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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
13章 女装家、最後の思い出

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卒業式後に街に出掛けるのが卒業の醍醐味

 卒業の日。


 晴れ渡る青空のもと、つつがなく卒業式は執り行われた。


 卒業式には私の両親や西野さん、神宮寺くんらが参列していた。


 先日、神宮寺くんにだけ、オフレコと約束して奈緒が行ってきたことの顛末を伝えた。色々手を回して貰ったのに彼の手柄を作れなかった私なりの詫びであったが、神宮寺くんはその意図を正しく理解してくれた。


「御子息、少し見ない間になんだか若々しくなりましたね」


「挑戦したいことがようやく見つかったんだ」


「人生チャレンジっすからね」


「競馬はチャレンジとは言わないよ」


「それは言わない約束でしょ」


 笑い声交じりに私らの和解が成った。


 今まで私を見守ってくれた方々が参列するから、今日の挨拶は頑張ろうと意気込んでいた。


 こうして迎えた清麗様として最後の公務である卒業挨拶は、少しばかり失敗してしまった。


 この一年、明華女学院で過ごしてきて、様々な問題に突っ込んできて、これで卒業かと思うと寂しくなり、柄にもなく感極まってしまったのだ。


 用意していた原稿を置き、ありのままの気持ちを伝えた。非常に拙い言葉に想いを載せ、たどたどしい感謝を綴った。思い出すだけで赤面しそうになるが、それが逆に良かったのか、涙する生徒も現れた。スピーチを終えて壇上から降りる際、校長から「良い挨拶でした」とお褒めの言葉を頂いた。


 よほど良い挨拶だったのか卒業式のあと、教室に戻ったあと白鳥さんに「あれは清麗様の偉業として語りつがるね!」とイジられた。ちなみに白鳥さんは卒業式の最中も一切涙を浮かべず、笑みを絶やさなかった。一人だけニコニコしている様は壇上から見ると、とても目立っていた。


 今は卒業式を終えて、最後の思い出作りに街へと繰り出していた。


 卒業旅行を控えている子たちもいるらしいが、受験を控えている生徒や一人暮らしの準備など多くの生徒は四月まで忙しくそれどころではないため、これが最後の思い出となる。卒業式よりも、卒業式のあとにこうやってダラダラといつまでも帰らないで話しているのが思い出になったりする。


 最初は同じクラスの人たちで帰っていたのが、他のクラスのグループと合流して、それを繰り返していつの間にか大人数になったりしていた。


 大人数にもなると顔見知り程度で話したことのない者同士が出たりしたが、旗頭扱いされた清麗様である私と類を見ないコミュニケーション能力で同じ学年のやつ大体友達な白鳥さんがいたことで「この人と知り合いならいてもいいか」と解決していたようだ。


 そんな大人数で遊んでいても、時間が過ぎるにつれ、それぞれ帰路についていく。


 最後は私と奈緒、白鳥さんの三人が残った。


「そろそろ私たちも解散しようか」


 私の提案に二人とも渋った様子だった。


「最後、なんかやって締めてから終わりたいよねー」


 白鳥さんが腕を組み、うんうん唸る。


「そうだ! プリ撮ろ!」


 白鳥さんの言葉に、私と奈緒は先日の醜態を思い出し、同意を示せなかった。


 そのあからさまな態度は白鳥さんの興味を惹き、先日の醜態と撮ったプリクラを提供するところまで直滑降だった。


「証明写真じゃん、うける」


 白鳥さんは一通り笑ったら「それじゃプリ撮りに行こ!」と先陣を切る。


 私と奈緒はそれを追いかけ「もう一度醜態を晒せと言うのか」と抗議すると、あっけらかんとした顔で「あたしいるし問題なくない?」と頼りになることを言った。


「卒業記念にプリクラの盛り方すら知らないお嬢様方に、ギャル流の盛り方ってやつを教えてあげっから」


 こうして撮ったプリクラは可愛いポージングに、やりすぎとも言える加工の末、私たちとは別人になった。これでは私たちで撮る意味などあるのだろうかというオッサン的思考になったが、奈緒はこれをいたく気に入った様子で嬉しそうにずっと眺めていた。


 奈緒は白鳥さんの名前を呼ぶ。


「アンタと友達になれて良かったわ」


 突然の感謝に白鳥さんは固まる。


 言葉を頭の中で噛み砕き、意味を理解したのか、じわりと涙が浮かんできた。


 奈緒に抱きつき、えんえんと子供のように泣きじゃくる。


「あたしも親友になれてよかったぁとおもってるぅ〜」


「誰が親友よ!」


「ズッ友だよぉ〜」


 離そうとする奈緒、しがみつき離れようとしない白鳥さん。


 これも思い出だと思って、最近覚えたスマートフォンのカメラ機能で状況を切り取った。


 一生忘れられない良い思い出が残されていた。

13章『女装家、最後の思い出』はこれにて終了です。

明日は『エピローグ』です。


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