「やっぱり山暮らしじゃ……」
「というかまず、それホントに死んでるのか?」
美月は頭を押さえながらドラゴンを指さしアルに問いかける。美月にはドラゴンというゲームとかでもかなり終盤に出てくるような生物が上から木が降ってきただけで倒せるような強度とは思えないからだ。
「どうだろ。とりあえず確認するよ」
そういってアルは懐からナイフを取り出す。
「ふーん、今から……ってえ?なんでそんなもん持ってるんだ?」
「多分直前まで持ってたからじゃない?ネムちゃんに殴り掛かった人も金属バット持ってたし」
「でも野球やってそうな見た目じゃなかったが……」
美月はその時のことを思い返す。不良っぽい見た目でもなかったし、ぱっと見40代くらいの人が何故そんなものを持っていたのか不思議でならない。
「あの近くに野球のユニホームを着た子がいたからその子から奪ったんじゃないかな。まあ野球が趣味のおっさんって線も全然あるけど」
「やっぱあれおっさんだよな」
この世界に来た時おっさん扱いしたことも思い出し、同じ意見の人がいたことに美月は心なしか嬉しそうにする。
アルもうんうん、と相槌を返しながら手に持っているナイフでドラゴンの目を突き刺す。
「よし、ここなら刃が通る」
そしてもう片方にもザクっと同じように刃を入れる。そして目をえぐられるという痛みを受けても起きないドラゴンからある確信を得る。
「この子さっきので死んでたみたい。眼球無駄につぶしちゃったよ。……ってどうしたの? さっきから黙って」
「イヤ? ベツニナニモ?」
全く躊躇わず流れ作業のように解体を始めるアルに、美月は驚きからか片言になる。「眼球潰して起きてたらどうするつもりだったのか」なんて考える余裕は一分もない。それどころか美月は以前の行動から所々感じていた違和感より、「こいつ、山暮らしか?」というよくわからないことを考え出す。山道のような森を息も切らさず走ったり、動物解体の腕だったりと根拠自体はあるようだが、ぶっちゃけ「最近の女の子ってたくましいな」ってなるほうがまだ自然に思える。……いやこっちの方が不自然か。
「ふーん」
アルは美月が何を考えているのかなんて気にせず黙々と作業を進める。鱗を丁寧にとり、きれいに皮をはがし、何肉か言われなければ美味しく食べられそうな肉がどんどん露出していく。そして首部分だけだが完全に解体が終わると、アルは一息ついて手を止める。
「どう?」
「どうってなんだよ」
「今の見てどう思った?」
「お前って山暮らし?」
「違うしその感想は不自然すぎる……」
予想の斜め下を行く答えにアルは戸惑う。
「ナイフの切れ味凄いとか?」
「僕自身は頑なに褒めようとしないね」
アルは美月の言葉に不満を覚えたのか(当然である)口を尖らして言う。
「解体なんて生で見たの初めてなんだからどこを褒めればいいのか……」
「適当にかっこいいとか言ってくれればそれでよかったのに。ま、いいや、僕は火おこし用の枝集めてくるから、ちょっと待っててね」
「あ、ちょっと待て」
少しがっかりしているの察したのか、美月はアルを呼び止める。
「なにー?」
「ありがとな」
「……ほんとに美月?」
急に素直にお礼を言ってくる美月にそんな言葉を浴びせるアル。
「お前は俺の何を知ってるんだ……」
「まあ嬉しいよ、お礼言われるの久々だし」
アルの発言から美月は余計なことを口走る。
「お礼言われるのが久々って、やっぱり山暮らしじゃ……」
「だから違うって!」
あまりにしつこい美月に、アルはここにきてから初めて声を荒げるのだった。