「もしかして、森の妖精さんかなにかで?」
「僕は木の幹だよ! こんにちわ! 美月君」
「ええ……」
美月は引いていた。異世界だからって木の幹はねえよ、と。しかしこのまま乗らないとせっかくボケてくれたのに失礼になるのではないか?そう考えた美月は少し戸惑いながらもそのボケにのっかった。
「もしかして、森の妖精さんかなにかで……?」
「グフッ……」
裏側の人物は噴き出していた。まさか乗ってくるとは思わなかったようだ。笑われた美月のほうはというと、若干遅れて恥ずかしさが回ってきたようで顔を手で覆っていた。
「優しいね、お兄さんっ。まさか乗ってくるとは思わなかったよ」
「あ、うん……もう言わないでくれ」
恥ずかしさでしおらしくなっている美月をよそにその人物は話を続ける。
「さて、と。せっかくだし名前教えてあげるよ。僕はアルハード、気軽にアルって呼んでくれ。お兄さんは藍沢美月でしょ? ミツキって呼んでいいかな?」
「おう。ところでお前はいつから近くにいたんだ?」
恥ずかしさが引いてきたのか、美月はいつもの調子に戻る。
「木を挟んで会話はちょっとしづらいし、こっちに来てもらえないかな。僕さっきまで歩きっぱなしだったから動きたくないんだよね」
それは俺もなんだけどな……と内心呟きながらも律儀に裏側へ移動する美月。顔を合わせた瞬間に攻撃してくる可能性もあるのだが、疲れてそこまで考えが及んでいないのであろう。
「来たぞ」
そういって美月はアルの姿を確認する。見た目、15歳程だろうか。アルはそれくらいの身長でとてもかわいい容姿をしていた。美月がアルの見た目に驚いていると、後ろから突然声を掛けられる。
「わっ!」
「うわっ……って、え? え?」
美月は声のした方へと振り向く。するとそこには、目の前にいたアルにそっくりな人物がたっていた。その人物を二度見し、寄りかかっているアルと見比べる。似ている、というより同一のもののような雰囲気が二人からしていた。怪訝そうに首を傾げた美月を笑いながらアルは説明する。
「それ、僕のスキル、『大人騙し』で作った偽物だよ。その証拠にほらっ」
立っているアルがパチン、と指を鳴らすと、そこに座っていたはずのアルはきれいさっぱりなくなっていた。
「ほ、ほーう……」
「あのメールに書いてあったでしょ?スキルの確認方法。てかミツキ、キューブの電源つけっぱじゃない?」
「あっ……」
視界の端を青い画面がちらついてることなんてすぐに気づくはずだが……アルのボケに乗っかったあたりから冷静じゃなくなっていたらしい。……それでもしょうがないとは言い難いが。
恥ずかしさを誤魔化し美月はポケットからキューブを取り出し、一番左の若葉マークに慌てて触れる。すると通知に触れた時のように画面が一瞬のうちにして切り変わった。
「どれどれ」
美月がスキルを確認しようとしたとき、手のひらにあったはずのキューブはアルの方へ渡っていた。キューブから出ている映像はキューブの前方に投影されるようで、美月の前ではなく、アルの前へと移動していた。
「え? ……ちょっ、え!?」
自然に素早く取られたため戸惑う美月。しかしアルはそんな美月を気にも留めずスキルの方へ興味を向ける。
「『神出鬼没な奇術師』と『???』。……なにこれ」
「どうした? なんか変なのでもあったのか?」
美月は少ししゃがみアルの肩口からのぞき込む形でスキルを確認する
『???』。
「効果はおろか名前すらのってねえじゃんか……。記載ミスか?」
そこにはただ《『???』・・・Sランク》と載っているだけだった。まあ、別に名前は載ってないわけでも、記載ミスでもないのだが。今はまだ読めず、使えないだけ。……まあそんなこと今の美月は知る由もない。
「てか話脱線しすぎじゃね? 俺はいつから近くにいたのかってことを聞きに来たんだけど……。」
不明のスキルをみてあきれたため、戸惑いが収まったのか当初の話題に引き戻す。アルもハッとした顔をしたのち、何かを思いだしたかのように話始めた。
「僕が君に近づいたのは君が休んでからだよ。人の声が聞こえたからそっちに逃げてみたらミツキがいたんだ」
美月はアルのある言葉に眉を潜ませる。
「逃げてきた……ってどういうことだ?」
様々な憶測をたてながらアルに質問をする。するとアルはあっけらかんとした口調で美月の後ろに指をさしながらこう言った。
「言葉の通り、あれから逃げてきたんだ」
後ろを振り向くとそこには、
「グァーーーーオ!!!!!」
……そこにのは、太い四本の足に恐ろしい鉤爪を持ち、背中には大きな翼。そして赤色の硬そうなうろこと鋭い牙を携えたトカゲのような生物……ドラゴンが降り立っていたのだった……