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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
9章 赤ら顔は可愛いけれど、度が過ぎると赤提灯

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偏頭痛持ちという名の人間天気予報機

 内通者がいる可能性があると神宮寺くんに報告を受けた。なんでも神宮寺くんが護衛から外れた日に不審者が学園内に忍び込んだらしい。幸い、その日は強硬手段は取らず、そのまま帰ってくれたようだったがが次同じことがあったらどうなるかわからない。


 他に被害が及ぶ可能性を考慮すると転校すべきなのだろう。けれど、清麗様への期待、責任を考えるとそれを放棄するのも躊躇われる。加えて女装ができる環境を手放したくないという本音もある。さらに付け加えるならば、他に被害が及ぶ可能性は低いと考えている。相手はプロだ。紛いなりにも裕福な家庭で育っている子に何かあれば、予想外の方向へ事態が動き出すことも考えうる。だからやるとするならば私一人だけを狙うだろう。


 ともあれ内通者探しを始めた私であったが、なんの成果も得られないまま夏休みが終わった。証拠の一つでも見つけてから取り組もうと思っていたので、証拠ゼロ、自由研究の進捗もゼロという何も残せなかった夏休みとなった。唯一の思い出が先々代が経営する海の家でバイトをしたことだけだった。


 九月になって新たな学期が始まった。


 夏休み明けの級友らは思い思いの夏休みを過ごせたようで日に焼けた子やお土産を配ったりしている子、イメチェンを果たした子など様々だった。一月ぶりに会う白鳥さんは沢山寝れたのだろう。目のクマが綺麗サッパリなくなっていた。


「おひさー。元気だった? うちはもう毎日が日曜日って感じで一年分ぐらい寝溜めしたからめっちゃ元気。今なら二十四時間営業だってぶっ続けで働けそう」


 元気一杯な調子で最初からまくし立てられた。それを目の当たりにして、ようやく新学期が始まったのだなぁと実感できた。


 そんな浮き足立つ教室の中、一人雰囲気の違う級友が入ってきた。彼女はヴィジュアル系というものに傾倒しており、片目を隠す髪型をしたクール系美女といった装いを好んでいた。また、彼女はアラクネという下半身が蜘蛛の亜人であった。初対面は思わずそんな下半身にマジマジと目を向けてしまったが、人が良い彼女は「もう慣れっこだよ」と笑い飛ばしてくれた。そんな彼女であったが、登校した彼女は装いこそ普段と変わらないもののクールさというものが剥がれ落ちていて、余裕のなさが見て取れる程だった。余裕がないのにファッションはきちんとやるという情熱に尊敬の念を抱いてしまう。


 登校するなり机に突っ伏して体を休める彼女の元へ向かう。


「吾妻さん、大丈夫? 体調悪いなら保健室まで付き合うよ」


 そう声を掛けたのだが、吾妻さんは手だけを起こして、フラフラと振る。


「ほっといてー。薬飲んでるからここで少し休ませてくれればいーから。あー始業式はサボっけど見逃して……」


 そのまま吾妻さんはこちらが何を話しかけても反応を返してくれなかった。


 始業式は吾妻さんの要望通り、彼女を教室に残したまま行われた。担任の足利先生は保健室に向かうか早退も勧めたが「少し寝れば良くなるから」と譲らず、教室で突っ伏したままだった。


 始業式終わって授業を開始してもその調子で突っ伏し続け、復調したのが午後になってからだった。体調が回復した昼休みに彼女は授業中に庇ってくれた級友たち一人一人に挨拶しに回っていた。私の番になったので、御礼と謙譲の応酬をしたあとに訊いてみる。


「何が原因だったの?」


「片頭痛持ちだから、きっとそれ」


「あー片頭痛は大変だよね」


 同僚にも片頭痛持ちはいたが、酷くなると吐き気すら伴うため、いつ何時片頭痛に襲われてもいいように頭痛薬を持ち歩いていた。


「それが分かるってことは三宮も片頭痛持ち?」


「私じゃなくて知り合いが酷い片頭痛持ちだったから大変なことは分かる程度」


「大変さを理解してくれるだけでじゅーぶん」


 んじゃ次いくわ、と言って他の生徒のところへ移っていった。


 それと入れ替わるように元生徒会長の笹原さんが教室に来て、校長が呼んでいるからと言って有無を言わさず私の手を引いて教室から連れ出した。


 これは厄介は案件に違いない。


 私の直感がそう叫んでいた。

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