「お前の心を殺す」
「そうそう、お前知ってるか? この世界じゃ、最初持ってたスキル以外にも、後からスキルを獲得できるんだ」
「知ってるよ。今の俺にはできないけど」
「? まあいい。俺はこれをさっき知ってな。すぐに使えそうなスキルを獲得したんだ」
劉はその場で軽く跳ねたあと、一歩で距離を詰めて飛び蹴りを放つ。
「身体能力強化ってのを取ったんだが、どうかな」
「……違いわかんねぇよ」
飛び蹴りは美月の腕に阻まれ、大した攻撃にはならなかった。劉は防御している腕を更に蹴り飛ばし、元いた場所へと飛んで帰っていく。
「俺には実感があるんだがな。まあ元々、これくらいで勝てるとは思ってない。お前からしたら、単なる児戯に過ぎんのだろう。……だが、スキルってのは同時に幾つも発動できる」
劉の右手に、辺りに飛び散っていた血液が集まり、右手の周りに赤い膜を形成する。その膜はどんどん黒ずんでいき、まるで腕と一体化したかのように見えた。
そして劉は腰を落として、前傾姿勢で構える。
「こんな風にな。……『跳躍』」
地面は大きくへこみ、その周りにはヒビが入った。『跳躍』によって上へ飛ぶエネルギーの方向を前方に変え、彼史上最速で美月の眼前に迫る。黒く塗り潰された拳が、美月の顔を狙って繰り出された。
美月はその黒から微かに漏れている光に気がついた。間違いなく避けるべき攻撃だと本能が示していたが、それでも回避より観察を優先した。
黒い膜が音を立てて砕け散る。堅固ななにかにぶつかった衝撃は視界揺らし、最後に青空を捉えた。先程の暴風によって雲一つ無くなっている。太陽の光を両目で受けたあと、美月はゆっくりと前を向き直した。
「だからどうした」
美月は鼻から垂れた血を舐めて、先程と変わらぬ、いや、少しだけ鋭い目つきで劉を睨みつける。両足は湿った土を後方に抉り、背中にはなにもついていない。
「驚きだ。でも、痩せ我慢だろ?」
劉は間髪入れずに追撃をする。今度はただの拳で、なにも脅威は感じない。これも、明確な意思を持って頰で受け止める。そして攻撃後の一瞬の硬直を逃さず、劉の腹部をぶん殴る。
「かはっ……」
劉は両足で土を抉りながら吹き飛んでいく。だがなんとか両足で踏ん張り倒れはしなかった。彼は一撃のダメージに悶え、嗚咽を溢す。
美月はそんな劉に指を指して、自分の決意を口にする。
「決めた。俺はお前の心を殺す。だから、好きなだけかかってこい。いつまでも付き合ってやるよ」
「……こっちはお前を殺すまでそのつもりだ。藍沢美月」
劉は息を整え、再度血液を纏う。今度は右手だけでなく、両手両足が黒く塗り潰された。そしてそのまま美月に蓮撃を喰らわせる。
「……よし、今度はこっちの番だな」
その蓮撃を全て受け止めて、視界に地面を捉えたまま右手を振り抜く。今度は微かに角度をつけて、避けようとする劉の腹部をとらえる。劉の体は僅かに浮き上がり、ラクトールのときと同じくらいの距離を無防備に旅した。
美月は口の中の血を地面に吐き捨て、仁王立ちして劉が戻ってくるのを待つ。ただ心を折るために、全ての攻撃を受け止めるつもりでいるのだ。
脳内にラクトールの声が響く。
「無茶が過ぎるが、お前らしいっちゃお前らしい。でも大丈夫か?」
「大丈夫だ。俺の意識が飛んだときはお前に任せる」
「……出て来れるかはわからないが、最善は尽くそう」
「ああ、頼りにしてる」
美月は確固たる覚悟でこの場にいる。だが、ただ一つの誤算が存在した。それは、スキルは使えば使うほど成長し、効果が上がるということ。長引けば長引くほど、彼はどんどん不利になっていく。それどころか、劉に関してはそこまで織り込んでこの戦いを仕掛けてきているのだ。殺されないことがわかっている以上、死への恐怖は彼の心に作用しない。なんなら攻撃を受けても回復してから仕掛ければ良いので、ダメージの蓄積による精神への影響も低い。この事実に気づくかどうかが、このバトルの勝敗へと大きな影響を与えるだろう。




