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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
6章 目的と手段は逆になりがち

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警察という公の奉仕者

 警察手帳を懐かしんだ私が連絡を取ったのは現役警察官だった。


「俺は生活安全部でも児童相談所でもないんだけどな」


 そうぼやくのはくたびれたスーツに無精髭を生やした男であり、私に明華女学院へ行くのを進めた刑事の神宮寺君である。彼とは定期的に連絡を取り合っており、何かあるたび相談を受けていたりした。だから、私から相談があるからすぐに来て欲しいと言ったら何か大きなことが起こったと勘違いして飛んできた。


 飛んできて傍らに放置児らしき子供を見て、事態を悟ったらしく呆れた顔をして、そうぼやいたのだ。


「でも警察には違いないから。君のツテでこの子を保護してやってくれないかな」


「ごし……御息女が仰るなら、事情も事情ですの保護しますがあまり緊急でもないのに俺を呼びつけるのはやめてください」


「すまないね。私としては君に頼るのが一番手っ取り早いし、信頼できるからね」


「そう言ってくれるのはありがたいですが、俺らが接触しているのをあまり大っぴらにしたくないので」


 神宮寺君はチラリと白鳥さんに目を遣る。


 白鳥さんはしゃがんで放置児と手遊びしながらも私達の会話を興味深そうに聞いていた。


「あまり口外しないように言い含めておくよ」


「頼みますよ、ほんとに」


 そう言った後、続けて耳打ちする。


「命狙われている自覚してください」


 そう言われて、明華女学院に転向したのは身の危険があったからと実感として蘇った。事件といえば女子の悩みを聞いて解決するばかり。あとは男だとバレないように立ち回ったり、美月として有名になり過ぎないように気をつけるぐらい。


 危機感よりも美意識が勝ってしまう私は、改めて言われないと実感をなくしてしまうようだ。


「そうだね。私はそういう意識がどうも薄いみたいだ。今後も注意してくれると助かる」


「気をつけてくださいよ」


 神宮寺君は呆れた顔をした後、「生活安全課に連絡してくるから待っててください」とその場を一旦離れた。


 そうなると待っていましたとばかりに白鳥さんが「警察と知り合いってどういうこと!」と目を輝かせて飛びかかってくる。


「やっぱメイドさんいる家だと担当刑事みたいな人いたりすんの? てか賄賂送りたい放題とか?」


「私の家を悪代官と越後屋みたいな関係にしないでよ」


 この場合、どちらが悪代官でどちらが越後屋なのか難しい。たぶん、そちも悪よのう、と言うのは父の方が似合いそうだ。ただ、金髪碧眼タフガイの三拍子揃った父の場合、時代劇ではなくハリウッドな世界観に引っ張られてしまいそうだが。


「でもマジでどうやって知り合ったの? 年齢的に友達だったとかはないっしょ?」


「……詳しくは言えないけど、たしかに私の家と関わり合いがあるゆえの知り合いだね。でもそういうのはないからね」


 全てを嘘で隠し通すのは難しいと考えて、家のことを出した。それ以上は語れないこと、悪事はやっていないこと、その二つに関してだけは念を押しておいた。


 明華女学院では珍しいギャルであっても、お嬢様同士の不文律は理解しており、口を尖らせつつも「んーなら仕方ないかー」とそれ以上の追求をやめてくれた。


 その代わりに声を出したのは放置児の方だった。


「ねえ、あたし警察に捕まっちゃうの?」


 私の制服の裾を引っ張り、不安げな視線を投げかけてきていた。子供の世界はとても狭い。大人になれば笑ってしまえるようなことも子供にとっては一大事だ。だから警察という悪者を捕まえるという情報だけが行き届いた未知の存在に対してはより恐怖を感じてしまうのだ。逆に言えば、未知ではない虐待に対しては嫌だと感じても恐怖を感じないようにできてしまっているのだ。


 私はしゃがんで視線の高さを合わせる。


「大丈夫。警察は皆を守ってくれる人だから。ーーそういえば自己紹介がまだだったね。私は三宮美月。君の名前は?」


「あたし、バドっていうの」


 その子は日本のテンプレートから離れた名前を口にした。英語圏で男性の愛称としてよく使われる名前である。見るからに日本人の顔つき。性別も伸びきった髪と幼さのせいで判別しにくいが、一人称が「あたし」であったことから女の子として考えるべきだろう。これが俗に言うキラキラネームというものだろうか。


「バドちゃんっていうんだ。可愛い名前じゃん」


 白鳥さんはその文字の響きを可愛いからという理由で受け入れていた。おそらく今の子の感覚ではそれが当たり前なのだろう。英語圏で男性の愛称として使われているかどうかなど知らなければ問題ない程度のものなのだろう。


 そもそも女子校に通っている女装家が人様の名前について言及すること自体がおこがましい。


「バドちゃん、あの警察のお兄さんの言うことを聞けばお腹いっぱいにさせてあげるからね」


「ほんと?」


「もちろん」


 指切りして約束する。誓いの言葉を告げ、指を切った直後にその警察のお兄さんが帰ってくる。その顔は浮かないようだった。


「御息女、すまねえ。警察も学校も児童相談所も、今日だけは忙しくて対応ができないみたいだ。御息女が一日寮で預かってもらうことはできないか? 俺は会議とかに出なきゃ行けないからずっと預かっておく訳にはいかなくてね」


 私は答えに窮したが、バドちゃんが私の裾を握って「お兄さんの言うこと聞くんでしょ」と訴えかけてくる。


「どうにかしてみます……」


 小さな子供との約束を破るのは心が痛み、私は私が苦労する道を選ぶのだった。

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