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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
2章 だらしない体から脱却しよう

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六角棒スパナは群れをつくりがち

 魔女と呼ばれる亜人がいる。


 魔力と呼ばれる不可思議なものを知覚し、操ることができる者を指す。分類としては亜人に含まれるものの、他の亜人と両立ができる。人間で魔女もあるし、ハーピィで、シルキーで、スライムで、魔女であることもある。いわゆる霊感がある人間といったイメージだ。ただ、この魔女、名前の通り、女性しかいないらしい。


 魔女に直接会ってみたいと昔から思っていた。


 魔女は絶対数が少なく、都会でも両手で数える程度しかいない。だから、話す機会があったら是非、目の前で魔法を使ってみてとお願いしたいのだ。魔法といっても、カボチャの馬車を出してくれるようや摩訶不思議なものではなく、テレキネシスという念動力なのだが、それでもそういったものがない世界から転生した私にとっては是非お目にかかりたいものなのだ。


 だから、奈緒と白鳥さんとで昼食時の話題で、件の相談相手が魔女と知った時は柄になく興奮してしまった。魔女の悩みを聞くなら是非とも魔法を見てみたいと話した。


 すると白鳥さんは「うちは昔、サーカスとかで見たなー。てかテレビでもたまにやってるじゃん」と反応を示し、奈緒も「お嬢様は低俗な番組はご覧になりません。ニュースしか見ません」とそれを打ち返す。


 テレビで魔法が見れたことを知り、落ち込んだ。たしかにテレビはニュースもしくは夏の甲子園ぐらいしか見てこなかった。前世からの癖が抜けなかったのだ。前の学校でも流行り物がわからない奴としてよくイジられていた。


「えー人生半分損してるって。てかそんなに見たいなら、魔女っ娘が痩せたら思う存分、魔法見せてもらえばよくね?」


 白鳥さんの提案に「たしかにね」と同意する。


「でも、痩せるのって結局のところ、自分との戦いみたいなところあるから、それは大丈夫そう?」


「……応援してっから!」


 大丈夫ではない返事だった。


 それに奈緒は酷く辛辣な視線を向けて箸を置く。


「お嬢様のお手を煩わせて痩せないのはありえません。もし痩せなかったら自分が痩せるまでしごき倒します」


 白鳥さんは「まじうける」と破顔しながらも「でもその子、メンタル弱々だからお手柔らかにね」とフォローを入れる。


「あ、あと、今日うち用事があってアレだから、奈緒っち代わりに紹介してあげてよ。仲良いっしょ?」


 予定ぐらい空けときなさい、と奈緒はボヤくもその頼みを受け入れた。


「お嬢様、放課後その方に会いに行きますが、その方についてレクチャーします」


「レクチャー?」


「はい。大変気難しい方なので話し方には気を使うください」


「そうそう。マジでメンタルクソ雑魚だから」


「白鳥の言うとおり、心が弱いのです。自分が初めてお会いした時は、自分の容姿が末恐ろしく感じたらしく今にも土下座する勢いでした。恐らくお嬢様の見た目でもそうなるかと」


 それはもはや心が弱いを通り越して、人間不信を拗らせているのではなかろうか。しかし、美を追求したこの容姿でさえ、恐怖の対象になるのはなんとも悲しい。今生の母が持つ恐ろしく綺麗な容姿を受け継いだとはいえ、父の血も流れているのだから緩和されていているはずというのに。


「お嬢様、おそらく何か勘違いされているようですから言わせていただきます。スクールカーストの低い位置にいる者は、上位にいそうな人間には縮こまってしまうものなのです」


 スクールカースト。


 その言葉が生まれたのは、私が署長になってからだった。しかし、似た概念は昔からあったという。不良、スポーツマン、勉強ができる、地味な子の順で立場が弱くなっていったらしい。


 という、らしい、などを使っているのは私はその概念が世に浸透し、社会問題として取り上げられるまで知らなかったからだ。


 当時、古くからの幼馴染に聞いてみたところ、「お前の周囲はスクールカーストとか関係ない非武装地帯になってたからな」と呆れられた。警察学校の同期組に聞いてみても「お前だけはあの地獄のような警察学校を楽しんでいた頭のネジの規格が違う奴だから分かるわけない」と当然の顔をされた。


 よく言えば「みんなで力を合わせることができる」ということ、悪く言えば「人の弱さがわからない」ということだった。


 たしかにその通りだった。


 私は、私が美しくありたいと願う弱さのみが気になって仕方がなく、相談事も解決することがなにより大切で、頑張って人に寄り添おうとしても反発を喰らうばかりだった。


 しかし、そうなると今回の相談は向いていないのかもしれない。


 いや、せっかく生まれ変われたのだ。前世で苦手だったことを克服しよう。


「お嬢様はそのままでいてください」


 そう思った直後、奈緒に牽制される。


 余計な真似をするなと言われた。。


「でも私はスクールカーストとか関係なく仲良くなろうと――」


「だからです。みんながプラスドライバーのネジ穴の大きさで競い合ってるところに、一人六角棒スパナが混ざったら話がややこしくなります。今回の件、自分がメインで話を進めます」


 奈緒がこう言う時は素直に従っておく方が吉だ。


 しかし、気になることが一点。


「六角棒スパナって悪口じゃないよね?」


「使い所が大切ということです」


 奈緒は視線を合わさない。


「六角棒スパナってなんなの?」


 そう訊いてくる白鳥さんは一種の清涼剤だった。

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