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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
1章 美しい肌は適切な睡眠時間から
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女子高に通う女装家の元警察官

 桜が舞い散る季節、私は歴史ある明華女学院高等学校へと転入した。


 資産家の娘が通う本校は、潤沢な予算があるらしく常に改築や増築工事を繰り返しており、校舎は比較的新しい。デザインもそれに合わせているのか、校舎は全体的に白く、正門をくぐると校舎にあしらわれた巨大なステンドガラスが見える。昇降口から学校に入ると、広いエントランスと吹き抜けスペースが現れた。校舎内も白く、温かみのある照明に照らされ、学校らしからぬ美麗な空間だった。


 吹き抜けに置いてあるカラフルな室内用ベンチに腰掛けた若い女性がいた。その方は私に気づくと、立ち上がり、近づいてくる。


「はじめまして。あなたの担任教師を務める足利真紀です」


 この女性は私が男性であると知っていてなお協力を申し出た方だ。


「お初にお目にかかります。三宮美月と申します」


 偽名の挨拶を受けた足利先生はおかしそうな笑みを浮かべ、校長室まで案内する。


 校長室に入ると、校長と思われるふくよかな熟年層の女性が大きな机越しに私に微笑みを投げかけていた。足利先生も続けて、校長室に入り、扉を閉める。校長室にはこの三人だけとなった。


 校長先生が「ようこそ。明華女学院高等学校へ」と切り出す。


「あなたのことは伺っていますよ。我が校の制服がよく似合っているようで驚きました」


 明華女学院高等学校の制服は、ボレロとブラウス、ジャンパースカートの組み合わせだ。ありがたいことにジャンパースカートは校則で膝下よりも長いことが求められる。下手にスカートの丈を短くすると、パンツの中身の拳銃が一目瞭然になってしまう私にとっては救いであった。


「お褒め頂き大変光栄です」


 私が一礼すると足利先生が言う。


「三宮さん、今時の子はそこまで畏まりませんよ。私がここの生徒だった時も、そんな子はいませんでしたから」


「え、お嬢様学校に通っていた私の幼馴染から、お嬢様学校かくあるべしと教えを受けたのですが」


 これには校長がゆったりと答えた。


「昨年の冬に転入した柴田奈緒さんですね。彼女が元々通っていた学校は、我が明華女学院高等学校とは毛色の異なる学校でしたからね。彼女も通い始めてから苦労していましたよ」


 校長が言うには、奈緒が通っていたのは旧華族などを代表とする家柄が高い方々が勉学に励む学校であったという。対して明華女学院高等学校は、良く言えば資産家、悪く言えば成金が通う学校。前者は非常に生まれも育ちもお堅い子が通う学校。後者は乱れない程度の調和を持ちつつ自由を謳歌する学校。そんな違いがあるという。


 奈緒がいた高校では絶滅危惧種であるギャルも明華女学院高等学校には普通に在学しているとのこと。


「まあ、下手にぼろが出るぐらいなら、今のままの方がいいかもね」


 こう言われたが、お嬢様言葉を使い続けられる自信はなかったので普通の敬語に戻す決意をした。


 また、校長室から出ていく直前「学院関係者であなたの素性を知っているのは私たち二人と柴田さんだけです。何か困ったことがあったならば、すぐに私たちを頼ってください」と助力を申し出られた。


「そのような機会はないことを祈っていますが、もしもの時は頼らせていただきます」


 そう言って、申し出を受けた。


 その後、私は再び足利先生の案内で、配属されるクラス前へ移動する。


 足利先生は先に教室に入り、転入生がいるということを伝えていた。


 教室が色めき立つのが扉越しでも伝わってくる。


 前世も合わせると齢七十近く、もういい加減、緊張することはないと考えていた。しかし、よく考えると私にとって転校というものは初めての体験だった。しかも、向かう先は女子の園。転生を果たしてから十七年と数か月、前世も合わせれば数え切れない時間を美に注ぎ込んできた。


 その自信はある。


 しかし、『男性』であるとバレない自信となると話は変わってくる。


 どこからどう見ても女性に見えないという自信はある。


 しかし、本物の女性からすると何か違和感を覚えてしまうのではないかという不安がある。


 自信が持てないまま足利先生が「では入ってきてください」と私を促した。


 意を決し、教室に足を踏み入れる。


 席が近い者同士がなにやらヒソヒソと話している。


 バレたのではないか、などと嫌な想像が頭をよぎる。


「三宮美月と申します」


 それに続けてどこから来たのか。


 寮生活を送ること。


 慣れないことばかりで迷惑をかけること。


 よろしくお願いします、で締めた。


 テンプレートに則った挨拶をした。


 少しの沈黙のあと、爆発が起きた。比喩だ。男の私からすると爆発としか思えないほど教室が湧きだったのだ。その中でも取り分け聞こえのいい声量の持ち主は「めちゃくちゃ美人でマジビビったんだけど!」とギャルのような言葉遣いだった。


 足利先生が手慣れた様子で爆発を鎮火させる。


「三宮さんは柴田さんと幼馴染だそうです。柴田さんは三宮さんが学校に慣れるまでの間、フォローのほどよろしくお願いします。席は柴田さんの後ろです」


 足利先生が指差した先には奈緒がいた。


 私はクラスメイトたちの視線を受けながら、奈緒の後ろの席へと向かう。注目を集めるというよりは、衆目に晒されるという感覚が強い。どうやら第一印象では、バレずに済んだようだが今後は一挙手一投足に気を配る必要があると考えると恐ろしい。視線が矢印となって身体中に刺さり、弱みを見せられないと強く思わされる。


 席に付き、転校したことを後悔していると奈緒が後ろを向く。不敵な笑みを作っていた。


「初めての女子高の雰囲気に怖気づきましたか?」


 数ヶ月ぶりに会う幼馴染に懸ける言葉ではない。


 しかし、その裏には「ずっと女装して美の追求できる環境が欲しかったのでしょう。頑張りなさい」という意味が込められているのを知っていた。


「奈緒の顔を見たら元気出たよ。ありがとう」


「それはなによりです」


 奈緒はすました顔で前を向き直す。


 やはり、奈緒の不敵な笑みも、すました顔も、どちらも綺麗だった。

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