「もってあと5分」
「……ミツキ、腕」
美月は出血口を抑えつけ、気が動転しないように呼吸を鎮める。
「わかってる、わかってるぜ]
逸る気持ちを抑えながら脳内で現状の整理を行う。相手の顔を殴ったと同時に、殴った方の肩から先が音もなく消し飛んだ。十中八九スキルによって行われたことで間違いはないだろうが、美月にはそこから先がわからなかった。
「ああくそ。なんっもわからん……」
美月が徐々に焦る中、新は余裕の表情で舌なめずりをする。こちらの様子を見ているのか、仕掛けてくる様子はない。そしてその余裕が美月の不安を煽り、焦りをさらに加速させていく。
「くっそ、こうなったら、一回突っ込んでヒント見つけるしか……」
『そう焦るな。お前ならまだ勝てるぞ』
「……っ!」
美月が賭けに出ようとしたとき、脳内に直接この場の誰でもない声が響く。そして美月は、その声の主が自分の中にいる自分以外の何かだと直感した。
「……誰だお前」
『そんなことより勝つことの方が大事だ。おっと、前を見ろ、前を』
「あ?」
美月が言われた通りに前を向くと、獣のような形相をした新が眼前にまで迫ってきていた。新のの様子は、美月が声を聞いたとほぼ同時に美月の中にいる何かの危険性を感じ取ったのか余裕がなくなり、即刻行動に移して拳を打ち込んでくる。美月には為すすべなくその攻撃は直撃した……はずだった。
「アル!?」
「ぐうッ……!」
「ま……ったく、ボーッとするだけなら猿でも出来るんだから、右腕大丈夫ならシャキッとする!」
美月が食らうはずだった攻撃は、アルがなんとか捌いた上、新の腹に蹴りを入れて距離をあける。
『救われたな。あのガキがいなかったら今頃ズタボロになってるだろうな』
「……勝つ方法ってのはなんだ」
『まずは全力をだせ。俺の目が正しけりゃあそれだけで勝てる相手だ。たとえ片腕吹っ飛んでようがな』
「……ったく、無責任な野郎だな」
美月の中にいる何かの言葉は、確かに美月を冷静にさせた。様子の変わった美月を見て、新は警戒をさらに強くする。
「あいつの反応速度異次元だから、反応速度とかじゃ防げない攻撃が必要になってくる。だから……」
「俺のスキルが重要って話だろ? 左でどれだけの威力が出せるかわかんねーが、こればかりはやるっきゃねえよな」
「くうっ、頼りになる!」
美月は左手の拳を硬く握りしめ、前方の新へ視線を向けると、新は不快そうに美月を睨みつける。
「ちっ、そんなに俺のこと嫌いかよ」
「ああ、きらい、だ!」
新はアルになんて目もくれず、美月に全力で襲い掛かる。だが、美月たちはそれを許さない。
「ああ?」
「無視なんて寂しいじゃん。僕のことも見てよ!」
新の攻撃は美月に当たらず、虚しく空振りに終わる。そして、目の前にいたはずの美月の姿が上下左右のどの方向にも捉えられず、視界が何かに覆われアルの攻撃が不意打ち同然で新に決まった。
「があッ……!」
「ああ、膝に血ついちゃうなこれ。ミツキ!」
「任せろ!」
一瞬の怯みを逃さず、後方にふらつく新の胴体に全力で拳を撃ち込む。新の体は先程とは真反対に吹き飛んで木々の中に突っ込んだ。土煙がまい、美月たちの場所からは新の状態を確認することはできない。二人は臨戦態勢を解かずに様子を伺う。そして次の瞬間、アルの真横で鈍い音が響いた。
「ミツキ!」
美月は体制を崩して吹き飛ぶ。ギリギリガードが間に合ったようだが、片手では新の攻撃を受け切ることが出来ず、地面に思い切り衝突する。受け身も取れず、美月の体に激痛が走って呻き声が上がる。
「があっ……」
アルは新の攻撃を済んでのところで回避する。先程とは違って新は美月だけに執着する様子はなく、近くの敵に襲い掛かっているように感じられる。
避けても、避けても、避けても、避けても。新の攻撃は終わらない。というより、黒い球が飛んでくるタイミング、美月の右腕を吹き飛ばした技の前兆、残り体力、美月の状態など、気に掛ける部分がたくさんあり、アルは中々攻めに転じることが出来ずにいた。攻めようとすればこの連撃に巻き込まれて一瞬で肉塊と化すだろう。避け続けるアルと攻め続ける新の耐久勝負が始まった。
二人が激闘を繰り広げる中、美月は激痛に悶え体を動かせずにいた。
『おい、早く動け。ここで気を失ったらそのまま死ぬぞ。動けても持ってあと5分、それまでにあいつを倒さなきゃならねえ。もう時間はないぞ』
「分かっ……てらぁ!」
美月は気合で体を起こす。しかし、吹き飛ばされたためアルたちと10m程距離が開いている。下がる体温、きしむ骨。それらが障害となって歩くことすらままならない今の美月にとって10mはかなり長い距離となる。美月は朦朧とする意識の中、地面をしっかりと踏みしめぶん殴る構えを取った。
「『神出鬼没な奇術師』……」
美月の体は新の近くに転移することに成功する。が、攻撃することは叶わなかった。
新から飛び出た黒い球体がアルめがけて発射される。一瞬止まった動きに釣られて攻撃に入ったアルにその黒い球体はどう足掻いても直撃する。その瞬間、美月は反射的に『神出鬼没な奇術師』を発動していた。
「危ねえ!」
美月の体はアルと入れ替わり、黒い球体はアルの代わりに美月に直撃する。美月の体は虫に食われた葉のように、肉体の至る所が食いちぎられた。
穴だらけになった美月の体は力なく倒れる。一旦距離の開いた二人は互いににらみ合った。
「これだと味わえないけど、死んだならいっか」
「まじかー……。……まずいな、この状況」
アルは不服そうに口を拭う新を見て、そう言葉を零す。
『そういや忘れてたぜ。俺、人を見る目ないって昔から言われてたんだよな』




