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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
1章 美しい肌は適切な睡眠時間から
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それは防災に使われる

 白鳥さんと街へ繰り出してから数日が経ち、金曜日になった。


 私を取り巻く環境も落ち着きを見せて、私は奈緒と白鳥さんの二人といることが多かった。会話の流れで他の人の入れ代わりがあったりするが、だいたいは私を含めた三人で行動をすることが多かった。


 奈緒は白鳥さんが四六時中一緒にいることに辟易した様子だが、今日になって開き直りを見せて、塩対応と呼ばれるツンとした態度を白鳥さんにしていた。しかし、白鳥さんはそれがいたく気に入ったらしく、その態度の奈緒を弄って周りを盛り上げていた。白鳥さんの化粧で隠しきれていなかった目のクマはファンデーションでちゃんと覆い隠されていた。


 放課後、私と白鳥さんは再び喫茶店に来ていた。白鳥さんは奈緒も誘ったが、奈緒は恭しく、慇懃無礼ともとれる態度でお断りしていた。白鳥さんはそれすらも面白がり、笑って気にしていない様子だった。なので、やはり私達二人で席を囲うことになっていた。


「寝れてるみたいだね」


 私がそう言うと「あ、わかる?」と顔を明るくする。


「あれ、いいねー。鳥目でも見える割に、明るすぎなくて眠気も邪魔しなくて」


 私が白鳥さんに勧めたもの。それは蓄光テープだ。夜歩く場所に予め貼っておき、そこを辿れば目的の場所に辿り着くことができるという用途を想定した。


 正直なところ、上手くいくかどうかは半々の確率だった。私には鳥目の人が暗闇の中で明るいものがどう見えるのかわからなかった。夜盲症という夜目が効かない類似現象は知っていても、鳥の亜人が言うそれとは異なる可能性があった。暗闇の中では明るいものですら暗く見えるだけかもしれないし、もしくは暗闇では焦点が全く合わず明るさを認識できてもぼやけるだけかもしれなかった。なので試してもらうことが一番手っ取り早いと考えた。各明るさの蓄光テープを、暗いものから明るすぎる蓄光テープまで揃えて、試してもらった。


 結果としては、とある明るさの蓄光テープがピタリとハマり上手くいった。


 鳥の亜人がどういった理由で蓄光テープならば眠気も覚めずに明るさを認識できるのか、わからないままだが、私は科学者ではないのでそれは私の仕事ではないと割り切った。


 私にとっては白鳥さんの顔から目のクマが薄くなった方が重要なのである。


「眠れてるみたいで私も提案した甲斐があるよ」


 私はそう言って自身の涙袋あたりを指差した。


「ほんと助かったし。毎朝鏡の前で隠すの大変でさー。今はほとんどスッピンでも大丈夫になって楽になったからほんとあんがとね!」


「私も白鳥さんが悩みから開放されて良かったよ」


 本当に良かった。


 純白のドレスのような羽を持つ彼女の顔が酷い目のクマがあると、まさに画竜点睛を欠く、といったことになってしまう。


「うちの親もさーあれ気に入って至る所に貼りまくって、逆に明るすぎて眠れなくなっててマジウケた」


 大人になると驚きが少なくなってしまい、便利なものを見つけるとやり過ぎてしまうことがある。気持ちはとてもわかる。私も手を出してこなかったデパコスに触れて感動し、安物に手を出せなくなったものだ。


「……てかさ、美月っちって人から相談され慣れてる?」


 ニコニコと綺麗になった顔を観察していると、ズズズッとなんとかフラペチーノを音を立ててストローから吸い上げた白鳥さんがそんなことを口にした。


 たしかに前世で警察という職業柄や部下を持つ役職も加味すると、それなりには相談されることに慣れているといえる。


「家柄的に相談……というより色々尋ねられることが多かったからかな。それで慣れただけだよ」


「はーっ、やっぱメイドさんいる家の子は違うね。うちもそれなりに裕福だけど、本物とは格が違うわ」


「……褒め言葉として受け取っていいよね?」


「うん、めっちゃ褒め言葉だから」


「安心した」


「てかさ、めっちゃ世話になったのに貶すなんてありえないっしょ。つか、それで一つ提案あんだけど大丈夫?」


 若干ではあるが若い子特有の、話の展開の早さについていけなくなっている自分がいると認めつつ「とりあえず話してみて」と話を聞く覚悟を決める。


 だいたいこういう提案はとんでもないことを言い出すのだ。


 前世の経験則で知っている。


「うちがさ睡眠不足治ったって話したらさ、他の人も相談したいって頼まれたわけよ。相談受けてくんない? 学校生活でなんかあったらカバーするからさー」


 頼まれごと自体は問題ない。どんとこい、とまではいかないものの文字通りの意味で、微力を尽くすぐらいならしてあげても構わない。ただ、やはり、交友関係が広がると私が男であると露見する可能性が高くなってしまう。


 しかし、潤滑な学生生活を送る上で交友関係は広いに越したことはないのもまた事実である。


「どんな悩みだったりするの?」


 とりあえず聞いてみてからでも遅くない。


 男であるとバレそうな悩みなら手を引けばいいのだから。


「んー魔女の子なんだけど、デブったから助けてってやつ」


「引き受けましょう」


 思わず了承の意味を口にしてから私は、私が何を口にしたかを理解して頭を抱えた。


 でも仕方がないのだ。


 お腹周りは痩せにくいから、肥えた子が痩せたいと願うなら助けてあげたいのが美の求道者としての性なのだ。










 寮に帰宅後、そう奈緒に言い訳をした。


「今回は多目に見ますが、次は気を付けてください。クラス外だと自分でもフォローに手が回らないことがあるのですから」


 まるで浮気をした夫を許す妻の言い方だった。結婚経験はないためトレンディドラマの受け売りであるが。


「もしも白鳥さんにバレてたらどうするつもりだった?」


「使用できる手段という手段全てを用いて脅します」


 こう口にしているが、それをしたら僕の命を狙う人に居場所がバレる可能性があるからできないはずだ。それなのにあえてこう言うということは、そういうことなのだろう。


「そんなに白鳥さんのことが嫌い?」


「好き嫌い以前に、人間誰しも分かり合えない人間がいます。無理矢理一緒にしようとすれば戦争しかありません。私にとって、その人間が白鳥なだけです。他に何かあります?」


 その理由を聞き出したいと思ったけれど、やらかした直後ゆえ、またの機会に取っておくことにした。この居心地の悪さ、まるで本当に浮気がバレたような気分だった。

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