「出来なきゃ死ぬ。」
目が閉じているはずの美月の前に、見覚えのある姿が映し出される。白髪で、目隠しをした少女……ネムだ。ネムは目の前の美月を無視して、その後ろにいる青髪の男に話しかけた。
「あ、○#$。こないだ頼んだやつ終わってる?」
「今持ってきたところだ」
「やっぱどっかの誰かと違って○#$は頼りになるね~」
ネムは左側の椅子に腰かけている金髪の男を横目で見ながらそう言った。一部だけ聞き取れないが、どうやら会話をしているようだ。恐らくこれは誰かの記憶。美月は勝手に人の記憶を見るのはまずいと思ったが、抜け出す方法がないのでこのまま続けるしかなかった。
ネムに煽られた金髪は不服そうに立ち上がり言い放つ。
「俺の方がこいつより強い」
「ガキかよ。てかどっちも僕より弱いんだからその言い分は通用しないよ」
「言ったな!今日こそほえ面かかせてやる!」
「僕は忙しいけど、君なら10秒もかかんないし相手してあげられるよ」
「このっ!」
ネムは鼻歌を歌いながら金髪を2秒、青髪を6秒でねじ伏せる。
「また負けた……」
「なんで俺まで……」
「さて、それじゃあ僕は仕事に戻るよ。あー、いい息抜きになった~」
「舐めやがって……」
「$@\\、お前も持ち場に帰ったらどうだ?」
「なんでお前はそんなにぴんぴんしてんだよ」
「喰らう攻撃を選んだから。それじゃ、俺も仕事に戻る」
「……最初から負ける気だったってわけかよ」
「どうとでも言え。俺はお前より先にあいつに勝つ」
金髪の男は白い首飾りを引きちぎり、握りしめながら地面をたたいた。そして何かをつぶやいた瞬間、電波障害の起きたテレビのように視界が歪み場面が変わった。そこにいたのはネムとネムに首を締め上げられる金髪の男。ネムの後ろには、先程金髪の男が握りしめていた首飾りによく似た真っ黒な首飾りが落ちていた。
「この首飾りが黒く染まっているということは、悪魔の力、禁忌に手を出したということ。……がっかりだよ。僕に負けた連中の力を借りるなんて……見る目ないよ、君。」
「があっ……!」
ネムはさらに力を入れる。
「基本的に神は死なない。けど、殺す方法はある。君も知ってる通り、神は神力によって生命を維持している。空気中から神力を取り込み、体内を循環させることによってね。そして、それが出来なくなった時は自分自身の神力を消費して生命を維持する。要するに首を潰してしまえばあとは衰弱して死ぬだけになる。でもそれじゃあ味気ないだろう? だから、派手に殺してやるよ……バイバイ」
「あー、意識同化させると記憶まで見られちまうのか。全然配慮してなかったな」
美月の見ていた映像は真っ白な世界に置き換わり、目の前にいた二人の代わりに首を絞められていたはずの男が現れた。美月は呆気に取られて開いた口が塞がらずにいた。
「なんだそのお化けでも見たかのような反応は」
「いやだって、さっきの見たら普通死んだって思うだろ」
「死んだっつーか、消滅した感じだ。神ってのは死んだあと堕天しないように魂を保管されるんだよ。そんで、俺の魂がお前の体に入って俺が復活したってわけだ」
「それより、悪魔とか禁忌とか言ってたけど、お前なにしたんだよ」
「いきなりディープなとこ聞いてくるか。簡単に言うと何しても勝てなかったから堕天して悪魔の力借りようとした。ま、堕天する前に殺されちゃったんだけど。ハハハ!」
「笑いながら言っていいことかよ……」
美月は以前にネムから今回のバトロワが始まった経緯を聞いていたため、笑って過ごせる問題とは思えなかった。美月は呆れてため息をついた。そのとき、四方八方が全て真っ白であることに気づき、ある既視感を覚える。そう、美月にとって思い出したくない記憶。ネムと会った夢の世界にそっくりであると。
「……なあ、俺なんでここにいるんだ?」
「気絶したから。今お前の体かなりやばい状態だからな。気を失うのも当然って感じだよ」
「あぁ……。すっげー痛かったの思いだした」
「まあ傷は俺が直してやるから気にするな。それよりも、お前には覚えてもらわなきゃならねーことがある」
「神力の使い方、とか?」
「正解だ。実感はないだろうが、お前には常人の幾倍かの神力が宿ってる。あの三対一に勝てたのもそれが理由だ。だから使いこなせるようになればもっと強くなる。俺らには、達成しなきゃいけないことがあるだろ? だから、お前が意識を取り戻す前に使いこなせるようになってなきゃならねえ」
「……出来るのか?そんなこと」
「当たり前だろ。俺が教えるんだ。それに、出来なきゃ死ぬ。それだけだ」
男の雰囲気に美月は思わず唾をのむ。気圧されそうな雰囲気の中、美月は不意にネムの言葉を思い出した。何故今なのかは全くわからないが、ネムが目の前の男に言った言葉が、聞き取れなかったはずの言葉が頭の中で再生される。
『バイバイ。ラクトール』
心臓が強く鼓動し、全身に光が駆け巡った。真っ白なはずの空間が男の付近だけ金色に輝いているように錯覚する。
「……ありゃ、思ったより素質あったみたいだな。やっぱ見る目ねーわ、俺」