「かかってこい」
美月の拳が徐々に押し返されていく。
「まじかよ……」
「その反応は、やっぱり俺を舐めていたな。いいことを教えてやる。……俺はレベル5だ」
「うわっ……!」
裕也は美月の拳を自分の方向に引っ張り、体を引き寄せる。そして次の瞬間、美月の体から鈍い音が響き渡った。
「がはっ……!」
美月の背中には先程ブラフとして使われた木が直撃していた。意識外からの攻撃に、美月は思わず嗚咽を零す。
「ここまでが策だ。とがったまんまじゃ効果は薄いと思ってな、わざわざさっき衝撃を重視して作り替えたんだ。効くだろ。この不意打ち」
裕也はふらつく美月の体を力任せに投げ飛ばす。美月の体は次々と大木を薙ぎ倒しながら吹き飛んでゆく。衝突するたびに意識が飛びかけながらも、無意識に受け身を取りダメージを最小限に抑える。
「いってえ……。ちっ……見誤ったな。……どんだけ飛んだ?」
美月の目が白く光る。神力を集めて視力を強化すると、遠くのものが見えるだけでなく、距離も大体把握できるようになる。ここから裕也までの距離はおよそ600m。裕也の身体能力ならすぐに詰められる距離だ。詳しく動向を探ろうとさらに目に神力を集めた時、急に耳鳴りと頭痛に襲われ、美月は思わず目を閉じた。
「ぐうっ……。なんだ今の……」
『脳が神力に耐え切れなかったんだよ。コントロールが雑になってきてんぞ。効果を上げたいからって頭全体に集めたら負担がでかくなるだろ。集めるなら的確に、出来るだけ細分化した方が効率よくなる』
「細分化……」
『ここで追撃してこないってことは向こうに追撃する気はないってことだ。舐めてるんじゃなくて、向こうで迎撃の準備してるんだろーが、チャンスには変わりない。今回は神力応用編その一、「神気の使い方」だ』
美月の中の神力が強制的に神気に変換され、体外に放出される。すると、先程と打って変わって激痛が電撃のように全身に奔った。
「があっ……」
『さっきまでお前は無意識に神力を鎮痛に回してたからな。急に体が痛むかもしれないが、我慢しろよ? なんせ時間がないからな、こういう荒治療じゃなきゃ間に合わない。それじゃあ、レッスン1だ。神気全身に纏わせろ。勿論、全てな』
美月は言われた通りに制御を試みるが、痛みが邪魔して中々集中出来ない。
『限界値を操ることが出来りゃ、あとは簡単だ。……ここが踏ん張りどころだ』
「うあああああ!」
気力を振り絞り、悲鳴を上げる体を無視して全神経を制御に向ける。
『そのままだ。次は均等に広げろ。出来なきゃ一か所に集中してもいい。神気移動の感覚を掴め』
『いいぞ、次が最後だ。包み込むんじゃなくて、浸透させろ。そうしないと威力に耐えられない』
体から徐々に痛みが全身から引いていく。神気無駄なく制御しているため、余分な神気が体に戻り回復を始めたのだ。少し美月はふらつきながら立ち上がる。
「オーケー。……大体、わかったぜ」
一度深呼吸をしたあと、思い切り地面を踏み切った。土煙が信じられないほど舞い、美月の背後にあった木は根元から地面ごとえぐられている。
『また驚かされたな』
「き……」
美月は勢いに乗ったまま裕也を蹴り飛ばす。予想外のスピードに防御が間に合わず、真正面から直撃する。裕也は木をクッションのような性質に作り替え、衝撃を緩和する。
「全く、せっかく準備したのにまるで意味がないな」
「やろうぜ、第2ラウンド……」
クッションにした木に跳ね返されながら、お返しと言わんばかりに飛び蹴りを直撃させる。
「こっちははなからそのつもりだ」
大地が盛り上がり、辺りが一層暗くなる。周囲のの木々や地面を美月と自分の周囲に圧縮し、裕也は辺り一帯を自分の有利なフィールドに作り替える。
「さあ、かかってこい」
裕也は美月の変化に最大限の警戒を払い、全力で潰すことを決意した。




