ドレスは鎧
まるで師走のように慌ただしかった霜月を走り抜け、勢いそのままに気が付けば師走も終わりを迎えようとしていた。つまりはクリスマスパーティ当日になっていた。
長く続いた事件を解決し、後顧の憂いも断ち切れた。
あとはクリスマスパーティで英気を養い、年明けに待つ受験に備えるだけだ。
先日購入した真紅のドレスに身を包む。
姿見の前に立ち、いくつかポーズを決める。
プラチナブロンドの髪に、真紅のドレスが映えて美しい。それに加えドレスの生地であるベルベットがそれをさらにエレガントな印象に仕立てている。化粧で底上げしているとはいえ、これが自分の姿だと未だに思うと未だに違和感がある。
前世の私は筋骨隆々で女性らしさの欠片すらない容姿をしていた。
私の認識ではあちらが本当の私で、こちらの私は体を借りているという認識に近い捉え方をしている。
だからだろう。
この借り物の体で、思い切り女装を楽しめるのもあとわずかということに未練を感じるのは。
卒業を機に体が元に戻るシンデレラという訳でもないのだから、開き直ればよかろうという本音はある。
ただ、借り物の体、借り物の人生で、自分本位に振る舞えるほど、私は私に自信がなかった。
みんなから求められるように振る舞うことこそが私が私である自己の確立だった。
前世から何も変わらない。
私は私であることに自信がないのだ。
深く息を吐く。
どうやら柄にもなく少々ブルーになっているようだ。
卒業前の思い出作りだ。楽しまなければ損だ。今は全てを忘れて楽しもう。
時計を確認すると、時間はパーティ開始時刻の五時まで残り十数分を指していた。今から出れば、ちょうど良い頃合いだろう。
部屋を出ると、グランマと出くわした。
グランマは他所行きの、それこそ催し物に出るときのような綺麗な格好をしていた。
「お疲れ様です。グランマのそのような格好初めて見ました」
「一年に一回しか着ないからねぇ」
「どこかにお出かけで?」
「あら、聞いてないの? クリスマスパーティには外部の人も呼んでいるのよ。もちろん三年生が主体ってことだから、三年生がお世話になった人限定だけどね」
「そうだったのですね。初耳でした」
「あらあら清麗様だからかしら。みんな知っているだろうと思い込んでるのかしらね」
「その節はありますね」
教えてくれる人がいなかったので準備までしたのに学園祭でキャビンアテンダントの格好が出来なかったことが思い出される。
「ふふ、ならせっかくだから何か訊きたいこととかあるかしら?」
「他に知らなそうなこととかあったりしますか?」
「そうねぇ……サプライズゲスト呼んだりしたから期待しててね」
「心臓に悪い人でないことを祈りたいですね」
それでは、と別れてクリスマスパーティの会場へ向かう。
その道中、誰がサプライズゲストとして呼ばれるのか考えてしまい、頭の中で反復しようとしたスピーチの練習が全くできなかった。




