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女装家転生~女装令嬢、お嬢様学校に通う~  作者: 宮比岩斗
4章 道は自分では選べない
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メイドはなんでも知っている。やらかしたから

 危なかった。


 なんでも私の拉致か殺害を計画している組織が動きを見せたからという理由で再び転校させられそうになった。しかも、神宮寺くんの口ぶりから察すると共学に通わされそうだった。いや、彼の言う通り、私は本来そちらに通うべきなのだろう。しかし、だ。私は今の女装を好きにできる生活を気に入っている。これを失うなんてとんでもない。


 ゆえに謀った。


 情報の精査が必要だなんて嘯いて、転校を保留にさせた。


 もし情報が本当で、私の居場所がバレていたとしたならば、私は数か月以内に身の危険が及ぶだろう。


 だが、それでもいい。


 私は美の追求ができるこの生活を守るためならばなんでもする。










 そんな意気込みを教師の急病で自習時間になった時にしていた。ゴールデンウィーク中、帰省していた教師が田舎で流行っていた風邪を貰ってきて、ゴールデンウィーク明けに発症したらしい。その風邪はなかなかタチが悪いもので、感染力だけは高く教師陣が壊滅し、半休校状態となってしまっていた。


 幸い、生徒にまでは広がらなかったため、授業はこうして続けられている。


 いっそ生徒も風邪にかかって学級閉鎖になれば良かったのにという声も少なくない。


 この自習時間は教師の監視がない。監視がないということは生徒たちは自由だ。育ちの良い本校では、自制が効かない猿山のような騒ぎにはならないが、それでもコソコソと話したり、手紙のやり取りをしたりなどはあった。


 それゆえ、この自習時間中に他所の教室から乗り込んでくる生徒がいるなんて誰も想像もしなかった。


「失礼致します」


 ノックの後に聞こえてきた断りは扉越しのものだというのによく響く声だった。入ってきた女子生徒は栗色の長髪に色素の薄いブラウンの目を持った人間の子だった。猫のような愛くるしさを持っているにも関わらず、それを見せたくないがゆえ目を細めて精一杯背筋を伸ばしているように見受けられた。


 そんな彼女がいきなり入ってくるものだから教室は静まり返る。そこから少しずつ、少しずつ、ひそひそ話が広がっていく。またたく間に教室が騒がしくなる。周囲から「え、なに?」と疑問を抱く声と「生徒会長」という単語が飛び交い始める。


 この人が生徒会長なのかとようやく認識する。新学期の挨拶など壇上で話していた記憶はあれど、姿形を覚えていなかった。他のクラスの人物ゆえ交流する機会はないと思ったがゆえ記憶しようともしなかった。


 そんな彼女はクラスを見渡し、私の姿を認めるとツカツカと私の席まで歩いてきた。


「笹原聖子、生徒会長よ。悪いけど生徒会室までご同行お願いできるかしら」


 この有無を言わさない感じ、コンプライアンス問題が流行る前の職務質問という感じで非常に懐かしさを感じてしまう。


「私が何かしましたか?」


 何も悪いことをした記憶はないため、当然の権利として理由を問う。


「貴女が清麗様の候補に推薦されたからよ」


 笹原さんが清麗様の名を口にする。


 エルフで引きこもりの恵をどうにかしてくれとグランマに頼まれた時にも聞いた名だった。それが何を意味するところなのか私は興味がなく改めて聞くこともなかった。しかし、それは悪手であったと今思い知らされた。


 何故なら周囲の級友が清麗様の名を聞いた途端に色めきだったからだ。お忍びの有名人らしき人を見つけて確証を持てずに友人と相談していた声から思い切って話し掛けてやはり有名人だったと判明した時ぐらい興奮の高低差があった。


「清麗様とはなんですか? 私、転向して一ヶ月ほどでそういうのに疎いんです」


「……貴女、それも知らないのに推薦を受けたのですか?」


 呆れたように片手で頭を抱える笹原さん。


「そもそも推薦を受けた記憶がないのですが」


 私が疑問で返すと、向こうは聞いていた話と違うのか怪訝な顔をする。そこに割り込んできたのは「お嬢様」と立ち上がった奈緒だった。


「お嬢様、大事な話ですので生徒会室で聞きましょう」


 あたかも関係者のような顔をしていた。


「貴女も関係者?」


「お付きの者です」


「そう。なら一緒に来て」


 他にもお付きの人がいる生徒がいるのだろうかすんなり話が通った。


「はいはい! うちもお付きだから一緒に行きたいし!」


 それを見ていた白鳥さんが野次馬根性を発揮し、そんな虚言を言い出すも即座に「こいつは関係ありませんから」と奈緒にぶった切られていた。「酷い! うちら大親友じゃん!」と騒ぐも無視され、次第に大人しくなっていった。


「……それでは二人とも生徒会室へ来て。ああ、教師の許可は頂いてますから心配せずとも大丈夫だから」


 教室から出た笹原さんの後ろを追う形で私らも教室を出た。先頭を進む笹原さんの背を見る奈緒の隣に並び、小さな声で奈緒に尋ねる。


「清麗様について何か知ってる?」


 これに対し、奈緒は視線を合わせない。合わせようとしない。


「なにもかも」


 奈緒の視線の先に回り込むように動く。


「それじゃ清麗様ってなにか教えて」


 奈緒は視線をまたしても逃がす。


「先に謝っておきますね。ごめんなさい」


 この謝罪の直後、私らの足は止まった。


 眼の前には生徒会室と記されたネームプレートが掲げられた部屋があった。

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