「一つ目の贖罪」
美月は裕也の後ろに移動し、不意打ちで打撃を放つ。しかし、美月の拳は裕也に届く前に、裕也を守るように動いた周囲の木々に阻まれた。美月の拳は轟音と共に、直撃した木を粉砕した。
「……そっちから出てきてくれるとは有り難い。探す手間が省けた」
「俺もお前が動いてなくて助かったぜ」
「なんだ、一人か。あいつは嫌でも探さないといけないのか」
美月の足に木が絡みつく。ツタのように細長い見た目だが元は大木、当然強度も大木と同じ。加えて今美月の足に絡みついているのはこのツタを何本も束ねて作られた強靭なもの。抜け出すだけでも至難の業である。
「はずなんだが……そんな容易く引きちぎられるとはな」
「何ぼそぼ……っ!」
今度は足元の大地が花びらのような形に変形し、美月をとらえるかのように包みこんだ。強靭なツタでつぼみのような形をした土を締め付ける。美月を包み込んだ土もどんどん圧縮していき、中にいる美月を圧し潰そうと変形する。裕也の攻撃はこれで終わらず、つぼみを地面の中に閉じ込める。さらに自分の周りに鋭利な形の木を準備し、美月の瞬間移動を警戒する。
「さあ、いつでもいいぜ。殺す準備は整ってる」
「じゃあ今からやろうか。って、掛け声いらないか」
「……大頭ォォォ!!!」
周りの木々と同時に裕也は姫璃に襲いかかる。しかし、同時とは言っても全てが同じタイミングで届くわけではないため、一本ずつ丁寧に対処され、裕也の右足がスキルに捕らえられた。
「一つ質問しよう」
「あ?」
「お前、この世界に来てすぐに村見つけたよな」
「それに何の関係が……」
「なんで全員殺した?」
「……ああ、そのことか。全員宗教に染まってて、目障りだったから。領主の暴政で死にかけてるのに祈るだけで自分からは何も行動を起こさない。
領主を殺して、家を建て替えて、土地を生き返らせる。全部俺がやったことなのに、現実を見ないで奇跡が起きただの、祈りが届いただの下らねえことぬかして、信じたところで救われないって事実を、頑なに信じようとしなかった。どんなことが起きても、宗教はクソだって気づかなかった。そんな奴、生きてる価値ないだろ」
「……確かに、俺も宗教はクソだと思うぜ? 信じりゃ救われるはずなのに戦争の原因になるなんて矛盾もいいとこだ。カルトに至っては、巧言令色騙くらかして、無知な人間から搾取する極悪集団だ。そんなもん、ない方がマシに決まってる」
「教祖とは思えない発言だな。これは驚いた。自分が極悪人という自覚があるんだな」
「そりゃあな。教団一つ潰すために関係ない人間を巻き込んで、少なくない犠牲を出す決断をする野郎が善人なわけあるかよ」
「……だったら、償ってくれるよな」
裕也の後ろにある木が変形し、姫璃の方向を向く。姫璃は右手を顔の前に運び、拳を硬く握りしめる。
「ああ、これからの人生を賭して償うつもりだ。一つ目の贖罪として、お前を救う」
「一つ目……。まだ生きるつもりなのか。俺を救うんだったら、とっとと死んで償え!」
姫璃を無数の木が襲うが何本増えても同じように捌かれ、裕也の攻撃は届かない。だが、姫璃が攻撃の対処をするため、一時的に裕也の右足を対象から外したため動けるようになったとたん攻撃と同時に突っ込んできた。
「なんだ、案外冷静じゃねーか」
姫璃のスキル、『先人に右ならえ』は一度に二種類のものを対象に取ることが出来ない。裕也と木の同時攻撃を順序よく捌いたのもそのためだ。恐らく裕也は先程の動きで気づいている。そしてその弱点を突いてきているのだ。実際その行動は姫璃にとって嫌な攻め方だが、それよりも先程とは違い、怒りに流されず周りが見えているのが最も厄介な点である。
裕也は木を剣に作り替え、振り下ろす。スキルが間に合わず、姫璃は素で紙一重で躱す。振り下ろされた剣は地面を容易く切り裂いた。姫璃は両手足を対象に取り、バンザイの体制になった。
「……なんだこのふざけた体制は」
「あぶねーもん持ってるやつにはこれが基本だろ」
「両手足が封じられても、俺にまだ攻撃手段がある。わかってるだろ?」
「ああ……」
姫璃はバンザイの姿勢のままにやりと笑う。
「それの対処は任せるぜ、美月!」
「任せ……って、なにそのポーズ!?」




