巻き込まれたことがあってな。本人にはまったく責任はないがな。元から男が苦手だったのが更に苦手になったらしい」


 藤宮さんが話を続ける。


「で、なぜこの話をしたかというと、釘を刺すためだ。エルゼにちょっかい出すなとな」


 な、なるほど。九条さんは確かに美人だ。今までそれが原因でトラブルに巻き込まれていたのに、深く関わることになる生徒会の窓口が男だとそれは気がかりだろう。


「だがな。それは杞憂のようだな」


 藤宮さんは俺の顔見ながらそう言うと笑った。


「本当はな、あの冬月さんが選んだ人物だ。そんな心配はほとんどしていなかった。だから窓口にはエルセを選んだんだ。……ただそうは言っても、念のため直接確認したかったが、問題なさそうだ」


 藤宮さんは朗らかに笑う。


「え、いや、ほとんど話してないのにいいんですか? そんなに信用して。もしかしたら俺は羊の皮を被った狼かもしれませんよ」

 

「ふふふ。私はこれからでも人を見る目はあるのだよ。それにそんな奴は自分のことをそんな風に言わないだろう」


 まあそうかもしれないが。寄せられた信頼になんとなくむず痒い気持ちになる。


「しかし、羊の皮を被った狼か。仮にそういう人物がいたなら好ましくないが、私はその言い回しは好きだな」


 藤宮さんは壁時計を見つつ、

 

「このあと先生に頼まれた仕事あるので、残念だがそろそろ失礼するよ。……麻倉くん、生徒会と図書委員の架け橋になってくれることを期待しているぞ。もちろん、私も図書委員長として全力でサポートするつもりだ。何かあればいつでも言ってくれ」

 

「ありがとうございます。頑張ります」


 藤宮さんは頷くと、思ったより時間がないらしく、挨拶もそこそこに足早に去っていった。


 

 



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