さらばキャビンアテンダント
十一月。霜月に当たる月ではあるが、立場ある人にとっては年末に備えて動く月であり、師走並みに忙しい月である。もちろん師走本番も関係各所に顔を出さなければならないため、忙しくないわけではない。
清麗様という明華女学院にとって、意味ある役職についてしまった私も例に漏れず忙しくなりそうな雰囲気を感じつつあった。
「三宮さん、クリスマスパーティはどんなドレスを着る予定なのかしら?」
つい先日、十一月に入ったばかりの頃、前生徒会長こと笹原さんが受験シーズンだというのに緊張感の欠片もない我がクラスに入ってきたと思ったら、そんなことを訊いてきた。
私としてはクリスマスパーティなんて初耳であったため、当然聞き返すことになる。
「そもそもクリスマスパーティに招待された覚えはないけど?」
「え、誰も教えてないの?」
笹原さんは周囲に確認すると、クラスメイトたちは「え、清麗様なのに誰からも聞いてなかったの」と驚いていた。後ろで佇む奈緒も首を振り、知らなかったことを示す。これは先日の文化祭の時と同じ構図であった。その時は清麗様はドレスを身につけるという伝統を知らなかったため、キャビンアテンダントの格好を密かに用意していたのが無駄になったのだ。
「……では今から教えましょう」
明華女学院では毎年、三年生のみでクリスマスにパーティが行われているとのことだ。そこでは皆、思い思いの格好をして、食事や歓談、ちょっとしたダンスをして楽しむらしい。司会進行は基本的に生徒会長だった方が行っているらしいのだが、清麗様が選出された年は清麗様が挨拶をしたりなど、幾つかやることが増えるらしい。とは言っても生徒主催の催しものであるため、公私の私的部分が大きいらしく、比較的自由に挨拶をしていいそうだ。公の部分は卒業式の挨拶で賄うとのことだ。
「それでどういうドレスを選ぶおつもりですか?」
「……ドレスじゃなきゃ駄目なの?」
「清麗様ですから一定のドレスコードは守っていただきたいですわ。お着物の方がお気に召しているのならば、それでも構いませんけど」
「いや、コスプレ的なものを――」
そう言いかけて、目の前に立つ笹原さんから無言の圧が放たれていることに気がついた。清麗様の座を巡り、争った彼女からすると清麗様を汚すような真似は度し難いのだろう。
「うん、やっぱりドレスにしようかな」
そう言うと、途端に圧は消え失せる。
「デザインはどのようなものに? 並んで立つことになると思うので、似たデザインやケンカするデザインは避けた方がいいと考えてますわ」
「……ドレスは文化祭で来たアレ一着しか今はないからなぁ」
「できれば違う衣装の方が喜ばれますからそうして頂きたいですね。……そういえば三宮さんは転校生で寮住まいでしたね。ならドレスみたいな嵩張るものは何着も持ってきていなくても仕方ありませんね。ちなみに学園祭の時はどうしたのですか?」
「あれは知ったのが学園祭間近だったから、急いで実家から送ってもらったの」
「なるほど。では今度はせっかくなので皆でドレスを見に行きましょう。来週の週末あたりに。いいですね?」
「あーうん。問題ないかな」
「それではご友人などを誘って、みんなで決めましょう。あ、他にもクリスマスパーティに向けて、清麗様として協力してほしいことがあるので手伝ってもらってもよろしいでしょうか?」
「私にできることだったらなんでも」
「色々お願いすることになります。それに奈緒さんにもお願いするかもしれないわね」
「お嬢様がやるべきではないような雑務ならば喜んで引き受けましょう」
「そう。それじゃお願いすることになるわ。それじゃいい時間とか行きたいお店とかあるのだったら後で連絡ちょうだい」
そう言って、笹原さんは教室から出て行った。
それを見届けてすぐに奈緒は私に耳打ちをする。
「私が壁となれる体育の着替えの時と違いますので、店が決まり次第、家の者を送り込みます」
言われてから確かに店の人に男だとバレた時のリカバリーは必要だと気がついた。
「そうだね。帰ってから相談しようか。気がついてくれてありがとう」
「いいえ、お嬢様の見せ場ですから万全を期すのは当然です」
そう言った奈緒の顔はやる気に満ち溢れていた。




