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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
鳳凰の翼
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「最低だな」

「……」

 「(アルファ)」本部の会議室にある円卓の真ん中。最も位の高い人間が座る場所で、男が表情を曇らせた。

「どうした?」

 一人が異変に気づき、男に声をかける。

「……俺が5人殺された」

「……!?」

 男の答えは、その場にいる全員に激震を走らせた。

 一人がたじろぎながら男に尋ねる。

「い、一体誰に?」

「桐生創。裏切ったのさ、あいつが」

 男は歯ぎしりしながらそう答えた。だが、すぐに表情は戻る。そして、静かな声が会議室に響いた。

「……戦争をしよう」

 その場にいた全員は迷うことなくその言葉に賛成の意を返す。それは、圧倒的な自信から来るものだった。

 男が具体的な話を進めようとしたとき、会議室のドアが蹴破られ、ドアは数回バウンドして変形した。

 全員の視線がそこに集まる。光の中から正体がゆっくりと顕になる。

「何の話か知らないが、それ、俺も混ぜてくれよ」

 そこには、転移二日目、美月たちを襲った男である劉然が立っていた。右手で血まみれの人間を引きずるように持っている。

「待……」

 男の静止を聞かずに、一人が劉に攻撃を仕掛けた。右腕が獣のように変異し、見るからに破壊力が高そうになる。その攻撃は確かに手応えがあり、吹き飛んだものは見えない速度で壁にぶつかった。

「……木崎」

「悪い」

 男に睨まれ、獣のように変異した腕を元に戻し、すぐさま謝罪をする。

「こっちにも謝ってくれよ。人にいきなり殴りかかるなんて、礼儀がなってない」

「なっ……!」

 先程攻撃して、壁に叩きつけた劉の声が後ろから響く。

 木崎は煙の立っている壁にすぐ視線を当てる。そこには、劉ではなく、血まみれの人間が力なく倒れていた。

「お前……!」

 木崎は劉をにらみつける。しかし、劉は余裕の表情のまま変わらない。

「おいおい、やったのはお前だろ?」

「血まみれになるまで痛めつけたのはお前だ」

「俺は正当防衛だ。お前と一緒で、急に襲いかかってきたからボコボコにしただけ。途中なんか叫んでたが、日本語だからわからなった」

「こいつ!」

 飄々と、小馬鹿にしたように笑う劉に、木崎は感情を抑えきれず殴りかかる。だが、その拳は劉に届かなかった。それどころか、木崎は動くことさえ出来なかった。

「待て、と言ってるんだけどな」

 木崎の体は男と全く同じ見た目をした人間二人に押さえつけられた。

 男は席を離れて劉の前に立つ。

「歓迎しよう。僕は花端賢章(はなばたけんしょう)。君の名前は?」

劉然(りゅうらん)。話がわかるやつでよかったぜ」

「これで君も「(アルファ)」のメンバーだ」

「へー、そんな名前なんだな。まあ、どうでもいいか。それで、さっきまでなんの話してたんだ?」

「そのことなんだが、君を会議には混ぜられない」

「は?」

 一瞬で矛盾する花端に、劉は敵意剥き出しの声で威圧する。だが、花端は気圧されず冷静に説明を始めた。

「君は議席を持っていないし、そもそもそれはもう埋まってるんだ」

「なんだよ、議席って。」

「この組織の方針を決める会議に出席する資格だよ。有象無象がバラバラに意見を出しても、なにも決まらないだろう?」

「じゃあ、それはどいつが持ってるんだ?」

「ここにいる全員さ」

 花端は不敵な笑みを浮かべた。

「……じゃあそれが空けばいいんだな」

「簡単に言うとそうだね」

 その言葉が発せられた瞬間、花端の顔の真横を赤い何かが通り抜けた。そしてうめき声がなり、壁に何かが激突した。パラパラと壁の一部が崩れる音がする。

 花端はゆっくりと後ろを振り向いた。そこには、赤い棒で体の真ん中を貫かれ、今にも息絶えそうになっている仲間がいた。

「これで、一つ空いたな。今度こそ歓迎してくれよ? 花端賢章」

 劉は手を軽く2回はたいて、冷たい笑顔を浮かべた。


「本当に、ありがとう!」

「いやいや、そんな頭下げないでくださいよ……」

 志倉を退けたあと、動ける人間でガウス騎士団の兵士たちや倒れていた冒険者たちを街まで連れてきた美月たちは、目を覚ましたキルスにこれでもかというほどお礼を言われていた。

「君のお陰で隊員たちの命が救われたんだ。そう安安と頭は上げられない」

「そう言われても……」

 美月がキルスの対応に困っていると、ドアがゆっくりと開いた。

「あ……美月」

「あー、えーっと……」

「クロノちゃんだよ。名前くらい覚えときなよ。だからモテないんだよ」

「最低だな」

「ボロクソ言いすぎじゃねーかな? てか、だからモテないってなんだよ。お前は俺の何を知ってるんだよ」

「じゃあ、モテてたの?」

 美月は図星を突かれて目を逸らす。

「……全部こいつが悪い」

 挙げ句に、親友であるはずの晴祥のせいにまでしだした。

 実際、美月は持ち前の目つきの悪さと負けず嫌いが相まって、不良として高校生活を送っていた。その上、唯一の友人が近辺で有名な不良かつ、イケメンの晴祥。美月がモテる余地はなかった。

 だが、事実だとしてもこの上なくダサい行動をしていることに、彼が気づく余地はなかった。

「人のせいにするなんて。だからモテないんだよ」

「最低だな」

「でも私は好きだよ」

「いつからそんなに仲良くなったんだよ……」

 息ぴったりに見えるアルと晴祥に、美月はため息混じりにそう呟いた。

「ナチュラルにスルーすんじゃん」

「いや、ありがたいよ。ありがたい」

「ええ……男子高校生がする反応じゃないよそれ」

 妙に達観した美月に、雫は少しの戸惑いを見せる。というか、美月がこの世界に来てから、段々と精神が人間のそれとは剥離していっている。感情が昂ったときは例外とすると、どこか達観した、悟っている風に見える。ただ慣れない場所での精神的疲労もあるので、それが起因したものなのかもしれない。

「それより、なんでこいつは俺の顔を見つめてるんだ? さっき美月の名前呼んでただろ」

 ドアに隠れながらこちらを見つめるクロノは、晴祥のことばかりをじっと見つめていた。

 その様子を見て美月たちはあることを思い出した。

「あー、あれだよ。お前、この街に来たとき強盗したろ? そのときお前が助けた子だよ」

「記憶にないな」

「最低だな」

「お前……」

 美月なりの意趣返しが決まり、彼は微かな優越感に浸る。やはり、どこか達観した風に見えるのは気の所為だったらしい。美月の行動は人間らしさ全開のものだった。

「じゃあ君が晴祥君か。丁度いい、取り調べも兼ねて少しお喋りしようか。クロノ、怖がらずにおいで」

 キルスの呼びかけに応じて、クロノは小走りでこちらに駆け寄る。

 クロノは晴祥を見上げて、目を輝かせた。

「あ、ありがとう!」

「なんだこのガキ。お礼を言われるようなことをした覚えはないぞ」

「え……」

 クロノの目から光が一瞬で消えた。最初にあったときとの変わりように脳が対応出来なかったようだ。

「ちょ、お前! 子供だぞ!」

「だからなんだよ。俺はどんなやつでも俺と対等に扱う」

 持論を語る晴祥に、美月は呆れ返ってため息をついた。

 事情を飲み込めていない雫は首を傾げる。

「ちょっと何があったか説明ほしーんだけど……」

「違法な奴隷商売やってるとこ襲って、金品盗んで、商品を逃した」

「わお、凄い簡潔な説明。てか、君そんなことやってたんだ。最近の高校生怖ー。あ、じゃあ君犯罪者か。5年以上の懲役プラス窃盗罪の加重があるんだっけ?」

 一般に生きていたら出てこないような知識が、雫の口からペラペラと流れてくる。

「なんでそんなに詳しいんだよ」

「一応、法学部目指してるから」

「嘘だろ!?」

「そんな驚く?」

「そりゃあ、ねえ」

 美月たちは顔を見合わせて、さも当然かのような反応をした。

「……話を進めてもいいかな?」

「あ、すいません」

 そして晴祥に対する取り調べが行われた。美月たちもその場に居合わせている、ということを踏まえると公式なものではないと考えつくが、そのやり取りは真剣そのものだった。

 犯行動機に犯行の説明、盗んだものなど、聞かれたことに晴祥は全て素直に、そして簡潔に答えた。

「金を準備するため。それにあいつらなら俺が社会的正義になれると思ったから」

「『隠密(隠密)』で地下まで後をつけて、一人になったやつから殴った。逃げたやつが金庫まで案内してくれたから、全部奪った」

「金貨450枚。ここにある」

 そう言って晴祥の左手から剥がれるように現れた影から、小さな小包が出てくる。

「これは……中々なものを盗んでいるな」

 その小包を見たキルスから、少しの汗と、焦りが感じられた。

「一定量までこの中に収納できるらしい。重さも変化しないし、かなり便利だ」

「そんなん持ってるなら言えよ。食料入った袋をわざわざ運ぶ必要なかったじゃねーか」

「いや、食べ物と他のもの一緒に入れるのは違うだろ。匂いとかついたらどうするんだ」

「そんなこと気にするタマかよお前!」

「それで、さっきから凄い悩んでるけど、どうかしたの?」

 小包を見てから明らかに考え込んでいるキルスに、アルは疑問を投げる。キルスは少し言い淀んで、重たくなった口を開いた。

「……被害総額が金貨500枚を超えると刑が一つ重くなるんだ。奴隷商売の利益から見て、奪われた金貨は推定400枚だったから、俺が働きかければ罰金だけで済んだかもしれない。だが、一つ上になると……」

「懲役刑は免れない、と」

「ああ……」

 病室は重たい空気が流れ、まるでお通夜のような雰囲気になる。クロノも重たい空気に押されたのか、晴祥の様変わりした問答にショックを受けているのか、どちらかはわからないが、黙ったまま。しかし、そんな暗いムードを一切気にしない男が一人、静かな空間を割った。

「思ったんだけど……今取ったものを返したらどうなる?」

「あー、それでも、奪った事実は変わらないと思う」

「じゃあ奪うことをどうにかして正当化させればいいんですね。晴祥、そういうの得意だろ?」

 美月は晴祥の方を向いて、悪い笑顔を向けた。

「まあ、そうだけど。ったく……自業自得とはいえ、面倒くさい」

 晴祥は頭に手を当てて、口を閉じる。またしても沈黙が病室に流れる。そして数秒後、一つの案が晴祥の口から飛び出した。

「正規の仕事にしてしまう……。つまり、俺をアンタの騎士団に入れて、密偵兼執行人にしてしまえばいい。幸い、奪ったものには手をつけていない。今返せば任務を忠実にこなしたことになる」

「確かにいい案だが……ガウス騎士団に入るのは容易なことじゃないぞ? 入団試験だって三ヶ月後だ」

「俺を逮捕しなきゃなんない理由はガウス王国の権威を落とさないためだろ。俺を捕まえなければ犯罪者を逃したことになるからな。

 とりあえず、信用に値する実績を立てて、その後文書改竄やらなんやらして最初から在籍したことにすればいい。先程新聞を読んだがどうやら俺は若干の英雄視を受けているようだし、ここで逮捕して民衆の反感を買うのは国としても避けたいだろ」

 晴祥は小包をキルスに差し出す。

「そちらにとっても悪い話じゃない。これを受け取ったら応じたと捉えさせてもらう」

 キルスはそれが実行可能かどうか、必死に考える。いい案だ。いい案ではある。今民衆の人気を集める彼を騎士団に配属すれば、この街での風当たりも少しは良くなるとは思う。だが、信用させる手立てがない。国としても賛成は貰えるだろうが、民衆が信じるのだろうか。今、我が国で信用度を上げられるような困り事なんて……。

 悩みに悩んだ挙げ句、キルスの手は小包の手前で止まった。

「悪いが、今実績となるような王命は出せない。処置が遅れれば遅れるほど、国の信用度は下がるし、君への信用度も下がる。これらのことから、それを許容することは……」

 少しだけ開いていたドアが勢いよく開かれる。キルスの言葉はドアがぶつかる音にかき消され、美月たちの耳に届かなかった。

「緊急です! ヴェルン国が戦争をするとの情報が入りました。」

 突然の情報にキルスは驚きながらも冷静に対処する。

「元はどこだ」

「ヴェルン国大臣、ニエル・メクティム様です」

「大臣ってことは……本当らしいな」

 キルスは晴祥の方を向く。

「三辻晴祥、そして、美月君たち。頼みたいことがある」

 晴祥は美月と顔を見合わせる。

「てことは……」

 キルスは小包を受け取り、爽やかな笑顔を浮かべる。

「その話、乗った!」

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