「全く、その余裕が羨ましい」
数分前、美月の一撃で深い森を切り裂くように吹き飛んだ劉は、失っていた意識を取り戻した。体は太い木の幹にめり込んでいる。
「ふざけんな……チートだろあんなの!」
劉は数分前を思い出し、怒りに身を震わせる。この怒りは、どうにかしてやり返さないと晴れることはないと彼は理解していた。だが、全身が痛み、まともに動けない。
「なにかないのか……。少しでもいい……記憶の断片から探すんだ……!」
かろうじて動くに脳みそに全てのリソースを割き、この状況から怒りを晴らす方法などを模索する。とりあえず、現状の武器を整理するために右手にしまったものを全て取り出す。その辺に倒れている木と似たようなものが続々と出てくる。武器として使えそうな刃物もいくつか見えるが、これが三月に通用するとは到底思えなかった。それでも武器であることに変わりはないので戦力としてカウントする。それらを収納するため地面を這うように手を伸ばした時、きらりと青く光る立方体のキューブを発見した。彼の本能が何かを感じ取ったのか、彼はすぐさまそのキューブを手に取った。
「これは確か、俺のスキルやその他情報が乗っていた謎の機械だ。だったら、他にも機能があっておかしくない」
キューブをつまむ指に力を入れる。するとその面が押し込まれ、代わりに青い画面が目の前に現れた。劉は手を伸ばして画面をスクロールし、使えそうな機能をくまなく探す。すると、若葉マークの右に、スキルツリーという言葉が木のアイコンの下に記載されていた。
「これは……!」
アイコンに触れるとゲーム画面のようなスキルツリーと、膨大なスキルポイントが現れた。よく見ると、ツリー状のもの以外にも単独で獲得できるスキルもあるようだ。劉は戸惑う間もなく、血眼になって役に立ちそうなスキルを隅から隅まで探し始めた。
「これならなんとか出来る……」
そう言って劉は大量のスキルを獲得した。
スキルを獲得した途端、劉の体が急に軽くなった。回復力と身体能力がスキルによって上がったためである。痛みはどんどん弱くなり、やがて両足で立ち上がった。
「さぁ、勝負と行こうか。藍沢美月」
その両足で大地をかけ、直ちに「数」本部のあった場所へ向かう。深い土煙の中を切り裂くようにかけると、やがてそれが薄くなる。一度足を止めて、ゆっくりと土煙の向こう側へ進む。すると、足元へと何かが転がってきた。見ると、それは「数」のトップである花端賢彰その人だった。劉は躊躇なく頭を踏みつけ、その先にいるであろう男を睨みつける。
土煙が晴れ、やがてその男の姿がはっきりと目に映る。
「よぉ、仕返しに来たぜ」
「あー、いたなお前」
そして花端の頭を踏みつける足に力を込めて、そのまま踏み潰した。辺りに血飛沫と脳髄が飛び散る。
「感謝しろよ? 殺す手間省いてやったんだから」
「恩義せがましいやつだな。それで、仕返しってなんのことだ? 俺はお前の計画を手伝ってしっかり成功させたんだから、感謝すべきはお前の方だろ」
「違うな。俺はお前を殴ってないが、お前は俺をぶん殴った。人じゃない何かをぶち壊す勢いでな。ありゃあ痛かった。あと、俺の計画はまだ成功してない」
「はあ? どう見ても成功だろ。ここのトップはお前が今殺したし、さっき建物が落ちてきたので残ってたやつは大体死んでる」
「だからそれは関係ない。俺の目的は組織の乗っ取りだからな」
劉がそういうと、美月はあー、と声を上げてから頷いた。
「確かに、そんなこと言ってたなお前。でも俺の目的は果たしたんだよなぁ……」
「俺は俺で勝手にやるさ」
「そうか、じゃあ俺も向こうの加勢にでも行くか」
「俺もそこへ行ってそこにいる奴らを全員殺す」
「……無理だね。お前じゃ俺の仲間に勝てない」
「じゃあその表情はなんだ? 途端に怖い顔になったが」
「……」
表情の変化を指摘され、美月は一瞬押し黙る。一度不意とはいえ一撃で方がついた勝負と言えない物をした上で、この余裕を見せる劉に、なにかあると思わずにはいられなかった。一瞬だけ沸いた疑念、そしてその隙を見逃さずに、劉は首尾よく口撃を続けた。
「ほら、少しでも可能性を感じたんだろ。ならその本能に従うのが正解だ。お前のすべき選択はここに残って俺の足止めをすること。というか、人の殺せないお前にはその程度が限度だ」
劉は敵意に満ちた笑顔を美月に向けた。彼は一切負ける気がしていない。美月が人を殺さない人間である限り、彼にとっての敗北は存在せず、生きれば生きるほど勝つ確率も上がっていく。美月がこの場から去らないように、布石も打った。彼の中では、すでに勝負が決したと言っても過言ではなかった。
美月も、劉の発言の意図を汲み取り強気に言葉を返した。
「そんなに離れないで欲しいならそう言えよ。お前、見た目によらず寂しがり屋なんだな」
「全く、その余裕が羨ましい」
そうして両者共に臨戦体制に入る。共に構えはなく、隙もない。
彼らの間を流れる空気が、熱で歪んで見えた。




