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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
鳳凰の翼
73/91

「良くて2%」

 美月と劉に質量の波が押し寄せる。これほどの差となると、何故か嵌っていた連携を見せる機会もなく、二人は簡単に分断されてしまった。それどころか、足を止める暇さえない。動き続けなければ簡単に包囲され、そうなれば質量で圧殺されるだろう。例え個の戦闘力が著しく低くても、ひとまず逃走という選択を取らざるをえない。これが、1週間足らずで100人余りの組織を作り上げた男のスキルである。

「逃げてばかりじゃ、どうにもならないよ」

 至る所から声が反響して聞こえる。やはり、声を出しているのが本体だなんて、児戯のような答え合わせが出来るほど甘くはなかった。劉は足を止めず、聞く耳も持たずに策を考える。

 花端を相手にする上で、最も困難なのが本体の特定である。彼の持っている知識が花端のスキル「増殖(ぞうしょく)」の全てであるのならば、コピーは本体からしか生まれない。逆に言えば、それ以外に判別方法がない。そのため元々のプランでは本体のいる部屋を襲撃することによって、このポイントをクリアしようとしていた。例え1秒で100人に増えようが、増える前に殺せる自信が彼にはあったのだ。しかし、それ以外の方法は考えていなかった。否、考え付かなかった。それでも、この状況を悲観する程度の人間ではなかった。

「全く……これだからやめられない」

「なんだ。鬼ごっこ、好きなのかい?」

 劉は何を思ったのか、その場に立ち止まった。全身が脱力して、指先までだらんと伸び切り、質量の波の前に無防備な姿を晒している。諦めたとしか思えない行動だが、表情はどこか余裕そうだった。

 コピーが眼前まで迫ったとき、心の底から愉快だと言わんばかりの笑顔を見せた。

「いいや……弱いものいじめさ!」

 劉の足元に、突然大木が生えた。そして、その衝撃で移動しながら、家や巨岩などが突如として、コピーの目の前にある空間から発生した。圧倒的な質量を持つそれらは、大量のコピーを蹴散らしていく。その衝撃で地面は抉れ、木々が悲鳴を上げてへし折れる。元の大きさに戻ったそれらが隠れるほどの土煙が巻き上がる。

「はは、やはりデクじゃないか。貴様らなぞたかだか150斤程度の肉にすぎん」

「これは……してやられたね」

 劉は右手の中のものを上空に放り投げる。そして、彼の周りだけが明るく見える。大木も、小屋も、巨岩も、先程までの光を失っていた。そこにあったはずのものに、奪われたのだ。

压碎(押し潰せ)!」

 まるでこの大地が何かに衝突したかのような音と衝撃が辺り一面を飲み込んだ。地響きが轟き、地面に大きな裂け目が発生した。

 「(アルファ)」の本拠地であった屋敷は、下の階層が押し潰れ、観測できる全ての窓が砕け散っている。これだけで落下の衝撃が、言葉に出来ないほどの威力だと悟れる。

 劉は地面の揺れで崩れた体勢を整え、辺りを見回して生き残りを探す。

 衝突を避けられたのは中庭だった場所にいた者だけであり、生きている確率があるのもそこにいた者だけ。花端が本当に死んだかどうかの確証が欲しいが、死ぬ間際に大量に増殖していたら本体の見分けがつかないので、やむなし。というより、彼の心はこの衝撃で弱った人間を嬲れるという高揚感で満たされていて、生死の確認をするまでその我慢を出来なかった。

 まるで大災害にあった翌日のような地面を跳ねまわる。そんなら彼の目は、一寸先は闇のような土煙をものともせず、標的のシルエットを捉えた。そして、彼の動きが止まる。

 シルエットは、何故か屋敷の上に存在している。この違和感は、彼を落ち着かせるには十分だった。

「驚いたよ。まさかこんな方法で僕を殺しに来るなんて。本当に……天晴れな策だ」

 同じ声が、複数の方向から聞こえてくる。それは、この策が不発であり、同時にさらに厳しい方向に陥った事実を示していた。

「……なんで生きてんだよ」

 劉は冷や汗をかきながら、奥歯を固く噛み締める。

「いや、死んださ。間違いなく、本体だった僕はこの屋敷の下敷きさ」

「……じゃあ、とっとと目の前から消えてくれるか?」

「それは出来ないな。だって今は、僕が本体だから」

「なっ……!?」

 その一言は、彼の表情を歪めるには十分すぎた。余りの衝撃に、思考が止まる。その顔は、絶望を味わうどころか、受け止めきれていないようにも思えた。

「言ってなかったっけ。僕は、オリジナルを変えられるのさ」

 劉は地面を思い切り蹴り飛ばし、花端の方へと走り出す。今取れる最善を、動きを取り戻した思考で弾き出し、それを即座に実行したのである。壁を蹴って階段のように駆け上がっていく。

「正直、終わったと思ったよ。でも、元の大きさに戻るまでの時間で増殖しまくって、なんとか/僕を範囲外に運んだんだ」

 劉の足刀は花端の頬に突き刺さり、そのまま顎を吹き飛ばす。だが、声は止まらない。

「ごめん、裏切っちゃったかな。さっきの、僕が本体っての嘘だった」

 既に劉の周りは、彼を囲うようにコピー達で溢れかえっていた。さらに、本体の居場所も不明になるというおまけ付き。

「さて、君の仲間は下敷きになっちゃってるわけだから、僕の相手を一人でするわけだ。勝算はどうかな?」

「笑わせるな……。良くて2%だよ」

 

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