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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
11章 気づけば年末

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制服やスーツばかりだと私服がどういう趣味してるのか気になる

 ドレスを購入する日の早朝。


 自室の窓を開けて、外の風を取り込んだ。


 外は、秋の装いも潜み始めて、冬の顔がひょっこり出始めたような天気だった。風は体の芯を冷やすように、空気からは水気が抜けたように。それでも日差しだけは秋晴れの名残りを残して、気持ちよさを感じる暖かなものだった。


 出かけるには最適な天候と言えるだろう。


 久しぶりの学外だった。先々月襲われたせいで、学外にから出ることがなかった。部屋着と制服を交互に着ていただけで、おしゃれというおしゃれができなかった。


 だから、ちょっとばかし、いや、かなりワクワクしている。


 どんな格好をして出かけよう、どんなドレスを買おう、そればかり考えてしまって、昨日はあまり眠れなかった。我ながら美に関わることとなると、思考回路が小学生のそれと変わらないのは情けない。前世も含めると老齢と言っても過言ではないのだから、少しは大人になりたいものだ。


 窓を閉じ、カーテンを閉めて、寝巻きを脱いでシャワーを浴びる。


 シャワーの後は簡単なタオルドライをして、肌が乾き切らないうちに様々な化粧水、乳液でスキンケアをする。ちなみに奈緒にも同じ種類、量のスキンケア用品を渡しているが、面倒だからとオールイン化粧水でバシャーと塗りたくって終わっている。


 髪をドライヤーで乾かしつつ、簡単に流れを整える。細かいセットは後回しだ。


 昨日から準備していた服に袖を通す。


 今日はダボついたパーカーにロングスカート、そこにデニムジャケットを一枚羽織るコーディネートだ。制服でお堅い格好が多かったからか、その反動でカジュアルな格好を楽しみたかったゆえのチョイスとなる。


 その思いは毛先にも出ており、普段は髪が痛むから避けているコテを使って、毛先で遊んだりしてみた。巻き髪を作るのは、工作めいていて、女装しているはずなのに小学生男子の童心に帰るようで楽しかったりする。


 化粧は格好に合わせて、薄めで悪目立ちしないように、と心がける。コンシーラーで気になる部分を隠し、肌のキメを整えて、素材感を演出する。


「うん、あとは朝食の後にでも口紅を塗れば完成かな」


 鏡の前で角度をつけた自分を見て、おかしな点がないことを確認しているとチャイムの音が飛び込んでくる。


「お嬢様、自分です」


 奈緒だ。


 扉を開けて、迎え入れる。


 奈緒は私を見て、目をまんまるにした。


「お嬢様、準備するにしても気が早いのでは?」


 扉を締める。


「久しぶりに私服を着るからね。待ちきれなかったんだ」


「まったく子供じゃないのですから」


「大目に見てよ。せっかくの秋服が出番なくてタンスの肥やしになったままになりかけていたのだから」


 身に着けた衣類を見せつけるように両手を広げてアピールする。


 しかし、オシャレに興味がない奈緒は反応を示してくれなかった。


 なので「それで用事は?」と話を進めることにする。


「外出に関して相談したいことがあります」


「先日、決まった話では? 店に何か問題があったのか?」


 私たちが本日向かう店は学院から近い繁華街にある。その店は私の両親が経営する企業の系列にあたり、本日は貸切に近い形で利用できるように手筈を整えてもらった。また、実家のメイドたちにも出張ってもらい、従業員に扮した彼女らが私たちの応対をすることになっている。これならば着替えの際に男だとバレても事情を知っている人だから問題ないはずだ。


「店は問題ありません。自分の後輩たちからは、自分やお嬢様に会いたいと連絡があったりしました。問題……というほどでもありませんが、あの記者についてです」


「西野さんがどうかしたの?」


「その西野という人物ですが、素性を探っていたところ現在、マスコミから足を洗い、動画配信者として下積みをしていると判明しました」


「それじゃ今いる西野さんは誰なんだい?」


「不明です。彼女自身の素性は全く追えませんでした」


「このことは警察関係者には伝えてある?」


「いいえ、まずはお嬢様の耳に入れようと思い、こうして足を運んだ次第です」


 考える。


 内通者は誰かは既に判明している。


 ゆえに内通者ではない組織の人間である可能性はある。


「ありがとう。でも気にしなくても大丈夫だよ」


「ですが……」


「街中の至る所に護衛が配備されているし、無防備になりがちな服屋もボディーガードとしてメイドたちがいるから私は問題ないよ」


「お嬢様がそう仰るのでしたら自分はそれに従うだけです」


 奈緒はそう言って自室に帰って行った。










 待ち合わせ場所は繁華街にある駅だった。


 駅とは言っても電車を利用する人はいないので駅から外に出てすぐの銅像前に集まることになっていた。


 私と奈緒は一緒に寮を出る。奈緒の格好は見慣れた制服であった。それ以外を着る気はないという圧を感じたため、あえて言及はしなかった。同じく寮住まいである星さんもどうせ行き先は同じだからと、寮を出る前に部屋を訪ねたのだが、もう出発した後だったらしく空振りに終わった。


 待ち合わせ場所には到着してみると、笹原さんが一番乗りであった。彼女の私服は綺麗めコーデだった。ウール素材で柔らかな印象を与えるチェック柄のワイドパンツに、落ち着いた薄緑の袖コンシャスニットソーを合わせており、大人っぽくまとめていた。シンプルなコーデゆえマニッシュな印象になりがちなものだが、ウエストリボンで女性らしさの演出ができていた。


 その後すぐ、集合時間丁度あたりに疑惑の西野さんが到着した。彼女にとっては業務ということなのだろう。いつも通りのパンツスーツという装いだった。


 時間になっても来なかったのは星さんだった。連絡先を交換していた笹原さんによると、用事があって十分ぐらい遅れると、待ち合わせ時間が過ぎてから連絡があった。


 待ち合わせから十五分過ぎた頃、走って近づいてくる人影が見えた。それは私たちの前に止まると、息を切らし、膝に手をつき、肩で呼吸していた。


 一番に反応したのは笹原さんだった。


「星さん、大丈夫?」


「かたじけないでござる……」


「用事があるのだったら言ってくれれば、集合時間遅らせたのに……」


「拙者としても長引くとは夢にも思わなかったでござるから……」


 顔を上げる星さん。


「何このまとまりのない集団」


 星さんが言っているのは服のことだろう。女子の集団はある程度、嗜好が似通う者同士が集まる傾向にある。だから私たちのようにカジュアル、制服、綺麗め、スーツなどといったジャンルがバラバラな集まりになることは滅多にないことを指しているのだろう。そう言う星さんは、スカジャンにショートパンツというヤンチャ系なファッションをしていた。「普段から仲の良い友達同士なんです」って言っても信じてもらえない集団だ。偏見に基づくが、芸能人とかそういうイメージを大事にしてそうな人の集まりだと言った方が信じてもらえそうではある。


 星さんの息が整うのを待ってから、お目当ての服屋へ移動を始める。


 道中の話題はもっぱらみんなの私服についてだ。


 私の私服については、もっとお堅い服装で来るものだと思っていたから意外だと言われた。そういう服装も用意していて、私服に強いこだわりはないと伝えると、美人は何着ても似合うからなぁと西野さんに羨ましそうな目をされた。


 同じく意外な服装といえば星さんも意外だと言われた。どちらかと言うとオシャレに興味がないイメージがあった。私は引きこもりという偏見からだったが、他の人はエルフだからという理由が大きかったらしい。なんでも森の民と言われるエルフは、自然派ゆえにシンプルな格好を好むらしい。たまにオシャレに目覚めたエルフがいても、ポケットがいっぱい付いてるとか実用的な面にハマるのが多いとのこと。ゆえにオシャレに着こなせているのが驚きだという。


 これに対し星さんはふふんと鼻を鳴らす。


「拙者これでも生まれも育ちもシティー派なエルフゆえ、そんな田舎もんと一緒にして欲しくないでござるよ」


 得意げな星さんに、笹原さんは物珍しげにスカジャンを見ていた。


「こういうの着る機会なかったの。後で羽織らせて」


「むしろ、おしゃんてぃーな方にこんなヤンキー崩れみたいなもの着させるべきではないでござる」


「今日はいいのよ。こういう服好きなのかしら?」


「いやはや、ヤンキー文化に触発された兄者の影響でござるな」


 このような流れで星さんの意外な一面を見れたりした。


 お店についてからは、道中の騒がしさはなんだったのかというぐらいには筒がなくドレスを購入できた。購入したのは真紅のベルベットを生地としたハーフスリーブ、セミロング丈の滑らかなシルエットのものだ。決め手は店員に扮した我が家のメイドたちが「お客さまにはこちらがお似合いだと思います」と言って見せてきた挙句、もうプッシュしてきたからだ。この子たちは事前に私に似合うドレスをチョイスしてくれていたのだろう。他の人の手前、いくつかドレスを見せてもらったが最初に勧められたドレスを購入する流れとなった。


 本日の予定を早々に終えてしまい、せっかく集まったのにすぐ解散もなんだかなという流れになり、どこかお昼でも食べに行こうかという話になった。


 完全プライベートに大人が混ざるのは悪いからと西野さんは抜けることになった。それを見送り、奈緒が近くの飲食店を携帯電話を使って調べていると、星さんが「すまないでござるが急用が入ったでござるから拙者抜きでやって欲しいで候」と手を挙げた。それから別れの挨拶をする暇もないまま、星さんは足早に去ってしまった。


「やっぱり忙しかったのかしら。無理に誘わない方が良かったわね」と遠ざかる背中を見送る笹原さん。


 私は奈緒に耳打ちをする。


「護衛の一部を、星さんに回すように手配して」

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