「二対一」
アサルトライフルの初速は秒速1000m程。そしてアルから千春までの距離は目測1.5m程。弾丸はこの距離を0.0015秒で通り過ぎる。人が反応できる限界は0.1秒と言われている。つまり、千春にはこの弾丸を避けることは出来ない。弾丸は千春の心臓を貫き死に至らしめるだろう。アルの唯一の誤算は、弾丸が貫通しない可能性を切り捨てたことである。
「ぐうっ……!」
アルは千春に蹴り飛ばされる。射撃の反動で後ろに下がっていたことと、銃をいくつか複製したことで衝撃を和らげることに成功し、宙を舞ったあと静かに着地する。銃は複製した分も含めて全て破壊された。
千春は胸に刺さった銃弾を取り出す。
「いったー……。でも、不幸中の幸いかな。良かった~、貫通しなくて」
「腕の怪我だけで判断するのは早すぎたな……」
「それじゃあ今度はこっちの番ね!」
千春は引き金を引く。放たれた弾丸はアルに命中し、全身を赤く染めた。直撃した衝撃か、アルの体は軽く吹き飛んだ。千春が生死を確認するために近づこうとしたとき、視界の端で黒い影のようなものが動いていることに気が付く。しかし、気が付いた瞬間それに手足を縛られる。動きは一瞬止まったが、力づくで手足を動かして引きちぎり難なく抜け出す。そしてまた、抜け出した瞬間に視界が黒に覆われた。これも晴祥の魔力で作ったもの。晴祥は千春の動きが止まった瞬間に魔力を動きを止める形に具現化させ、それでまた一瞬だけ行動を封じているのだ。一瞬あれば一瞬の動きを止めるものをつくりだせるため、魔力が尽くまで永遠にこれを繰り返せる。晴祥は千春の視界を封じた一瞬で、高速で指を動かす。
「……知ってる? 高校生の一秒って人生のどの時よりも大事な一秒なんだよ?」
「勿論だ。俺はもう卒業だが……」
千春のナイフを黒いナイフで受け止める。硬い、というより、弾力のあるナイフで。
「私、もう一本あるんだ」
「奇遇だな、俺もだ」
右手のナイフを千春めがけて投げる。ナイフは紙一重で躱され、代わりに晴祥の腹部にナイフが突き刺さった。
「避けたせいで狙いずれちゃったじゃん。これが狙い?」
「いいや、ただの偶然だ」
「じゃあ自ら不利になったってこと? まあいいや、私がナイフを引き抜けば、二対一。アンタは捌ききれな……」
千春は腹部からナイフを抜こうとするが、何かに止められて引き抜くことが出来ない。さらに右手のナイフも手首ごと黒い糸で固定され、身動きが取れなかった。
「俺の魔力で作られた糸だ。性質上、射程が短ければ短いほど、強度は増す」
「このっ……!」
「それと、確かに二対一だが、不利なのは俺じゃない。俺達は……」
千春の無防備な首から黒いナイフが顔を出す。
「二人いる、からね」
アルはナイフを引き抜く。千春の首から鮮血がシャワーのように飛び出し、地面に倒れこんだ。千春はピクリとも動かず、死亡が確認できた。
「全く、『取れ』なんて急に手話するから何事かと思ったよ」
「かかと鳴らしてるときのお前も急だったろ。それに俺より酷い。銃、手、攻撃とか端折りすぎだ」
「合わせてくれて助かったよ。最初に僕が合わせてるだけとか言ったけど、終始合わされちゃった」
「合わさせたんだろ」
「そんなこと僕には出来ないよ」
「……お前嫌いだわ」
「奇遇だね、僕も」
こうして互いに煽りあっているが、アルは内心ほっとしていた。銃弾が通らないということはナイフも通らないということ。あの状況で有効打を与える方法はウリアの力を使うことだけ。弾丸を吸収した際に一瞬使ったが、使うほど精神が汚染されてくように感じ取れたため、使わないで済んだことでかなり安心できた。支配することも考えるともっと使った方がいい気もするが、それこそウリアの思うつぼな気がしてならない。アルはため息をついて千春の死体に目を向ける。
「あれ出来ないけど、どうする?」
『構わない。もっといいものを見つけたからな』
「……何かあるみたいなこと言うなよ」
「おい、早く美月のとこまで案内しろ」
「……」
「待てっ! 黙って先に行くな!」
命令されたのが気に喰わなかったのか、アルは晴祥を置いて美月のいる方へ走り出した。




