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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
鳳凰の翼
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「なにもない」

 揺れ動く馬車の中は、至る所が硬く決して心地がいいとは言えなかった。そして大した娯楽もないので、アルはヴェルンまでの道のり、約三日間を移り行く景色を見て過ごしていた。

 変わり映えしない森を抜けると、地平線まで覗けるような平野へと抜けた。奥には高い門が何かを囲うように聳え立ち、そこへ続くように舗装された道が繋がっていた。

「あれがヴェルン王国か。地図で見た通りちっちゃいね」

 アル達はガウス騎士団の兵士とともに、戦場ヴェルンへと向かっていた。キルスが頭を抱えながら編成した部隊は、なんとか開戦前に間に合ったのだ。だった一日前についたとしても、派兵の目的が他国への牽制である以上、いるだけで役目を果たす。

 しかし、居るだけが役割の兵士達と違い、アルと雫は戦力として数えられている。彼らには、相応の心構えが必要になってくるのだ。

 近づいてくる馬車を見つけて、城門が音を立てて開く。戦争前というだけあって、城門周りに兵士が多い。

 馬車は城門を通る前に停車して、全員兵士の検閲を受ける。念のため、アルは雫の剣の見た目は変えた。ないとは思うが、即逮捕なんてされたら全く笑えない。

「ん……ついた?」

 検閲で少々騒がしくなり、その影響で雫は目を覚ました。彼女はこの三日間、それも馬車の中で毎回八時間以上の睡眠をとっていた。それでいて体に何も異常をきたしていない。それだけで頑丈さがうかがえる。

「今検閲中だから、もうちょいで入れると思うよ。あと、あの剣は一応見た目変えといた」

「あー……うん、うん」

 雫は寝ぼけてほわほわした雰囲気を纏いで、大きな伸びをした。彼女の調子が元に戻る頃には、検閲が終わっていた。

「さ、降りるよ。道狭いからこっからは徒歩だ」

「へぇー、寝起きのいい運動になりそう」

 アル達は馬車から降りて城のほうを向くと、暫く顔を合わせていなかった三辻晴祥が何かを期待した表情で待っていた。

 その隣に、見知らぬ、しかし只者ではない雰囲気の男が気怠げに突っ立っている。

「……期待してるとこ悪いけど、ミツキはいないよ」

「……あ?」

「ミツキぃ?おいおい、まさか俺に隠してた四人目の転移者がいるのか?」

「……ちっ」

 一瞬で絶望した表情に変わった晴祥の顔を、隣の男が怪訝そうに覗き込んだ。晴祥は機嫌を悪くして目を逸らす。隣の男はため息をついた後、怠そうにこちらへ視線を向けた。

「まあいいさ。こほん……俺は桐生創、ヴェルン王国の技術顧問だ。ガウス騎士団及び転移者諸君、ようこそヴェルン王国へ。とりあえず城までついて来てくれ」

 桐生創という名前を聞いた瞬間、騎士団の面々は警戒心といた。そして言われた通りに桐生創の後ろを辿って城へと向かった。

「君らは転移者だろう?どれくらいの戦力として考えればいい?」

「僕らはそこの悲壮感溢れた背中してるやつより強いよ」

「舐めたこと言ってんじゃねえよ」

「それは心強いな。彼一人で大体十人くらい計算できるから、それが本当なら勝ったも同然だ」

 アルの発言に食ってかかる晴祥を無視して、桐生は初めて興味深そうな顔をした。

「……相手そんな弱いの?」

「強いのは数名だ。他はただスキルを貰っただけの有象無象さ」

 その発言を聞いて、アルはどこか拍子抜けした。それと同時に、この世界戦争は前の世界とは違い、魔法やスキルの強さなどの個の力が輝くものなのだと納得した。どちらの強さも体感したからこそ、それが集団の力よりも上であるとアルは理解していた。

「それに、頼れる仲間もいるからな。……さあ到着だ。急ごう、王が待っている」

 城の中は質素でありながら威厳の感じられる造りとなっていた。大きな廊下の壁には豪華な台座だけがあり、そこには何も残っていなかった。

「……君はこれを取ったんだね」

「ちょ、言っちゃダメだって……!」

 雫は周りをキョロキョロしながら、慌ててアルに静止をかけた。ローブで顔を隠しながら、背中を曲げてコソコソと動く様は不審者としか思えなかった。

 台座のあった廊下の突き当たりに、豪華で大きな扉があった。他の扉とは一線画すデザインで、そこが重要な場所、即ち王がいる場所だと即座にわかる。

 桐生はゆっくりとその扉を開けた。その光景に、騎士団全員は言葉を失って動きが固まった。

「……へぇ。存外腰の低い王様なんだね」

「これは……ちょっと居た堪れない感じ」

「王様、ガウスの兵が到着した。わざわざ呼んだんだ、何か用があるんだろう?」

 ヴェルン王国の王、ファラン・セントイルはアル達の目の前で護衛の兵士たちと共に跪いていた。一国の王たるものがするべき行動ではなく、その動作からはファランの確固たる意志が感じ取れた。

「なにもない……ただ、私の誠意と覚悟を示すために呼んだのだ。さあ桐生よ、今後の指示を頼む」

「なんだそんなことか、じゃあ解散だな。君たちは俺に、騎士団兵士達は右手にいるヴェルンの兵士についていってくれ」

 軍神と呼ばれ、小国ながら大国の王達と同列に語られていた賢王が跪く様に動揺を兵士達は動揺し、同時に畏敬の念を抱いた。彼らは困惑しつつもファランに最大限の敬意を払って、桐生に促された方向へと歩いていった。

「さ、君たちは俺の工房についてきてくれ。そこで今回の作戦……うん、作戦を説明するよ」

 先程までの怠そうな姿は何処へやら。桐生は楽しそうに扉を開いてその先へと進み、アル達もそれに続く。

 ドアがゆっくりと閉まる音がする。その直後に雫は安堵のため息を吐いた。

「……よ、よかった〜」

「バレたくないからって、あれは挙動不審過ぎるよ。みんな顔伏せててよかったね」

「?君は何かしたのかい?」

「不可抗力なのでなにもしてないです」

「……それはなにかした奴のセリフだが、どうでもいいな。俺はこの国とは関係ないし」

「え、技術顧問じゃなかったの?」

「それは事実だか、一ヶ月も過ごしてない国に思い入れなんか芽生えるわけがないだろ?それに、この国に俺をどうこうできる奴はいない」

 無責任な言葉を軽々と吐き捨てる桐生に、アルは少し引いていた。そして、一切信用してはいけないことも同時に悟った。

 桐生の評価がどん底に落ちた頃、廊下の奥の方からこちらに誰かが走ってくる。全員が王のいる部屋へと向かっていると思っていた。それはアル達を一度通り過ぎたあと、向かう速度よりも速く彼らの元へと戻ってきた。

 青年は目を輝かせ、なぜか嬉しそうに彼ら、いや、彼女を見ていた。雫はその視線に気づかないふりをして、どこか遠くを見つめていた。

「女神よ、来てくださったので……」

「邪魔するな」

 青年にとっての感動の再会は、無慈悲にも桐生の一撃で幕を閉じた。恐ろしく早い手刀が、その場にいる全員に見えていた。

「助かったけど……申し訳ないかも」

「あ、この人が君にご飯奢った人なんだ。じゃあ手出したらまずいんじゃないの?」

「さっきも言ったろう。この国に俺をどうこう出来る奴はいないとな。さ、先に進むぞ」

 桐生は気絶させた青年を放置して、軽い足取りで歩き続ける。だが、アルと晴祥の足は動かなかった。

「どうした?工房はまだ先だぞ」

「いやそうじゃなくて……この凄い殺気は、敵かなんかなの?」

 アルは奥の方を指さして桐生に尋ねる。

「ああ、これか。気にしなくていい。これもさっき言ってた頼れる仲間……」

 桐生が全て言い終わる前に、金属同士がぶつかり合う音がした。廊下の奥から飛んできたそれは、明らかな敵意と殺意を持ってアル達に攻撃を仕掛けていた。

「おい……生きてるじゃねえか」

「うーん、ちゃんと殺した筈なんだけどね。死体がないとは思ってたけど、野生生物に食べられたわけじゃなかったんだ」

 二人の視線の先には、鎖のようなものを手に巻きつけたツインテールの少女が立っていた。少女は喉を隠すように巻かれたチョーカーを剥ぎ取り、黒ずんだ大きな傷跡を二人に見せつけた。

「ちゃーんとしんだよ。ころされた。ただ、私は生き返っただけ。ちゃんと仕返し、受けてもらうよ」

 鎖が体の一部かのように自由に動き出す。二人は次の攻撃に備えて、鎖の先を視界に捉える。

「えぇ……なんか物騒だよ」

「まさか君たちが知り合いで、しかも過去に殺し合った仲だったなんて。いやいや、世界は狭いな」

 今にも殺し合いが始まりそうな状況で、桐生は能天気にも感心していた。

「そう連れないこと言わないでよ。多分僕は君と仲良くなれるよ。……隣の性悪男はおいといて」

「性根に関しちゃお前の方が悪いだろ」

「私からしたらどっちもだよ。それに、仲良くなれそうなんて口説き文句、前の世界で嫌ほど聞いてるから。その言葉に信用ないの」

 一触即発の空気を、破裂音が切り裂く。桐生は手を叩いて全員の集中を解いた。そして三人の意識は突然現れた危険な何かに自然と引き寄せられる。

「悪いがこれ以上は俺が相手になろう。……いいかい、君たちは仲間なんだ。内ゲバで戦力を削るなんて馬鹿な真似はゲームだけで十分なんだよ」

 先程まで一切の強さを感じられなかった桐生から放たれる危険臭に、アルは殺気を解いた。晴祥は、その要因を知っているが故に不機嫌そうに黒い影をしまう。

「千春、今君を失うわけにはいかないんだ。仲良くしてくれ」

「千春……そういや、そんな名前だったな。松永だっけか」

「そう、松永千春。桐生に免じて明後日まで我慢してあげる」

 松永千春。君塚裕也と共に行動し、アルと晴祥によって倒され、命を落とした少女。

 アルはここが死者が生き返る可能性のある世界だとわかった瞬間、心の奥で何かが溢れそうになるのを感じた。

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