「君がいれば食事には困らなそうだ」
久世幹高は今の状況に困惑していた。彼のスキルは一つだけ。それは職業が〈勇者〉になるスキル『勇者』である。職業〈勇者〉は各種ステータスにボーナスが付き、〈勇者〉とその上位職専用のスキル、魔法、武器が使用できるようになる。さらに、勇者の自覚が芽生えて人徳とカリスマ性を獲得する。そんなチートスキルを持った彼が何故困惑してるのか、それは目の前に佇む少年、黒崎新が関係していた。
事態は少し前に遡る。様々な支援をしてくれたガウス王国から魔法使いのリース、僧侶のシャルル、戦士のリックを連れて、ゴーゼスの森でドラゴンを討伐する道中、制服姿の奇妙な少年に遭遇した。『勇者』の効果により正義感の強くなっている幹高はその少年を保護するために近づいて声をかけた。
「なあ君、ここは危険だ。出口まで案内するから、俺についてきてくれ」
「……ああ?僕に言ってるのか」
「そうだ。さあこっちに……って、え?」
幹高が手を差し出した瞬間、その手が何かに喰われたかのように消し飛び血液が飛沫をあげた。そして今の状況に至る。幹高は困惑しながらもすぐさま消し飛んだ右腕を再生させた。
「リース、シャルルは下がれ!リックもだ!」
今にもとびかかりそうな三人に対して叫び、静止させる。焦りを見せる幹高に、三人は素直に従った。
「すごいな、君がいれば食事には困らなそうだ」
幹高は何もない空間から格式の高そうな剣、すなわち勇者の剣を取り出し力強く握りしめた。
「お望みなら、とっておきのやつを喰わせてやるよ!『勇猛勇撃』!」
剣先を新に向け、幹高は高々と叫ぶ。すると、剣先に光が集まり、極太の光線が新めがけて発射された。大地をえぐり、木々を薙ぎ倒し、風を切り裂く光線は瞬く間に新を飲み込んだ。
「ふう……一体何だったんだあいつ……」
幹高は舞い上がる土煙を見ながらそう呟いた。その後、後ろで見ていた三人が幹高に駆け寄ってくる。
「初めて見たけど、お前あんなの使えるのかよ。俺でもあれクラスの魔法は簡単に打てねーってのに」
「なくなった右腕をすぐさま再生させるとか、俺いる?」
「それより、なんでそんな不安そうな顔してんだよ。あれを耐えられるようには見えなかったぜ?」
「あ……。そんなに不安そうな顔をしてたか。ごめん」
幹高は指摘されてすぐに笑顔を作る。あの技は幹高が知る限り最も威力の高い技。あれを受けて立っているはずがない。だが、無意識に表情に出ていたということは心の奥底で倒せているとは思えてないということ。幹高は自分の無意識の警告に心を傾け、あの少年のことを頭の片隅にとどめることにした。
「ふう……大分吹き飛ばされちゃったな」
新は削り取られた空間の先を見て、がっかりしたように肩を落とす。
「あそこにあったドラゴンの死骸も消し飛んじゃったし、また食料探さなきゃな」
そういって新は森の中に消えた。
「それにしても、勇猛勇撃……おいしかったな~」