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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
13章 女装家、最後の思い出

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やり残したこと

 年が明け、冬休みも終わり、大学入学共通テストも乗り越えた明華女学院の三年生たちは少しばかり浮ついた雰囲気が漂っていた。自己採点の結果如何というところもあるが、そこはなんだかんだ優秀な子女たちゆえ、悲壮感を漂わせた子は少なかった。


 私も問題なく、このぐらいの点数だろうと目安をつけたラインには到達し、あとは二次試験でこけないように勉強するだけだ。それに加え、合格ラインには以前から到達していたこともあり、余裕すらあった。もちろん解答欄が全てずれていたりなどのケアレスミスをしない方に気を使う必要はあるが、その程度だ。ただ、その程度のミスで命取りになるから受験というものは恐ろしい。


 大学入学共通テストを、名前が変わる前の共通一次とかセンター試験などと言いかけないようにするのと同じだ。言い間違えて、名前が変わったことすら知らなかった白鳥さんにポカンとされるようなことを繰り返してはいけない。邪気もないのでアレはことさら自分が古い人間だと自覚してしまうから、心にくるのだ。


「奈緒っち、おはよー」


 そう自分に言い聞かせていたら、事情を知ったあと「おばあちゃん、いつの時代の話をしてるの?」と心を抉ってきた白鳥さんが登校した。


「大学合格組はもう人生のモラトリアム期間に突入できてマジ羨ましい」


 白鳥さんが言うように、推薦合格など入試とは別形態の受験で受かった人たちは、この時期から登校しなくなっていた。サボりというわけではなく、卒業に必要な単位は取り終わっており、もうこの時期から新しく習うことなどないので、各自必要に応じて登校しているだけである。部活動が評価された組は、こちらには顔を出さずに入学に備えて鈍った身体を鍛え直していたりする。


「白鳥さんは受験上手くいきそうなの?」


「んーびみょい。英語とかわけわからん過ぎて死んだ。英語ないとこ併願検討中。奈緒っちは?」


「本試験でコケなきゃ大丈夫かな」


「うわーできる人は違うわー」


 机に突っ伏して、ああああ、と項垂れる白鳥さん。


 それを見て面白そうと思ったのか飲カフェインで反省文をしこたま書かされたと噂の吾妻さんが「どしたの?」と顔を出しに来た。


「共通テスト失敗した白鳥さんを慰めようとしてるとこ」


「あー入試組は大変だね。こっちは頭悪すぎて専門学校が精一杯だったから逆に楽だったわ」


「たしかファッション関係だっけ?」


「そ。ま、ファッションじゃなくて音楽で食っていく気だけどね」


 白鳥さんは顔をあげる。


「おかーさんとか文句言わなかったー?」


「音楽で食っていくつったら、せめて専門学校ぐらいは行ってくれって泣きつかれたから互いに落としどころはそこしかなかった感じ」


「うわぁうらやま。勉強とか嫌だからさっさと終わりたいー。どこでもいいから入ってキャンパスライフエンジョイしたいー。志望校受かるまで何回でも浪人していいからねって親の優しさが痛いのー」


「下手に頭良い奴も大変だな」


「選択肢がいくつかあると一番いいの選びたくなるのが人情だしね」と私が言うと「馬鹿で良かったわ」と自慢げに笑う吾妻さん。


「清麗様は大学入ってからとか将来の夢とかあんの?」


 夢――美を追求することが夢である。


 最近、もう一つの夢ができた。


 誰でも、どんな夢でも、夢見続けられる社会にしたい。そういう価値観を守れる社会の在り方を模索したい。


 ただまあ、そんな大それたことを言うのは気恥ずかしいので「大学でそれを見つけたいな」とお茶を濁してしまった。


「そういうことなら、あとは高校生活でやり残したことやんないとな」


 高校生活でやり残したこと。


 そう問われて、私は困ってしまった。


 高校生活でやりたかったことはやってしまっていた。とは言っても、やりたかったことは美の追求であり、それは満喫できた。


 他にやり残したことはあっただろうか。










 午前中だけで学校は終わり、その放課後、奈緒と一緒に寮に帰宅していた。


 そこでふと思い出す。


「そういえばやり残してたことあった」


 奈緒は怪訝な目をこちらに向ける。


「……また何か頼まれごとでもあったのですか?」


 私は首を横に振って否定する。


「デートしよう」


 それは色々あってお流れになっていたことだった。


 それに私たちの関係について確認したかった丁度良かった。

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