「奇遇なことに、全員日本人だな」
「桐生……それは失礼した。てっきりどこかの国の間者かと思ったよ」
杉下が剣を納めると、体中から放たれている虹色の気が嘘のように消え去った。
「ああ、全然間者だ。あんたの判断は正しいよ……おおっと、逃げるんじゃない。大事な話があるんだ」
機を見て逃走を図ろうとしていた晴祥の行動はあっさりと見破られ、あまつさえ、右腕までつかまれてしまった。見た目からは想像できない力の強さで、動きを封じられる。見た目で判断できないという、この世界で痛いほど味わった教訓がさらに身に染みる。だが、これに関してはレベル差だけでは説明できない何かがあるような気がした。
「そう睨むなよ。俺は協力したいだけなんだから。暴れたりないっていうなら、話は別だけどな」
桐生と杉下を前に、晴祥は隠密を解いた。話を聞く表明だろう。それもそのはず、このまま全力で逃亡を図っても成功するのが困難だという事実と、交戦に打って出ても勝つことの難しい戦力差を理解しないなんて馬鹿な真似はできるわけがなかった。
「……三辻晴祥」
「ほう……俺は桐生創、こっちは杉下桜だ。奇遇なことに、全員日本人だな」
「俺は、お前らとは来た時期が違うがな」
「時期が違う?」
「俺は数年前、この世界に呼び出された。お前らはここ最近だろ? その証拠に、俺はお前らが持っているスキルの代わりに、神力をもらってる……と思っていたが、お前らからもおんなじくらいのものを感じる」
やれやれ、といった感じでため息をつく杉下と、納得しているかのように首を縦に振る桐生。晴祥は一人置いて行かれる前に制止をかける。
「ちょっと待て、神力ってなんだ」
「……君もか」
「そりゃそういう反応になるよな。俺も、昨日はじめてこの力に気づいた。杉下、説明を頼む」
「ああ。……さっき俺の周りに虹色のオーラが出てただろ? あれだ」
「……なるほど」
ざっくりとした説明に、晴祥はそう納得せざるを得なかった。この雑な説明には、流石に桐生がツッコミを入れる。
「おいおい、俺の時はもっと詳しかっただろ」
「そのあとがたがた反論してきたのはどこのどいつだ」
杉下は恨めしそうに桐生を睨んだ。この反応から、相当大変だったとうかがえる。
「まあ、しょうがない。お前の質問に答えたんだ。こっちの質問にも答えてもらうぞ」
「……」
晴祥は少し身構えて無言を返す。
「お前の知ってる中で、戦える転移者は何人いる?」
「俺を入れて三人」
敵対した時のことを考えて、即答で戦力を一つごまかす。最初から考えていたような答え方だがったが、桐生は一切疑う様子を見せなかった。
「この国に三人、お前の仲間に三人。向こうは俺が抜けて九人か。そのうち、本気で相手どらなきゃいけないのは……俺の想定なら三人、多く見積もっても四人。うん、いける」
「これで終わりか?」
「聞きたいことはな」
「なら俺は帰る」
「待て、ほかに用がある」
「……手短に頼む」
「それはお前次第だ」
桐生は右手を前に出して、手のひらを見せる。すると、先ほど見たような虹色の光が、右手の周りにあふれ出した。
「今からお前にはこれを覚えてもらう」
「これって……神力だろ? 覚えるも何も……」
「だから、使い方を教えるといってるんだ。察しが悪くて困る。大量にあっても、使えなきゃ意味ないだろ? さっきだって、神力を使いこなしてなきゃお前に逃げられてた」
桐生は虹気を消して右手を握る。そこからは、先ほどまで脅威と感じていたものがみじんもなくなっていた。
「どうだ? 教わる気になったか?」
晴祥は無言で桐生たちのほうに一歩進む。神力を使いこなすことによって得られる強さは、ここに滞在する危険性を軽々と凌駕するほど、魅力的なものだった。
「杉下、あとは任せた」
「はいはい……まったく、けが人をこき使いやがって……」
杉下はぼやきながら、晴祥に手を差し出した。晴祥は差し出された手を見て、握手に応じる。
「よろしくな。お前は覚えが早そうで、今から助かってる」
同時刻、ゴーゼスタウンから見て、南東の森。美月は自分の体に起きた新たな異変への対策をするために、一人で魔物の多い地点にやってきていた。
美月は神力をまとわせて大木を殴る。
「……やっぱ、威力下がってるきがするな~」
木に当たった手を握ったり開いたり繰り返して、今までとの些細な違いに違和感を感じていた。普通に動く分には今までと変わらない。だが、神力を使うと、今までよりすべてにおいてパワーダウンしているのだ。やはり、ラクトールからなにも反応がないのが原因なのだろう。今の今までずっと問いかけても何も反応がない。そういえば、今は神力をまとっている状態だが、ラクトールに教えてもらったときは拳の何から何まですべてに神力を込めていた。志倉との戦闘時はとりあえず神力を使うことに注力していたが、今は時間も場所も余裕もある。消えたラクトールが気がかりだが、とりあえずは前の感覚を取り戻すことを目指そう。
そう思った矢先、美月の背後から騒ぎを聞きつけたのか、記憶に新しい軍服を着た兵士が数名沸いて出てきた。
「貴様、何者だ。わが軍以外で神力を使う人間など聞いたことがない」
「隊長、先日第二王子直属の部隊が謎の力によって倒されたとの報告があります。おそらく神力かと」
「ではこいつがその人物である、と?」
「可能性が高いかと」
位の高そうな兵士が剣を抜いて、こちらに向かって何か言っている。聞き取れない以上、美月は反応を返すことができず、適当に相槌を打った。すると、どこか気に障ったのか、叫びながら後ろにいた兵士たちが襲い掛かってきた。
「……理不尽だ。まあ、実戦練習と思えば許せるな」
美月は前の感覚を手繰り寄せながら、綿密にとらえようとする。
今後、「数」のような連中を相手にすることがあるかもしれない。そんなとき、殺さないように戦っても勝てるくらいの力が必要になってくる。
手始めに、目の前の相手だ。
美月は全身を巡る神力に意識を向け、握った拳を軽く振るった。




