「ったく」
「はー。手掛かり見つけたのはいいものの、もう旅立ってたとかすれ違いにもほどがあるぜ」
晴祥は見晴らしのいい木の上でため息をつく。サッカスの店を襲った後、美月に関しての情報を探していた晴祥だったが、騒ぎを聞きつけた騎士団の動きが案外早く、美月がいる感覚があっても表立って動くことが出来なかった。何とかギルドまでたどり着き情報を得たが時すでに遅し。美月はアルと共に森へ向かっていた。最初の方は足跡をたどって追いかけることが出来たが、ある場所から一切見当たらなくなったため、捜索は難航し高いところから探すという方法を取ることになった。
「話を聞く限りじゃ俺以外の誰かが美月の傍にいるらしい。ああ、考えただけで鳥肌が立つ! 俺以外の誰かが近くにいるなんて耐えられない……」
晴祥が体を震わせていると、遠くで視認できるほどの土煙がたった。
「なんか、美月っぽいな。根拠とか一切ないけど何かを感じる。よし、決定。土煙の方へ行ってみる」
晴祥が木から降りようとした瞬間、キューブが鳴り響き足元の木が変形し襲い掛かってきた。晴祥はこれを難なく捌き、原因と思われる男に話しかける。
「邪魔すんなよ。俺は今死ぬほど急いでるんだ」
「そうか、じゃあ死ねよ」
男が地面に触れると、土が先程の木と同様に変形し攻撃してくる。
「ったく、芸がねえな」
晴祥は左手を振るうと、土は元の姿に戻り力なく宙を舞った。かなりの土煙に晴祥は思わずせき込む。
「げっほ……。ったく、迷惑ったらありゃしねえ。少しは人のこと考えろよ」
「何をした?」
「見てただろ。左手を振っただけだ。さ、とっととどっか行ってくれよ。さっきも言ったが俺は急いでるんだ」
晴祥は話しながらも飛んでくる攻撃を全て躱す。一向にやまない攻撃にいら立ちを募らせていると、美月の気配がどんどん離れていることを感じ取った。
「まずいまずいまずい! ……いい加減うぜえんだよ!」
瞬間、視界から晴祥が消える。気配も、音も感じ取れなくなる。そして男が殺気を感じ取り振り向く前に、後ろから左手で作り出した黒い剣で左腕を斬り飛ばした。
「なっ……! 何故攻撃が届いた?」
「っち。胴体切ったと思ったのに、いい反応しやがりやがって。ったく、時間かかるじゃねえか」
「そう慌てるな。じきに終わる」
「だったら最初からつっかかって……。おい、この音なんだ?」
晴祥は目の前に転がる男の左手に視線を向ける。そして、さっきからなっていた不可解な音がこの手からなっていることに気づいた。
「おい、まさか……」
「選別だ。受け取ってくれ」
左手は破裂し膨大なエネルギーを放つ。白い閃光が視界に広がり、高熱が体を瞬く間に包む。かなり遠くからでも生存者がいないことがわかる大爆発が起きた。男は爆風に乗り、爆発が起きた地点から大きく離れる。
「音に変わる分のエネルギーも衝撃に変えた。さて、これであと74人。とりあえずの目標は達成していたが、近くにいたからと欲張ったな」
男が出血する左手腕に触れると瞬く間に再生した。そしてキューブの電源を付け、とあるアプリを起動する。
「これの参加者、全員教えろ」
キューブの画面が切り替わり、名前と生死の状況がリストアップされる。男はある人物の名前を熱心に探し始める。
「あった……大頭姫璃。……はは、はーっはっはっは! これで……これでようやく殺せる!」
「どうしたんだ俺の名前を呼んで。もしかしてファンか?」
後ろからした声に振り返ると、男は怨嗟のこもった眼で睨みつける。
「大頭ォ……!」
「一方的に知られてるってのは気分がいいな。機嫌がいいから教えてやるよ。後ろ、気を付けた方が……ってあらら。襲い掛かってくるのね」
「自分の身を心配してろ!」
「こうやってすぐ後ろを取られちゃうからね」
姫璃は後ろからする女性の声と火器の音に軽くため息をつく。そして小気味よく笑った。
「お嬢さん。それは、自分に言ってるのかい?」
「何をっ……」
そして姫璃の背後の気配はどんどん遠ざかっていく。そして、何が起こったのかを目撃した男は自分を抑え込み姫璃から少し距離を取った。
「あれで生きてるとは思えない……。どんな手品を使った……!」
憤慨する男の言葉を姫璃は思い切り笑い飛ばす。
「いやいや、晴祥君は自力で生き残ってたよ? 君島裕也君お手製の左手爆弾を自力で抑え込んでね。爆発のわりに場所への被害が圧倒的に少な……っと。せっかちだな。そんなにせかさなくても相手してやるのに……」
「なんだお前は……! ぜってえ殺す!」
「なんでこんなに目の敵にされてるのか。思い当たる節は一個くらいしかないな~。まあ、十中八九それだろうな」
地面が意志を持ったかのように姫璃に襲い掛かるが、その全てが姫璃に届く前に空中で飛散した。
「俺は宗教団体『暁の知らせ』教祖、大頭姫璃。本日はどんなお悩みで?」
「殺したくてしょうがない相手が大人しく殺されてくれないんだが、どうすりゃいい?」
「それは大きな悩みだな~。いっそ、復讐心を捨てるってのは?」
「論外だっ!」
「じゃあしょうがない。その悩みは自力で解決してくれ」
そういって姫璃は、ここにきて初めて交戦の構えを取るのだった。




