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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
12章 クリスマスは子供のもの

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話術は剣

 受付を済ませ、パーティ会場に入る。


 私は後発だったのだろう。既に多くの参加者がパーティ会場に入っていた。彼女らが身に着けている衣服は実に多種多様であった。私のように王道のドレスもいれば、あえて私服で来る人もいる。アラクネの吾妻さんなんかはまさにそれで、彼女の趣味であるビジュアル系の黒でまとめ上げた格好をしていた。私の語彙力が乏しく彼女の服装を示す言葉が思いつかない。ただ、お耽美な世界観とそれにかける情熱は伝わった。また、中にはネタに全力を出さなければ済まない人種もいるらしい。ご丁寧に髭までつけた全身もこもこのサンタ姿で、袋を担いでホッホッホッなどとパーティ会場をうろつき回る人もいた。


 会場はきらびやかな飾り付けが施されており、クリスマス成分は申し訳ない程度。たしかにこれは過去の清麗様が卒業したくないと駄々をこねてできたパーティなのだなと感じた。みんなで集まって食べて歌って笑いたいという意思が継承されていた。


 また、立食パーティ形式でもあり、いくつかの長テーブルに豪華な食事が並んでいた。その周囲には「どれから食べようか」と下見する食いしん坊さんたちがパーティ開始を今か今かと待ち侘びていた。ダイエット成功してどうにか体型をキープしている人狼の美紗さんもその中に紛れ込んでいた。


 会場の脇は、ホールとなっており、そこでダンスを披露するのだろう。そこはまだ旬のスペースではないらしく、数人程度のグループがワイワイと簡単な振り付けを見せあい、じゃれついていた。


 パーティ会場の奥に進むと、マイクやスピーカーなどの機材が置かれたスペースに行き当たる。そこには笹原さんや奈緒など、見慣れた人たちが集まっていた。笹原さんは肩を露出したスマートなパーティドレス、奈緒は黒を基調としたシンプルなロングドレスだった。


 笹原さんが私の姿を見つけると、手を振ってくる。


「三宮さん、ごきげんよう。まだ始まっておりませんが、楽しげな雰囲気でしょう?」


「あのサンタクロースがえらい楽しんでることは伝わりました」


「あそこまで楽しんでくれるならこちらとしても願ったり叶ったりですわ」


「私もああいう格好してみたいですね」


 若かりし頃、雑用で警察マスコットの着ぐるみを纏ったのを思い出す。暑苦しかったが、子供たちと一緒に写真を撮ったのは良い思い出だ。中にはローキックをかましてくる悪ガキもいて、止めない親を恨んだりしたが、これさえも今や良い思い出になっている。


「あら、案外お茶目なんですね」


 ふふ、と笑う笹原さん。続けて「そういえば星さんはまだご実家の用事で寮に戻られていないのですか?」と尋ねられた。


 あれから星さんは、実家の事情ということで公休扱いとなっている。コトがコトだけに表沙汰にできないゆえの扱いだ。本人は堂々とサボれてラッキーでござる、なんて笑っていたが、警護されるために軟禁に近い生活を送ることになっている。この世界の日本でも、証人保護プログラムというものはなかった。ゆえに今の生活を数年続けるか、私のように半私的に身を隠す生活を送るかの二択に一つだ。


 身の安全が保証される何かがあれば話は変わるのだろうけど。


「星さんは少なくとも卒業式近くまでは登校できないみたい。最悪、卒業式出ないまま卒業になりそう」


「それはお気の毒に……」


 星さんは懐いていた星さんに心配されて本望だろう。いや、死んだわけではないのだが。


「ところでそろそろ開始の時間だけど、笹原さんが進行で大丈夫?」


「はい、わたくしが司会進行しますので、挨拶はお任せします」










 挨拶は、今回もまた無難なものに収めた。


 面白いものを、と期待して下さっていた方もいるらしいが、期待に応えられず申し訳ない。どうしても私には冗談の才能というものがないらしく、みんなを笑顔にさせるスピーチというものがわからない。昔は、それこそ前世にまで遡るが、時折思い出したかのようにチャレンジ精神が湧き出でで「今日こそは」と挑戦してみるけれど、滑り倒したり、キョトンとされたりするのだ。心を折られ続け、いつしか面白いことを言うのを諦めていた。


「清麗様。お久しぶりです」


 そう言って現れたのはケンタウロスのカナちゃんだった。彼女のドレスは、水色で超ロングドレスともいうべきものだった。人の上半身部分はワンピースのようによくあるものだが、スカート部分は馬の下半身を全て覆い隠すようなとても長いものになっていた。


「カナちゃん、久しぶり。彼とはどんな感じ?」


「お陰様でまだ続いております。昨日のイブは二人でデートも出来ました」


「続いてるようでなりより。私としても君たちの仲が睦まじいなら協力した甲斐があったよ」


「ほんと感謝してます。ところで清麗様って本日はどなたと最初に踊る予定ですか?」


 カナさんが言ったのはホールで踊ることを指しているのだろう。ただ清麗様ということを考えたら、何か別の意味合いが生まれているのだろう。私も学習したのだ。


「無知だから教えて欲しいのだけれど、清麗が踊ることに何か意味が生まれるの?」


「意味というよりジンクスに近い……かな。清麗様と踊ったら良いことがあるっていう。後輩と踊ったら後輩が次の清麗様になったりとか、同級生と踊ったらその方が卒業後世界を股にかけて活躍する偉人になったとか色々。まあ、もちろんそうならなかった人が大多数なので、一番は自慢ですかね」


「なるほどね。けど、まだ考えてないかな」


 下手に誰かと踊るのは避けた方がよさそうであった。踊るにしても、誰と最初に決めておいた方が賢明だろう。踊って波風が立たなそうなのは選挙で争った笹原さんか私のお付きと認知されている奈緒あたりだろうか。


 そう考えたところで、懐かしい顔が現れた。


 シルバーグレイの髪にレザージャケットとジーンズというロックな格好が実によく似合うファンキーな方だった。


「小娘、悪いけど話し相手譲ってくれないか?」


 夏以来の久子お姉様だった。


「清麗様、こちらの方は?」


「先々代の清麗様だよ」


「え! あ、す、すみません。ここで失礼します!」


 カナちゃんはそそくさと立ち去った。


「……久子お姉さま、お久しぶりです。今日はどういった御用向きで?」


「可愛い後輩を見に来ちゃ駄目ってのかい」


「そうは言っていません。こういうことに興味はないと思っていましたので」


「そうだね。興味ないよ。興味あるのは後輩が誰と踊るのかということさ。アタシの後釜で、アンタの先立は誰とも踊らなかったからね。そんなつまらない真似しないように監視さ」


 グランマは誰とも踊らなかったらしい。


 そんなグランマと同じようなことはさせまいと先々代の圧力をかけに来たというところだろう。


「さて、誰と踊るんだい?」


 ニヤニヤとする久子お姉様。


 この厄介な先輩をどうしたものかと悩んでいると、間に入ってくれる先輩が現れる。


 グランマだ。


「久子お姉様、お久しぶりです。夏にお電話いただいて以来ですかねぇ」


 そう言って割り込んで来たグランマはもう一人、小さなお客さまを連れていた。


「バドちゃん?」


 虐待する親から保護した子だった。もうあれから半年が経ち、血色も良くなり、綺麗なべべを着て、めんこかった。


「久しぶり……!」


 バドちゃんは私の腰に抱きついて来たので私はそれを受け止めて、頭を撫でてあげる。


「可愛くなったね! 元気だった?」


「……うん、ちゃんとご飯食べれるし、血も貰えるの」


 私たちがそんな会話をしてる横で久子お姉様はグランマに訊く。


「この子はアンタの孫か何かかい?」


「いいえ、以前三宮さんが保護した子です。今日は三宮さんがパーティに出るので、せっかくだからと施設から連れてきていますの」


 久子お姉様はタメを作って「……なるほどねぇ」と察した顔をした。


「ま、アタシから言いたいことは言ったさ。あとはアンタがどうするかを見届けたら帰るよ。いや、もう一人顔見たい奴がいるんだった。海の家の手伝いさせた時に不機嫌だった嬢ちゃんはどこいるんだい?」


 そういえば今日奈緒の姿を見たのは、パーティが始まる前の少しだけであった。いつもなら、こういう催し事がある時は私の側にピッタリ付いて回るというのに珍しいこともある。


「ちょっと探してきたいと思います」


 バドちゃんをグランマに返し、一礼してパーティ会場の回ることにした。

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