「そんな子供の戯言気にする必要ないですよ」
宿を出た後、美月たちは情報収集をするためとりあえずギルドへと向かった。
「情報集まりそうなところといったらここくらいかな」
「キルスさんのとこいってもいいが、今忙しいだろうしな」
美月はギルド内を散策しながら昨日起きたの事件のことを思い出す。美月の友人である三辻晴祥が起こしたと考えられる強盗事件。商館が一つ潰れるという被害に対し負傷者は違法な奴隷取引をしていた店長と貴族の二人。そしてとらわれていた少女達全員が救出された。晴祥の目的は奴隷取引によって得られた不正な利益だが、はたから見れば義賊と言える。常に社会的強者となってたとえ違法行為でも我を通す、およそ高校生とは思えないやり口をするのが三辻晴祥という人間だ。
暫く散策を続けていると、受付の所から大きな声が聞こえてきた。
「ふざけんな!命かけてロックボア倒したのになんで報酬がこんなに少ねーんだよ!」
「何度も言ってるじゃないですか。フリーハントですし、損傷も激しいからだって。そんな文句を言うくらいなら昨日持ってきた人くらい綺麗に倒してきてくださいよ」
「なんだと!」
どうやら受付嬢と複数人の冒険者グループがもめているようだ。
「ねえ、今のって」
「……俺のこと、っぽいな」
「多分あの人たちが一番情報持ってそうだけど……」
「ち、近づきたくねえ……」
美月が近づくことを躊躇っていることをよそにアルは躊躇なく受付の人に声をかける。
「すいませーん!ちょっといいですか!」
「ちょっ、待てって!」
「うるさいな、見ればわかるだろ!今取り込み中なんだ……」
「おねがいできない?」
「う……ああ、わ、分かったよ」
騒いでいたグループのリーダー格のような男を上目遣いで頼み込み黙らせるアル。もはや流石としか言えない。表の騒ぎを聞きつけてきたのか、受付カウンターの奥からミリスが出てきた。
「おや、アルハードさんじゃないっすか。後ろには美月さんも」
「え、どこ?どこ?」
「ほら、あれっす」
興味深々なもう一人の受付嬢に教えるように、ミリスは美月の姿を指さす。受付嬢は指の先にいる美月を確認した直後、カウンターから飛びだし美月の両手をがしっと掴んでブンブンと振った。
「貴方が美月さんですか、そーですかそーですか! 昨日のロックボアは見事でしたよー! 綺麗に倒してくれていたので鑑定とっても楽でした! ありがとうございます! これからもお願いしますね」
「え、えと……」
「あ、失礼しました。私はネイビス・スイム。ミリスと共に受付嬢をやっているものです。気軽にネイビスとお呼びください」
「え、えーと……」
「それと聞いてくださいよ美月さん!さっきからあの男の人たちのグループが駄々こねてきて困ってるんです。美月さんの力でちょいちょいっとやってくれませんか?」
「あの、いや……」
「困らせちゃ駄目ですよ、ネイビス。それくらいなら私が……」
「ミリスは黙ってて。私は美月さんに頼んでるんだから。ですよね美月さん」
「あ、はい」
言葉の通じていない美月に圧で理解させるネイビス。ミリスもネイビスの勝手すぎる行動に頭を抱える。
「だめだよー。ミツキは僕が使い潰すんだから。そんな雑魚の相手なんてしてる暇ないの」
アルは美月の背後から首に手をまわして囁くように言う。
「うわっ……ひっつくな、気持ち悪い……」
「あ、照れてる」
「照れてねえよ別に……」
アルの手を振りほどくわけでもなく、美月は冷静に言い返す。ネイビスはアルを一瞥したのち、吐き捨てるようにつぶやいた。
「そんな子供の戯言気にする必要ないですよ」
「こんな女狐のために何かする必要ないよ」
「……」
「……」
美月そっちのけでバチバチと火花を散らすアルとネイビス。そんな二人を横目に美月がため息をつくと、ほったらかしにされていた男が声を上げた。
「おい! さっきから好き放題言いやがって!」
「事実でしょ?」
「なんだとこのガキ!」
「お、おい」
キレる男にさらに油をそそぐように煽るアル。美月は止めにかかるが、アルは気にも留めずに煽り続ける。
「ガキって、それくらいしか言うことないの? 体だけじゃなくて脳まで弱いんだ」
「こいつっ……。そこまで言うんだったら今ここで試してやろうか? ああ?」
「いいねそれ。じゃあミツキ、あとは任せたよ」
「丸投げかよ!」
「いい度胸じゃねーか。それじゃ、向こうの競技場で待ってるぜ」
男は美月を鼻で笑ったあと、受付から左側に見える道から競技場に向かった。美月はグループが競技場へ向かった後、いまだに後ろから抱き着いているアルを引きはがし静かに問い詰める。
「お、おい! 今の俺は一般人と何ら変わんないんだぞ? あんなのと戦って勝てるわけないだろ……」
「ちゃーんとわかってるって。君にはまだ使えるスキルがあるだろう?」
「それはそうだけど……」
「ねー、ミリスさん。競技場ってどうやって戦うの?」
アルはまるで勝つことを疑ってないような雰囲気で、美月の言葉をかき消す。
「競技場は木製の剣を使って戦うところっす。使ったことがなかったら身体能力に差があっても結構厳しいと思うっす」
「?」
「その剣って、そこに置いてあるものをを使うってこと?」
「そうなるっす」
「だってさ、ミツキ」
「いや、今俺なんて言ってるのか理解出来なかったんだけど」
「え?」
アルは美月の発言の意味を一瞬で理解した後、頭を抱えてつぶやいた。
「……もしかしたら負けるかも」