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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
神の真名
8/90

「そういうことか……」

 木の枝の支柱に肉が吊るされ、さまざまな香草が燃やされて出た煙が立ち込めている。ドラゴンは内臓などを残して一通り解体され、綺麗にはがされた鱗や翼膜は一か所にまとめられていた。

「で、きた?」

「うん、完成したね」

「やっと終わったぁぁぁぁ……!」

 およそ16時間ぶっ続けの作業が終わり美月は力なく地面に倒れこむ。硬い地面の感触なんて気にならず、気を抜いた瞬間深い眠りに誘われる気がするほど美月は心身ともに疲れ切っていた。

 レベル2になったことで魔力を感じ取れるようになり魔法が使えるようになったのだが、美月はそれに気づくまで日が昇るくらい時間がかかった。しかし結局感覚はつかめず、その辺の木を切ったり削ったりして肉を吊るす土台を作った。そもそも美月が魔法を使うこと自体が間違いだったようだ。

 何とか作り終えても

「どうせ鑑定スキルとか取れるだろうしそれ使って香草集めてきて」

とかいうアルの思い付きで香草集めに駆り出され、今の今まで一切休む暇がなかった。

 アルも同じように動き続けていたはずなのだが、やはり経験の差か、美月と比べて全然平気な様子だった。

「お疲れミツキ、先に寝てていいよ。あとのことは僕がやっとくから」

「いいのか?お前も疲れてるんじゃ……」

「僕は慣れてるから。それにミツキは魔法を沢山使ってたんだから、ミツキ自身が思ってるより疲れてるはずだよ。起きてるだけでも辛いだろうし、僕のことは気にしないで寝てなよ。ミツキの想像以上に僕強いし」

「……そうだな、お言葉に甘えさせてもらうぜ……」

 そういって美月は倒れこんだまま深い眠りに落ちた。アルは美月が完全に眠ったことを確認し、美月の首に思い切りナイフを振り下ろした。

「……そういうことか」

 アルは眠っている美月の首にナイフを突き立てた……のだが、美月の首に突き刺さるはずだったナイフは何らかの力が働いたかのように逸れ、勢いよく地面に突き刺さった。耳元で風を切る音が鳴ったはずだが、美月が起きる気配はない。

 それを見たアルは気づいたことの確信を得るため、自分の首にナイフを突き刺した、がやはりナイフの切っ先は空を切り、アルの首にはかすりもしなかった。

「ミツキとあのドラゴンに追われてたとき、僕一人のときより遅い気がしたのは気のせいじゃなかった」

 はあ〜、と安心したようなため息をついてゆっくりと腰を下ろす。

「これで安心して眠れる。美月が寝込みを襲うなんてことはしないだろうけど少しの時間一緒に過ごしただけでわかった気になるのは危険だから、確証が持てて良かったよ。襲われてもあと……どれくらいだ?この世界に来たのが15時で、今が翌日の12時だから……あと51時間は……へ……いきだ……」

 この世界に来てから張り詰め続けていた気がぷつりと切れたのか、アルもぱたりと倒れ、眠ってしまうのだった……

 6畳程の和室に座す青髪の男は、背後に気配を感じた瞬間、腰に携えた太刀で斬りかかる。ちりんっ、という鈴の音が響き、少女の長い白髪が剣圧になびいた。

「あっぶな。自慢の白髪がビリビリになっちゃうところだったよ」

 男は刀を返し、ゆっくりと鞘に納める。

「……なんだお前か。それで、一人でなんのようだ?」

「ちょっと話したいことがあってね」

「ほう?」

「いくらなんでも、行動が早すぎるよ。開始直後にエラーなんて起きたらすぐにバレちゃうだろ」

「お前はいつも大雑把のくせに、こういう所は細かいんだな」

「そりゃ慎重になるさ。あんな(じじい)共でも世界を成り立たせるためには必要なんだから。

 そういうお前は、いつも神経質なくせになんでこういうときばっか大胆な行動を取るんだよ」

「だって気になるだろ?あの状況で真っ先に名前を聞くなんて、肝が据わってるどころの話じゃない。それに、お前が殴られそうだった時も身を挺してかばった。お前の人外な力を見た後に、だ。肝が据わってるだけじゃない。凄く、そそるだろ? ……好奇心を抑えられるわけがない」

 青髪の男が楽しそうに語るのを横目に、白髪の少女は呆れたようにため息をついた。

「まったく……ノアにバレないように、手回しだけは手を抜くなよ?」

「心配いらない」

「ならいいけど……」

 少女は長い髪を翻し、青髪の男に背を向ける。

「話は終わりか?」

「うん。変に長居しても怪しまれるし、企画の行く末を見届けなきゃいけないからね」

「そうか、引き止めて悪かったな」

「それじゃあバイバイ」

 その言葉が聞こえたときには、少女は目の前からいなくなっており、代わりに新しい気配が周囲を取り囲む。青髪の男はその気配が何によるものか知っているようで、全く声色を変えずに問いかけた。

「どうした?固まってないで、早くかかってくればいいじゃないか」

「もっとも……」

 ちりんっ、という音共に気配がなくなり、バタバタと何かが落ちる音が響く。

「貴様ら程度の悪魔では、試し切りにもならないがな」

 男は太刀に付着した黒い体液を振り払い、静かに鞘に納めた。

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