神宮寺レポート10
御子息が協力者に選んだのがギャルだと聞いて頭が痛くなったのは記憶に新しい。
どうして前生徒会長ではないのか。それこそメイドの子でも良かったじゃないかと思ったものだった。
理由を訊いたところ、御子息は溜めを作ってからこう言った。
「どういう人が一番恐ろしいと思う?」
「残忍な独裁者とかが一般的な恐ろしさに繋がるな」
「うん、それも正解の一つだね。ただ、得てしてそういう存在には対抗する人が出てくるものなんだ」
「協力者のギャルはそれに当たらないと?」
「完璧な人間なんていないから全くないとは言わないけれど、その逆をいく人間だと思うよ。白鳥さんは人たらしなんだ」
「人たらしが恐ろしい……?」
「人は信用を勝ち取るのが難しく、失敗しても信用を落とさないのはさらに難しい。彼女は信用を勝ち取り易いし、ギャルということから失敗しても信用を落としにくい。元々ルーズだってバイアスがかかるからね。彼女に絆されない人は、立場による利害関係がある場合だろう」
直感派の俺はこの時、小難しいこと話してるなぁぐらいで聞き流していた。こういう細かいことをしっかりしないから公営ギャンブルで負けが込むのだろう。
御子息と協力者が捜査していた一ヶ月の間、俺は明華女学院周囲の警備体制をより厳重にするため、上に掛け合った。結果として、御子息の実家からの強い要望もあり、それは叶った。警察としても、警護対象者が襲われたという醜聞に危機意識を持ち、挽回したいというアピールもあったのだと思われる。
もちろん警備体制が強化されたことは向こうにも当然伝わっているだろう。向こうも手出しは出来にくくなった代わりに、警戒して尻尾を掴ませてくれなくなった。
そのはずだった。
なのに御子息は今日、俺にこんな報告を上げた。
「内通者の正体が発覚したよ」
続けて言われる。
「確かめたいことがあるから、しばらく泳がす」
報告を一方的に切り上げられた俺は「上になんて報告すりゃいいんだよ」と一人天を仰いでいた。
追記
全てが判明してからレポートを見直していた。
俺は気づくべきだった。
協力者のギャルに絆されていない生徒は二人いたことに。
10章『食べ過ぎと無理なダイエットの円環』はこれにて終了です。
明日からは11章『気づけば年末』です。
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