良い上司の条件とは部下に転がされること
「どういうつもり?」
私は自室で奈緒を問い詰めていた。
私はベッドの縁に座り、その前には反省してますよという風に見せかけだけ整えた奈緒が正座していた。
「お嬢様が評価されることが自分の幸せです」
この口ぶりだ。自分が悪いとは微塵も思っていない。思っていたとしても
「私がこの学院にいる理由は?」
「お嬢様の身を隠すためです」
「目立つべき?」
「目立つべきではありません」
「じゃあ清麗様になるべきじゃないよね?」
「いいえ、なるべきです」
何度諭そうとしても意固地になって結論を変えようとしない。これは彼女と主従関係ではなく友人になろうとして挫折した時以来の意固地ぶりだった。
「そもそも私は評価されるような人間じゃない」
ムッとした表情の奈緒。
構わず続ける。
「私は単なる女装趣味の男だよ。本来なら男らしくないと蔑まれてもおかしくない男だ。そんな奴が性別を偽って、学院の象徴になろうなんて褒められるべき行為じゃないだろう」
私個人を下げて、清麗様になることへの正当性に訴えかける。
しかし、奈緒はムッとした表情のまま言葉を切り返してくる。
「それの何が悪いのですか。優秀な方が支持を集めて、象徴に至る。それが当然の摂理です。下々にとって偉い人の性癖なんて表沙汰にならなければないも同然です」
たしかに政治家が外聞の悪い痴態を晒している噂はよく耳にするが、やることさえやっていればどうでもいいというのが下々の本音だ。
「けれど私は男だ」
「ならチンコ取りましょう。その腹が立つくらいお綺麗なお顔立ちなら取ったほうが自然です」
「女性がチンコとか言わない」
「チンコチンコチンコ」
「……奈緒、そう機嫌を悪くしないでくれ」
「お嬢様がご自身を下げるということは、仕える者の価値を下げるということです」
「すまなかった。だが道理が通らないことは理解しているだろう」
「無理が通れば道理は引っ込みます」
「無茶苦茶だ。それに学園長とかが黙っていないだろう」
「既に許可は頂いております。あとはお嬢様のご決断だけです」
このメイド、有能だった。
昔から私に関することでは譲らない。譲らないどころか道を舗装し、その上を行けと背中をガシガシ蹴ってくる。それ自体は大変ありがたいが、事前相談が一つもないのが困りものだ。
学園長にまで許可を取っているとなれば、奈緒の目論見通り、あとはやるしかないのだろう。
これを訊くのは野暮かもしれないが、話したそうな顔をしているので期待に応えるとしよう。
「……全校生徒八割の支持を取れる算段はついてるのか?」
奈緒は正座を解き、片膝立ちに移り、胸に手を当てる。
「この忠実なる下僕にお任せを」
後日、私は奈緒の目論見通り、運動部票を全て手に入れることになった。




