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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
1章 美しい肌は適切な睡眠時間から
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鳥目は夜に弱い

 街は奇麗に小ぢんまりしていた。


 服屋は系統ごとに数店舗、あとは雑貨店や喫茶店、書店。ゲームセンターは一店舗。近くに高校がある街にしては物足りなさを感じられる。ただ、都会に比べれば小ぢんまりしているこの街だが、まとまっていた。都会の喧騒という雑多で混沌としたものはない。清く正しく整然と小さくまとまっていた。


 治安の良い街ということが伺える。


 たいてい女子高近くには変質者が出やすいというのが相場であるが、街を歩いていると何度もパトロール中の警察官を見かけた。おそらく、過去に変質者が相次いで出没したため、パトロールを増やし続けた結果、治安が回復したのだろう。


 そんな街で白鳥さんは浮いていた。


 小さく奇麗な街で彼女の姿は街の目を引いた。皆が彼女を見る。街に似つかわしくないギャルというファッションという点もあったが、それ以上に両腕から生えた純白の羽がドレスのように見えたからだ。


 目立つ彼女は警察官とも顔見知りらしく、すれ違う警察官一人一人に名前を呼んで「お仕事お疲れ様でーす!」と雑な敬礼をして、苦笑いで敬礼を返されていた。


 白鳥さんの行きつけの喫茶店に入る。彼女は店員さんと軽口を叩き、手早く注文を済ませ、席につく。私はカフェオレを、彼女は何やら長い呪文のような名前のものを頼んでいた。


「白鳥さん、凄いね。みんなから注目されてる」


「でしょー。あ、でも今日はいつもより見られてたかも」


「……どうして?」


「そりゃあ、うちらみたいなカワイイ子が歩いてたら見るっしょ。見なきゃそいつの審美眼が腐ってるか、逆に芸大に行ってそのアバンギャルドな感性を活かした方が世のため人のためだね。……てか、まじでなにその綺麗な肌。どうやればそんなんなれんの?」


「基本的にはちゃんと睡眠時間を確保すること。あとはスキンケアをサボらないとか、かな」


「あーやっぱりちゃんと寝なきゃ駄目かー」


 私は気になっていたことを訊いてみることにした。


「ねえ、目のクマさ……隠しきれてないけど夜眠れないの?」


 白鳥さんは両手で目を覆い隠す。


「うわ! はずっ! 気づいてたなら教えてよ!」


「さすがに初対面の人に言うのは憚られるかな……」


「まーしょーがないか。でも明日からは教えてね」


 私が頷くのを見ると、白鳥さんは続ける。


「そんで、このクマなんだけど、美月っちの言う通り、眠れないの」


「なにか悩み事でもあるの?」


 そう訊くと、白鳥さんは肘をテーブルにつき、怖い顔をする。うつむき、まるで何か重要なことに足を踏み込んでしまったかのようだった。


「実は……」


 そう言って、言葉を濁す。


「言いたくなければ大丈夫だよ」


 力にはなりたいけれど、私も隠し事をしている身である。


 下手に悩みに突っ込んでボロを見せるのはまずい。


「――うん! 言う!」


 悩みが突っ込んで来た場合、私はそれをいなす術を知らなった。


 愚直に警察官をやってきたツケがここで返ってきた。


「うち、明るいと眠れないの……」


 思ったより深刻ではなさそうな悩みに私は安心した。


「うち、こんなんじゃん?」


 白鳥さんは片腕を挙げて、ヒラヒラと翼を見せてくる。


「鳥の亜人ってさー夜目がまったく効かなくてさ、暗くすると途中でトイレ行こうとすると電気すらまともにつけられないし、かといって明るくするとマジで目が冴えすぎて眠れなくなるんだわ。マジどうしたらいいかなー」


「夜暗くても電気つけられるようにしたらいいんじゃないかな」


「みーんな、それ言うけどできない人もいるんですー。スマホとかのライトとかで照らしてみたりもしたけど、その明りでも目が冴えるからマジどうしようもない。新しい家だとリモコンでピッと電気つけられるんでしょ? 古い家だから、そこだけマジでリフォームしたい」


「……なるほど。じゃあ明るい部屋でも寝られる工夫とかそういう方向かな」


「アイマスクとかもやってみたけどさ、顔がムズムズするし、しまいには耳が痛くて駄目だった」


「そうなると取れる手段は限られるね」


 私がそう言って腕を組み、悩んでいると「え、まだ手段あることに驚きなんですけど」と驚かれた。


「ホームセンターに売ってると思うけど、ホームセンターってどこにあるの?」


「ホームセンターってなに?」


 明華女学院の生徒である彼女たちは、他のお嬢様学校と比べてどんなにお嬢様に似つかわしくない生活を送っていたとしても、お嬢様だということを失念していた。

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