表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
10章 食べ過ぎと無理なダイエットの円環

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/63

若いと鋼の意思でできてしまう弊害がある

 化け物の正体が人狼だと判明した。


 火サスならば崖に追い込んで犯人の話を聞くタイミングだろう。だが、その犯人はいない。加えて、誰が人狼の目星すらついていない。


 人狼というのは姿が変わる亜人である。


 普段は、普通の人間と遜色ない容姿、背格好をしている。だが月夜の晩にだけ、体が一回り大きくなり、犬歯が鋭くなり、人によっては体毛まで生え変わるらしい。


 そんな特性を持つ亜人ゆえ、普段の見た目からでは判別がつかないという。


 しかも、昨今ではその特性が不便で仕方ないという声に押されて、その特性を抑え込む飲薬まで開発されたという。まるで花粉症と抗アレルギー薬みたいな扱いだ。


 明華女学院に転校してきた私と奈緒は当然知らず、友達が少ないと自虐した黒木さんはお手上げ、引き籠もりだった星さんは言うに及ばず、頼みの綱である笹原さんですら見当がつかないと言った。


 完全に行き詰まってしまった。


 今の私達では交友関係が狭く、犯人まで辿り着けない。友達の友達を辿っていけば六人のうちに目的の人に辿り着くという言われるが、私達では友達を紹介してくれる人がそもそも少ない。私を抜かしても四人を消費しているにも関わらず、残り二人で見つかるのだろうか。この仮説には、潤沢な交友関係がある人、という条件が必要なのではないかと疑問を呈したい。


「交友関係広い人……か……」


 明華女学院にいる生徒のうち、交友関係が広い人は誰だろうか。物怖じせず誰にでも話しかける精神性を持っている子は。


「白鳥さんなら知ってるかも」


 ギャルは交友関係が広い。ギャルの電話帳に沢山の友人が登録されているものだ。そういうものだと聞き及んでいる。今の子が電話帳を使うのか知らないが似たようなものはあるだろう。


 この提案に難色を示したのは二人。一人は白鳥さんが嫌いな奈緒。もう一人は毎朝、起こされに家まで押しかけられていた星さんだ。


 珍しく意見が一致した二人は、互いに顔を見合わせて「今ばかりは協力しよう」と意思疎通を図る。


「お嬢様、あの鳥頭がお役に立つとは思えません。再考を」


「人探しなら拙者に任せておくでござる。すぐに見つけて見せるでござるから、考え直すでござる」


 前者は聞き流し、後者はパソコンを使うけれど恥ずかしいデータがいっぱい転がってるから部屋から退室してほしいと懇願されたので、結局白鳥さんを呼ぶことにした。


 白鳥さんは部屋に入るなり、嫌がる星さんを構い倒し、不機嫌そうな顔をする奈緒に「メンブレしてんなら飴でも舐めて元気だしなよ」とよくわからない単語を出しつつ慰めていた。そんな白鳥さんと笹原さんは話したことがなかったらしく、懐に入ろうとする白鳥さんと社交辞令の距離感を保とうとする笹原さんで、取り調べでたまに見る落とし話術の差し合いに似た何かが披露されていた。


 本題に入り、白鳥さんに「人狼の明華生っているか知ってる?」と尋ねてみた。


 白鳥さんは首を傾げる。


「知ってるけど、むしろ、美月っちと奈緒っちがなんで知んないのって感じ」


 そう言うということは私と奈緒は把握していてもおかしくない人物なのだろう。それでいて黒木さん、星さん、笹原さんは知らなくても仕方がない人物ということ。


 それが当てはまる特徴なんてあっただろうか。


「ま、本当なら星っちも知らなきゃ行けないんだけどねー」


 そんな追加情報をもたらされても全くピンとこなかった。


「あ、寮に住んでるってこと?」


 一人回答したのは、やはり黒木さんだった。


「そーそー寮に住んでる人たちってあんま交流ないわけ?」


 奈緒がそれに「生活リズムが違うので顔見知り程度ですね」と短く返していた。


 寮住まいならば、夜に学園内を歩いてもおかしくない。


 どうしてわざわざ夜に出歩いているのかという謎は残る。


 もっともそれは本人に確認をとればいいだけのことだろう。


「白鳥さん、その人が誰か教えてくれない?」


 白鳥さんは「こっちー」と廊下へ出て、進んでいく。


 一つの扉の前で立ち止まると「ミサミサー、開けてー」と扉をドンドンと遠慮せず叩く。


 ガチャリと扉が開いて出てきたのは、高身長の女性だった。スレンダーといえば聞こえはいいだろうが、明らかに痩せすぎであり、見た目の美しさも欠けていた。腕は棒のように細く、顔は痩せこけ、目からは生気が抜けていた。


「うわっ、最近見ないなと思ったらどうしたのそれ! 病気!?」


 白鳥さんがこんなことを言うのだから元々はこうではなかったらしい。私たちも寮住まいゆえ、彼女の顔を見たことがあるのだろう。だが、その変貌ぶりゆえか、思い当たる顔を浮かべることすらできなかった。


 それからミサミサもとい美沙さんの話を聞くことになる。


 美沙さんは人狼の亜人である。


 彼女の体質なのか、月に数度人狼に変身してしまうらしい。その変身をしなくなる薬を人狼の多くは飲んでいるのだが、その薬を美沙さんは飲まなかった。理由としては、一時的に体が大きく肥大化するという特徴は、言い換えると爆発的にカロリーを消費するものだという。ゆえに若い人狼の女性はそれを逆に活用して、この推奨されていないダイエットを行なっているらしい。ただし、元来人狼が変身する理由としては狩猟でそれ以上のカロリーを摂取することができるからという理屈で定向進化してきた。狩猟が行われず、カロリーが得られないとなれば、当然起きるのは栄養不足。衰弱と言い換えてもいい。


 ほとんどの人狼はその空腹に耐えきれず、ドカ食いをしてリバウンドしてしまうまでがセットなのだが、極稀に鋼の意志を持つ子がダイエットを完遂してしまう。


 その結果が、栄養不足で少しでも動くのが辛い状態になってしまう今の美沙さんだ。


 これを語るのですら、途中途中で休みを入れながらでないと無理であった。


「美沙さん」


「なんです」


「貴女を美しくします。これは清麗としての務めであり、貴女に拒否権はありません」


 これは見過ごせない。


 私は清麗様という身分を使い、これを正そうと決めた。


 先月、星さんが言っていた権力を笠に好き勝手することにした。


「そんな……清麗様にお手を煩わせることじゃ……」


「言ったはずです。拒否権はありませんと」


 柔らかく、けれどキッパリと清麗の務めを断行すると宣言する。


 その言い振りに、過去ダイエットを敢行された黒木さんが美沙さんの手を掴む。


「大丈夫。私はダイエットで殺されかけたけど、大人しく言うことを聞いていれば優しい人だから」


 人をドメスティックバイオレンスな彼氏扱いされて引っかかったが、一旦それは捨ておこう。


「安心して。無理なダイエットした人にさらにダイエット強いる真似はしないから。私がするのは健康的に適正体重に戻しつつ、美しい見た目にすること」


 意趣返しに付け加える。


「怠惰な生活を送って肥え太った黒木さんにダイエットを強いたこととは逆に、自分に厳しい生活を送った貴方には飴を用意するだけよ」










 十月の終わり。


 学園祭の季節がやってきた。本校の学園祭は明華祭と呼ばれており、ハロウィンと重なるため、生徒は思い思いの仮装をするのが伝統となっていた。


 私も思い思いの仮装をしようと思っていた。具体的には一生着ることはないだろうと思ったキャビンアテンダントのコスプレをしようと思っていた。親父趣味丸出しと言われればそれまでであるが、私のような古い世代はキャビンアテンダントに対し夢を持っているのだ。憧れなのだ。だから姿格好を真似るぐらいいいではないか、と自分に言い聞かせ、周囲も説得した。


 無論、ダメだったわけだが。


 キャビンアテンダントのコスプレがダメというわけではなく、私が清麗様だったからだ。


 明華祭の伝統として、清麗様はドレス姿になるらしい。なんでも亜人だろうが外国人だろうが良いものを真似て何が悪いと世間様に喧嘩を売るために外国の亜人文化に伝わるドレスを着たことが元となっているらしい。それを近年、もっとも戦後程度まで遡るが、明華祭で復活させたのを切っ掛けに伝統になったらしい。


 ゆえに私はキャビンアテンダントの格好を断念し、ドレスを身に着けた。選んだのは肌の露出が控えめで袖も七分袖なアフタヌーンドレスだ。紺色をベースとして、控えめに花の刺繍がされているものを選んだ。なんだかんだでこの格好も悪くなかったと思えるぐらいに、この格好を謳歌していた。


 ちなみにドレスを着用を知るのが遅かったため、クローゼットにはキャビンアテンダントの衣装一式が眠っている。


 そこへ現れたのはミイラの仮装をした生徒だった。


 全身タイツの上に身体中を包帯でぐるぐる巻きにした彼女は、背も高くスレンダーゆえ、周囲から羨望の眼差しを向けられていた。


「美沙さん、体調良さそうだね」


「あはは、その説はご迷惑おかけしましたー」


 美沙さんはすっかり体調も戻り、痩せた体も維持しつつ健康的になっていた。


 彼女と出会って約三週間。その間、彼女には食事療法をメインに行なってもらった。


 人狼の特性から彼女の体はカロリーを大量消費して痩せ細っていた。ように思えた。健康状態を見るために彼女の腕を触れて、皮下脂肪がどの程度あるか確かめたのだが、これが本当に固く、引き締まっていた。


 つまるところ定期的に人狼への変化を遂げたことで、彼女の体には筋的な負荷がかかり、鍛えられていた。加えて大量のカロリー消費も相まって、絞られた。ボディビルダーと同様の仕上げ方をしていたのだ。


 やつれたように見えたのは飢餓状態にあったからだ。そんな状態になるとプロのボディビルダーでもキレ喰いという食欲のタガが外れて暴飲暴食が止まらなくなることがある。それでもこの美沙さんは鋼の意志をもって、食欲が暴走しそうになると外を出歩いて我慢していたらしい。そんな気が立って仕方がない状態で星さんと出会ってしまい、人睨みしただけで転ばせてしまったとのことだ。そこで怪我をさせてしまったと気が動転して部屋に逃げ帰ったそうだ。


 カロリーは足りていない状態で過剰な運動をしていた美沙さんに足りないのは、適切な栄養素と適切な運動量となる。


 過度の運動にならないように、まずは人狼化を抑える薬を飲んでもらった。あとは有酸素運動であるジョギングを適度な距離で行なった。有酸素運動は、脂肪燃焼がメインとなるため、現状ではあまりよくないとも考えた。しかし、無酸素運動は強度の高い運動で筋肉量を増やし肥大化させるのが目的となる。短距離走の選手と長距離走の選手、どちらの足が太いのか、一目瞭然だろう。もっとも普通の人間がそうなるには、苦しく長いトレーニングが必要となる。ただ、今回は簡単に体型が変わってしまう人狼の亜人が対象だ。本人もスレンダーになりたいという要望もあり、今回は有酸素運動をメインに据えた。


 食事に関しては、最初の一週間は炭水化物を取るのは朝と昼のみ。代わりにタンパク質と野菜をメインの食事に切り替えた。いわばアスリートの食事に近い。


 もちろんこれには理由がある。


 体が飢餓状態にあるため、食事量を最初から元に戻すとリバウンドをしてしまうからだ。ゆえに食事量は段階的に多くすることにした。


 二週間経過してから夜の炭水化物を解禁し、運動量に合わせて日々の食事量も調整した。


 そして、迎えた今日。


 引き締まったスレンダーな体を維持したまま、見栄えする肉付きと健康的な顔つきになった美沙さんが出来上がった。


「うん、やっぱり綺麗な人を見ると元気になっていいね」


「いやいや、清麗様に比べたらまだまだですってー」


「そういえば同じ寮に住んでたけど、顔合わせたことってあったかな」


 元気な顔を見れば思い出すと考えていたが、結局ここに至っても思い出すことはなかった。


「あーいや、ないですね。夜型なせいで、いっつも遅刻ギリギリで登校したりしてたんで」


 美沙が学園祭に戻っていき、入れ替わりで白鳥さんがやってきた。


「ミサミサ元気になって、しかも美人に拍車かかるとこマジ羨ましい。うちもダイエット始めよっか悩むわ」


「白鳥さんはやるとしたらダイエットよりも羽のケアかな。ちょっと傷んでるよ」


「えーそこは何もしなくても君はそのままで綺麗だよ、とか言って欲しいんですけどー?」


 こうして美沙さんの件は片付いた。


 美沙さんの件は、だ。


 まだ残ってるのは問題は一つ。


 誰が内通者であるのかだ。


 この一ヶ月、美沙さんの件と内通者の件を並行して対応してきた。


 無論、一人ではない。


 相棒となる人物と共に調査を進めた。


 今日、その報告を受ける手筈となっている。


「あ、そだ。例の件だけど報告聞く?」


 白鳥さん、彼女が私の相棒だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ