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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
13章 女装家、最後の思い出

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そうだデートをしよう

 午前授業で午後の予定はなく、善は急げということですぐにデートすることにした。真面目な奈緒は「受験勉強はよろしいのでしょうか?」と確認してきたので「気分転換だよ。夕食までには帰るよ」と大義名分を掲げたら「そういうことでしたら付き合います」と準備をしに寮の自室へと向かって行った。


 私も自室へ戻り、制服を脱ぎ捨て、余所行きの装いへと改める。


 寮から出ることを考えると女装を辞めるわけにはいかないので、ボーイッシュに近い格好を意識する。ジーンズに白シャツをベースに、細身シルエットのモッズコートを重ねる。ブーツも合わせれば、ちょっとしたミリタリーコーデの完成だ。これに外しアイテムとして丸ぶち眼鏡だったり、キャスケットでも被れば可愛さアピールもできるだろう。ただ、今回の趣旨から外れるので、それらは身に着けない。


 今日は少し遠くの繁華街まで足を伸ばそうと思っているため、奈緒と一緒に出かけることになっていた。出発時間になり、奈緒の自室まで足を運び、呼び鈴を押した。


 少しして、おずおずと、恐る恐ると、ゆっくり扉が開かれた。


 そこにいた奈緒を見て、驚いた。


 薄ピンクを基調としたロングスカートワンピースに、ショート丈の白いダウンジャケットを重ね、モコモコのブーツというガーリーファッションな奈緒が現れたのだ。


 数年ぶりに奈緒の私服を見たが、彼女のイメージとも趣味とも違っていたような気がする。いや、お年頃になり趣味が変わったといえばそれまでなのだが。


 私が驚き、黙っていたのを「似合っていない」と誤解したのか奈緒は「やっぱり似合いませんよね……」と扉を閉めて部屋に戻ろうとする。


 厄介な営業マンよろしく扉に足を噛ませて、扉を止めた。


「驚いただけだよ。服の趣味変わった?」


 奈緒は恥ずかしそうに俯く。


「服の趣味が変わった……というか自分で買った私服ないんです」


「え、でもその服は?」


「以前、メイドの子たちと会う機会あったじゃないですか?」


「ああ、ドレス買いに行った時だよね」


「その時、一人制服だった自分を見かねて後輩たちが気を利かせて服を送ってきたんです。これは後輩が選んだ趣味のものです」


 メイドの子たちがこの服を選んだ風景が目に浮かぶ。落ち着いた雰囲気の格好を好む奈緒に送るのだから、奈緒が自分で選ばなそうな系統を送って寄越したのだろう。善意半分、悪ノリ半分といったところだろうか。まあ、綺麗な子を着せ替え人形にしたい気持ちはわからないでもない。


 それを律儀に着る奈緒だからこそ選び甲斐もあるのだろう。


「うん、似合うよ。可愛らしい」


「そう言って頂けると選んだ子たちも浮かばれます」


「まだ死んでないけどね」


「自分の趣味を知っておきながらこういうものを選んだので、あとで浮かべる状態にします」


 メイドの子たちが心安らかに逝けることを心の片隅で祈りつつ、私たちのデートは始まった。


 小一時間カラオケで喉を震わせたり、パフェに舌鼓を打ったり、ゲームセンターで互いに慣れないゲームに四苦八苦したりした。また、ゲームセンターの帰り際、記念にとプリント倶楽部なるものに挑戦したのだが、二人ともポーズがぎこちないし、写真をどう加工すればいいかで「どうするどうする」と慌てふためいて、意味のわからない水玉を入れて終わってしまった。こういう時、こういうことに慣れている子が先導してほしいと思ってしまう。


 最後のプリクラで精神的に疲れてしまい、寮へ帰る前に喫茶店で一休みすることにした。


 私はアメリカンコーヒー、奈緒はカフェラテを頼み、向かい合わせの席で一休みしていた。たまたま空いているタイミングだったのか、他の客の姿はなかった。


「今度、プリクラ撮る時は白鳥あたりを連れてきましょう。自分では力不足でした」


「遊び慣れてないと、ああいうのはテンパっちゃうね」


「お嬢様は仕方ありませんよ」


 二人して全く盛れていないものを見て苦笑する。


「……せっかくの機会です。高校生活でやり残したことがあるのならば今日やってしまいましょう。他に何かございませんか?」


「なんだかんだやりたかったことはやってきた一年間だったからないかなぁ」


「それは重畳です」


「あ、でも一つだけ奈緒に確認したいことがあったんだ」


「……何か報告漏れなどありましたか」


 奈緒はメモ帳をカバンから取り出し、タスクの確認をする。


 けれど漏れなどなかったようでクエスチョンを頭に浮かべて私の顔を見てくる。


 アメリカンコーヒーで口を潤す。


「拉致を唆したのって奈緒だよね?」

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