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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
8章 先々代様の言うとおり

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神宮寺レポート8

 御子息から男だと見破った人がいると聞いた時は、目ン玉を見開いて驚いた。女性よりも女性らしい風貌のどこを見て男性であると認識したのか。股間のもっこりを確認したわけでもないだろう。どうやっての部分ばかりに気を取られ、誰にという部分が頭からすっぽり抜け落ちていた。抜け落ちていたそれは御子息が拾い上げて「先々代に見破れられた」と頭に詰め込んでくれた。


 先々代とはあの海の家で出会った婆さんだった。清麗様とは名誉職ということもあり、それこそお嬢様といったお淑やかさがある人ばかりが選ばれると思っていたが、長い歴史があるとああいう下町が似合いそうな人も選ばれた例もあるようだ。昔はお淑やかだったのかもしれないが。


 さて、そういう報告を受けたのならば、御子息の事情もあるので口外しないように頭を下げなければならないのが俺の仕事だ。


 犯人を探すとか、そういうことをしたいのだが例の組織も夏休みに入ったのかめっきり動きを見せなくなった。警察よりも福利厚生がしっかりしてそうで羨ましい限りだ。


 先々代の婆さんに会いに行くと、俺の顔を覚えていたらしく「なんだい。こんなババア相手に一人で会いにくるなんて逢引でもしようってのかい」と顔をくしゃくしゃにして笑った。


 警察であること明かし、御子息――今の清麗様が男性であること、そもそも男性が明華女学院に通っていることを口外しないで欲しいことを頼む。


 先々代の婆さんは元々言うつもりはない、と肩を竦める。


 それに安心しつつ、ならついでとばかりにどうやって男性だと見抜いたのかとも尋ねた。


「腰付が女性のソレと違うんだよ。ま、本人も気付いてるのかそれとなく目立たないようにしてるみたいだけどね」


 答えを聞いて、ご子息の腰付を思い出すも、どこがどう違うのか全く分からなかった。


 答えを聞いて立ち去ろうとしたら首根っこを掴まれる。


 タダで人に話を呑ませたり聞いたりするのは関心しないねぇ、と威厳たっぷりな口調で凄まれる。


 こうして俺は一日、先々代の婆さんに言われるがままこき使われる羽目になってしまったのだった。










 追記


 俺が学園を留守にした日、見計らったように組織に動きがあった。なんでも夏休み中の学園内に工事業者を装って入り込んだらしい。幸い、部外者が立ち入れない寮に対応した寮母が毅然と対応したおかげで事無きを得た。


 だが、俺がいなくなった日を狙ってきたということは内通者がいるに違いない。単なる偶然にしては出来過ぎている。


 だから御子息に再度の転校申し入れをした。


 だが、清麗様になったからにはその責務を放り出すことはできないと断られた。


 しかも、御子息自らが内通者を探し始めると言い出すもんだから、困ってしまう。


 責任感の塊みたいな御子息が言い出したら止めても聞きやしない。


 だから俺は協力を申し入れしつつ、足並みを揃えて欲しいと頼み、御子息の暴走をコントロールできるようにした。本来、民間人に対して警察がこんな下手に出ることはないのだが、相手が一流企業の跡取り息子で、警察幹部も天下っている会社さん相手ならば下手に出るしかない。俺もいつかお世話になるやもしれんから、好感度を下げたくない下心もある。公の下僕たる警察官とは、公に影響力があるものの下僕なのだ。


 幼き頃、夢見た警察官はこんなんじゃなかったはずなんだけどな。

8章『先々代様の言うとおり』はこれにて終了です。

明日からは9章『赤ら顔は可愛いけれど、度が過ぎると赤提灯』です。


作品を気に入っていただけたらレビュー・評価・感想をよろしくお願いします。

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