神宮寺レポート1
これは三宮家及び三宮ホールディングス脅迫事件の捜査資料である。
とはいったものの俺が個人的につけているだけのメモ帳のようなものだ。
年末、とある情報が入った。三宮家の御子息を年度内中に拉致誘拐するというものだ。よくある有名人に対するそれとは違い確かな情報筋からだったため、厳戒態勢を取ることになった。
しかし、四六時中警護するにも、御子息は高校生ゆえ、学校の中まで護衛につくというのは難しい。無理を言えばできるのだろうが、学校という場はできる限り警察がいつも駐在しているという状況作りたくないらしく、難色を示している。
そこで出た代案として、誰にもバレないように転校してしまえばいいというものだ。その候補として女子校が挙がり、どういう会議を経たのか、それがそのまままかり通ってしまったらしい。
飲み会と会議を同時に行っていたとしか思えないそれは、俺が捜査班に加わった時には頃には決定事項となっていた。御子息ということは野郎だ。野郎に女子校に通えなんて無理難題に決まっている。上が言ったことは絶対とは言っても限度がある。そんなことを班長に言ったら、一度本人を見てみろと諭された。
そういう話の流れで、俺は噂の御子息に女子校に転校することを説得する役目を仰せつかった。面倒な役目を押し付けられたともいう。
支給された安っぽいスーツでは説得力を持たせられないとは思いつつも、それ以外を持っていないため、せめて目上の人や若い人でも無難に見られるネクタイの色を選び、祖父から譲り受けたそれなりにするという腕時計を巻いて、三宮家に向かった。
応接間では三宮ホールディングスの会長が項垂れていた。異国の地で、自分のせいで家族が襲われるかもしれないという状況に心苦しめていた。無理そうならば自分から切り出します、そう言って少しでも気が楽になることを願った。
その直後、一人のお嬢さんが部屋に現れた。
綺麗。
俺の少ない語彙力ではそうとしか表現できなかった。
しかし、すぐにハッとする。
彼女、いや彼は男である、ということに。
たしかに班長の一目見てみろという指示もわかる。これほど綺麗な人ならば女子校に通っても違和感ないだろう。むしろ、今まで共学で男子の制服を着ていたことの方が違和感だった。
つまるところ俺は男に見惚れてしまっていたのである。
本当に男にであるのか疑問に思うが、とにかく職務に戻らなければならない。
警察魂よ、燃え上がれ。
俺は会長に目配せすると、何も言えないようだったのでオレから切り出した。
「三宮家の御子息には安全上の都合、転校してもらいます」
それが女子校であると伝える。
最初は戸惑った様子も見られたが、御子息は素直に受け入れた。
素直に凄いと関心した。
いくら絶対にバレない容姿を持っていたとしても、自分が女子校に転校すると考えたら絶対に拒否してしまう。友人関係も全てリセット。連絡すら取れない。できるのは異性の友人ばかりで、世間話だって男と女性じゃ話題に挙がるものは違うだろう。そこでできた友人でさえ、卒業後は連絡が取れない。最悪、男だとバレて、軽蔑される恐れすらある。
そんなものに俺はなりたくはなかった。
三宮家の後継者として覚悟を、一切動じない目から感じた。
1章『美しい肌は適切な睡眠時間から』はこれにて終了です。
明日からは2章『だらしない体から脱却しよう』です
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