神宮寺レポート7
前生徒会長が票の三割を握っていて難しいと思われた清麗様選挙も、蓋を開けてみればたった一票以外は御子息が票を獲得した。その一票すらも、身内のじゃれ合いの延長であり、学院でも有名な引きこもりからのものだったため、御子息は名実ともに学院の代表となった。
こうして御子息は清麗様になったわけだが、数十年ぶりの清麗様が選出されたことで三宮美月という偽名と女装姿は地元メディアを通して校外に広く知られるようになった。事情を知る校長と担任には話を通し、インタビューの数などは減らしてもらったがゼロにはできない。
不幸なことに、先月、放置児を保護した件でナイフを振り回す母親を制圧した人物と同一人物だったことが判明してからは、もはや警察や校長から大きく騒ぎ立てることを止めるようにお願い申し上げても聞く耳を持ってはくれなかった。
噂が噂を呼び、夏休み前には全国ネットのテレビ局から取材申込みが入った。いくらなんでも広がり方が早いと思って調べると、その噂はネットを中心に広がっているようだった。
その局員の女性はしつこかった。
校長が駄目だと言っても、ローカルテレビ局には許可を出したのになぜ駄目なのかと駄々をこねられた。
あまりにもしつこかったため、事件に関わった刑事という形で俺が出張って説得にかかった。被害者もいる事件ゆえ、あまり大袈裟に報道されても困ると言っても、本人に直接会わせてくれと譲らない。
呆れ果ててそこまでこだわる理由はなんだと尋ねた。
すると聞くも涙とまではいかないが、同情ぐらいはしてやろう程度の身の上話が繰り広げられた。
彼女自身は新人に毛が生えた程度の経歴しか持っていない。しかし、直属の上司が派閥争いに負けたらしく冷や飯ぐらいの部署に飛ばされた。彼女も見せしめを兼ねて同じ部署に飛ばされた。
上司は二度と戻れないことがわかっているのか早々に会社を辞めた。一人取り残されることになった女性は、第三者から見て事故に巻き込まれただけゆえその部署にいる理由はないけれど簡単に戻す理由もないゆえ、何かスクープを撮ったらそれを口実に元の部署に戻すと約束したとのことだ。
なので独自の文化の頂点に立った女子高生、虐待事件の加害者を制した女子高生、話題性しかないこれを逃すことはできないのだという。
同情はすれども、こちらから何かを譲ることはない。
彼女への口実づくりに、彼女の目の前で御子息に電話をかける。
だがしかし、御子息の返答は「取材を受け入れる」というものであった。もちろん御子息の正体など絶対に知られてはいけないものがあるため、取材中は四六時中監視はつけるという条件つきだ。
彼女、西野静江は御子息の温情に「監視つけるなんてひどい」と文句を言いつつ、受け入れる以外の選択肢はなかったようで、それを呑んだ。
後日、御子息にどうしてああいう輩を受け入れたのかを訊いた。
「ああいう人たちはある程度受け入れないと、好き勝手し始めるからね」
困った顔をされた。
たしかに彼女の場合、首輪をかけなければ違法性のある取材も辞さなそうであった。
「面倒だよね」
警察でもメディア対策が面倒になってきた今日この頃、御子息の素直な愚痴に親近感を覚えた。
7章『清麗様とはかくあるべし』はこれにて終了です。
明日からは8章『先々代様の言うとおり』です。
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