まだ明日にもなっていないのに友達気分な敵対者
清麗様の推薦を受けてから早いものでもう六月になった。日差しがやんちゃし始め、衣替えの季節が訪れる。それはつまり七月の選出期間まで一ヶ月を切ったことを示していた。五月中は部活動メインで支持集めを行っていた。その成果は上々で、推薦入学のアマゾネス達を筆頭に支持を取り付けることができた。
気分は参謀本部な奈緒によると部活動系の支持は集めきったとのことで、次は浮動票を集めたいと言っていた。浮動票と言えば明確な投票先がない人を指すが、清麗様を決める選挙においては清麗様に相応しいかどうかの二元論となる。ゆえに「この人ならば清麗様に相応しい!」と言われるようなカバーストーリーが欲しいと、この一ヶ月ずっとうんうん悩んでいた。
そんな悩める参謀本部に助け舟を出したのが宿敵である白鳥さんだった。なんでも「恋に悩める少女の悩みを解決すればいんじゃね?」というものだった。その恋に悩める少女は何処にいるんだという文句をつけた参謀本部だったが、明華女学院で陽キャと呼ばれる人種が三年間培ったツテというのは侮れなかった。
「紹介して欲しい? 奈緒っちが可愛くお願いしてくれれば紹介してあげないこともないけどな〜」
参謀本部の足元を見た交渉だったが、参謀本部的には絶対に欲しいツテであり、背に腹は代えられないものであった。
ゆえに奈緒は苦悶の表情を浮かべつつ、白鳥さんの命令に従い「教えて欲しいニャン」と猫のマネをして、それをカメラに収められ、周囲から「カワイイ~」などと弄られていた。
「マジ可愛くてウケる」
スマホで撮った写真を満足げに眺める白鳥さん。
「美月っちにも、あとで写真送ったげるから楽しみにしててね」
「楽しみにしてるよ」
そんな余韻の残る会話をしていたら、衝動的に人を殺してしまいそうな目をした奈緒が白鳥さんの両肩を掴み、メンチを切るぐらいに顔を近づける。
「んなこたぁどうでもいいからさっさと教えなさい」
キレている。
キレッキレだ。
ブチギレである。
触れるもの皆傷付けそうなぐらいだ。
「えー奈緒っち今の言い方可愛くないからなー」
白鳥さんがさらに煽っていく。これでは強心臓を通り越して単なる自殺志願者だ。
その後、どうにかこうにか二人を引き剥がし、白鳥さんから話を聞くと、その悩める少女は別の高校に通う同い年の幼馴染に片思いしている。けれど身体的な特徴に不安があり、一歩が踏み出せないらしい。その特徴については「もう一回お願いしたら教えたげる」と奈緒に強請り、奈緒が断固拒否したため、ついに知ることはできなかった。なので予想した。その身体的な特徴とはおそらく見た目の美醜に関連する何かだろう、と。
それならば大きな問題にはならないと考えて、白鳥さんに紹介をお願いした。
「それ、わたくしも同席してよろしいかしら?」
後ろから声をかけられ、振り向くと笹原さんがいた。
「あり、セートカイチョーじゃん。どしたの?」
「グランマ推薦の清麗様候補ですからね。活躍の様子を目にしておきたいの」
「それに……」とタメを作り、私に指をさす。
「清麗様の座を譲る気はありません」
これは宣戦布告だった。
清麗様になるため争いましょうという啖呵を切られたのだ。
その敵対的な意思表示に、私は「実に気持ちの良い若者だなぁ」なんて関心してしまった。大人の喧嘩は明確な意思表示する頃には既に決着がついている場合が多い。根回しが全て終わってからコトを始めるからだ。なので、こういう騎士道か武士道のように正々堂々とした振る舞いは好感が持てる。
それを理解できるのは喧嘩のやり方を覚える必要があった大人か喧嘩に明け暮れ実戦で理解した不良のどちらかだ。
そのどちらでもない奈緒が突っかかる。
「生徒会票を集めるのか、歴代の推薦を受けて立候補するのか知りませんがそれを聞いて了承するとでも?」
「そうね、思わないわ。今日はそれを伝えに来たら面白い会話が聞こえたから言ってみただけよ」
笹原さんが踵を返し、帰ろうとする。
それを私は笹原さんの手を引いて止める。
「なにかしら?」
怪訝な顔をする笹原さんに、柔らかく笑いかける。
「私は別に構いません。一緒にお悩み解決しましょう」
善意からの行動だったのに笹原さんの私を見る目が一気に不気味なものを見るものに変わったのが解せなかった。




