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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
神の真名
22/90

「わお、ジャパニーズDOGEZA」

「はいおしまい。見応えのないこの試合はオールカットだよ」

 アルは競技場の中に入り、目の前で伏している三人にかがみながら話しかける。内心ワンサイドゲームになったことに驚きながらも態度には出さなかった。美月もまた、この結果が当然であるかのように全く動じていなかった。

「これでわかったでしょ? 実力差ってやつが」

 アルの言葉に誰一人として言い返さず、ただ悔しそうに唇を噛んでいるだけだった。アルは続けて何か話そうとするが、美月はアルの前に手を伸ばしてその言葉を遮り、三人に問いかけた。

「お前ら、仲間って何だと思う?」

 その言葉と共に美月の雰囲気が変わり、その場にいた全員が圧倒される。美月という人間ではなく、畏怖すべき何かがそこにいるようなそんな感覚に全員が襲われた。

「俺は支えあう存在だと思っている。どんなときでも背中を合わせて戦ってくれて、一緒にいれば力をくれる、間違っていたら正してくれる。……というより、俺の仲間はそうだった。それなのにお前らはなんだ? 仲間なんて名ばかりで、強いやつに引っ付いて足引っ張ってるだけ。そんなの、仲間って言えるのかよ」

 突然の説教、その上持論全開という内容も行動も褒められたものではないはずなのだが、怒りと哀しみに満ちたその声は、確かに三人の心に響いていた。

「とっとと失せろ。そこに倒れてる奴を連れてな」

 美月は吐き捨てるように言い放ち、競技場から出ようとする。未だに雰囲気は、圧迫感は変わらない。そんな状態の美月に、アルは額に汗を掻きながら話しかける。

「ネムちゃんに何か吹き込まれた?」

「……どうしてそう思う?」

「君には聞いてないよ。僕は、美月に聞いてるんだ」

 アルがそう言った瞬間、美月は少し口角を上げる。すると、雰囲気が元に戻り、場を包んでいた圧迫感も嘘のように消え去った。

「なにかあったのか?」

 雰囲気が元に戻っても平然として話を続ける美月。どうやら、先程の状態は完全に美月の意識がない、というわけではないようだ。

「ううん、特になにも。ただちょっと雰囲気が変だったからさ、なにかあったのかなって思っただけだよ」

 美月は朝と同じように随分と調子の悪そうな顔をする。やはりネム関連でなにかがあったとアルは勘付いた。 

 アルが質問攻めしようとしたとき、背後からざぁっ、と砂が舞う音が重なって聞こえた。美月たちが振り向くと、先程地面に倒れ込んでいた三人と、いつ起きたのかわからないマットが頭を砂の地面にこすりつけて、所謂土下座を行っていた。

「え? ……え?」

「わお、じゃぱにーずDOGEZA」

「異世界なのに土下座って……てか、どこから突っ込みゃいーのかわかんねぇよ!」

 美月は状況を把握出来ず、頭を抱え込んだ。アルは大体何が起こるのかを察して、含み笑いをした。

「俺達を、弟子にしてください!」

 まさかの発言だった。何が起こっているのかわからずに戸惑っている美月を全く気にせず、四人は言葉を続ける。

「貴方のおかげで仲間がなにかに気づけました!」

「俺たちはあいつの足を引っ張るんじゃなくて背中を守りたいんです!」

「守られてるばかりじゃなくて共に戦う仲間になりたいんてす!」

「どうか、俺達を弟子にしてください!」

 四人は弟子になりたい理由を熱弁するが、美月は完全に置いてけぼりになっている。というより、そもそもなんて言ってるのか美月には理解出来ないのだ。ただ、美月の言葉を四人が理解しているのを見る限り、聞こえてくる言葉が翻訳されていることがわかる。

 アルは唖然とする美月を放っておいて、何食わぬ顔で話に乗っかる。

「それじゃあ、君たちの名前を教えて?」

「ニカルです!」

「ストナへです!」

「エミボです!」

「マットです」

「よしわかった。それじゃあ君たちを弟子と認めよう!」

「ええ!?」

 勝手に話を進めるアルに美月は驚きを隠せない。一度美月ではないなにかが出たからか、今朝から先程まであった心の平静さは失われていた。

「何勝手に決めてんだよ! ってか、なんで弟子!?」

「彼らがそう頼んできたんだよ。こんな熱意に溢れてるんだ。断るなんて可愛そうだよ」

「お前ってそういうキャラだっけ?」

「ひどいなー、僕でもそれくらいは考えるよ。……それじゃ君たち、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、いいかな?」

 アルは四人の方に向き直り、上目遣いで話をする。ここだけ見れば、まるでか弱い美少女のように見えてくる。

 美月はアルのこの行動を見て、アルの狙いに瞬時に気づく。こいつ、パシリが欲しいだけだ……!と。

「勿論です!」

 四人は若干食い気味に元気一杯な返事をする。さっきまで倒れていたとは思えない程だ。

「転移者の情報、探してきてね」

「まじで行かせるの……?」

 美月がドン引いている間にマットたちは颯爽と情報を集めに駆け出した。

「僕たちも行くよ。受付さんに話聞かなきゃいけないからね」

 アルは美月を置いて軽快なステップを踏みながら競技場をあとにした。

「ねえ……」

『ああ、言わなくてもわかってる。あれは、俺の殺すべき相手。……忌々しい神の気配だ』

「てことはまだ戦力になるってことか。……なんだ、全然使えるじゃん」

 アルは、美月じゃない何かの正体に気づき、小さく含み笑いをするのだった。

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