神宮寺レポート6
女児は亜人であった。
血を欲する亜人、吸血鬼であった。
それが児童集団貧血事件におけるキーポイントだった。
事件を語る前に吸血鬼の生態について述べておく。
吸血鬼とは人から血を頂かなければ生きていけない亜人である。より正確に表現するならば、ある一定以上の年齢から体内で血を生成する能力が著しく落ちる生き物である。それゆえ人から頂いた血で、自分の体に足りない要素を補完する能力に長けていった亜人である。
社会的な生き辛さを代償に、力は強く、体は強靭になった。人から血を奪うため、強者へと定向進化を続けた亜人でもある。
では体が吸血鬼と変わり始める年齢はいつなのか。
それは幼稚園年長から小学校進学に掛けてだ。
しかし、女児は小学校に進学してから三年の間、吸血鬼として特性が発現していなかった。
それは何故か。
女児はネグレクトを受けていた。劣悪な環境で育ったがゆえ、栄養価が足りず、体は細く小さかった。吸血鬼へと体を作り替えるには栄養が足りていなかった。その細く小さい体ゆえ、その足りない血でもどうにか賄えていた。医者から言わせると常にふらつきがちで、毎日赤字を垂れ流しているようなものだという。
流石に四年生にも進級するぐらいになれば、吸血鬼に至る工事も大幅な遅れを出しつつも竣工した。
本人すら知らずに竣工してしまったがゆえ、吸血衝動を抑える訓練もしていなかった。周囲も吸血鬼と知っていればいじめずに済んだものの、いじめてしまい、吸血衝動の場に立ち会ってしまった。
大人をも凌駕する腕力に抗える子供はいない。
初めての吸血衝動に抗える子供もいない。
いじめていた子供たちは全員が意識をなくす程度の血を吸われ、その場に倒れた。無論、吸血鬼といえども子供が大量の血を吸いきれるわけはなく、現場にはどす黒い血と胃液が混ざったものが吐かれていたものが残っていた。
事実を述べるとそれだけなのだが、なかなか凄惨な見た目をしていた。
現場を発見した子供たちが大量の血を流し、死んでいるのだと勘違いして、通報するぐらいにはスプラッタな現場であった。
吸血衝動が収まった女児は血で汚れた上履きを吐き替え、その場を去った。
そして、公園で御子息に保護されるに至る。
貧血を起こした子供たちが目を覚ましたのは夜九時。
そこで出たのは女児に血を吸われたという事実。大事件だと慌ただしく動いていた警察や子供に関わる大人たちは、この時になって亜人と知らずに育ってしまったがゆえの事件であると理解した。
子供が関わる事故のため、マスコミに箝口令を敷いた。一部耳聡いメディアは既にニュースとして流してしまったらしいが、これ以上の報道は防いだ。次に女児の親を慌てて呼び出し、事情聴取。そこで離婚した女児の父親の祖父が吸血鬼だったかもしれないこと、女児が家にいるかどうかも知らないこと、本人は認めなかったが虐待をしていたこと。これらが発覚した。
虐待の件については、後日女児を警察で保護し、証言を得た後児童相談所に預ける手立てとなった。幸運なことに、女児は御子息が保護していたから慌てて捜索する必要もなかった。
厳重注意の後、母親は解放した。
仕事に戻るそうだ。
女児に興味なさそうだった。
だから、まさか仕事帰りに女児を見つけることになるとは思わなかった。
母親は厳重注意された腹いせを女児にしたかったそうだ。
ナイフは付きまとう客に対していつも持っている護身用のもの。
計画的な犯行ではなく突発的なものであった。
これが本件の全容だ。
箝口令は敷いたが、人の口に戸は立てられぬとはよくいったもので、御子息が明華女学院で使用している名は関係者から友人、友人からまた別の友人へと広がる結果となった。それも地元では有名な清麗様候補だといえば、広がってしまうのは自明の理だったのだろう。
悪いことは続くもので、組織が何かを掴んだと報告を受けた。
それが何を指しているのかは不明。
御子息の護衛に当たる人数を増やす必要が出てきたかもしれない。
来月、清麗様を決める選挙が始まる。
6章『目的と手段は逆になりがち』はこれにて終了です。
明日からは7章『清麗様とはかくあるべし』です。
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