「君って案外短気なんだね」
「迷った……」
森に飛ばされてからおよそ一時間が経過したとき、美月は周囲の暗い植物を一瞥し、先程の快晴を思い出しながら呟やいた。
この世界の地球は一時間ごとに自転している、みたいな異世界ならではの設定、というわけでない。天気は勿論今も快晴だ。では何故そう思ってしまうほど暗いのか。答えは簡単。美月の言った通り迷ったのだ。それも、先程いた場所より、もっと、もーっと深い場所で。素人がむやみに動いて抜け出せるほど、この森は甘くなかったのだ。
それでもめげずにさらに十分ほど歩いていたが、だんだん足の動きは遅くなっていた。木々で混みあった森の道は、慣れてない人からすると思ったよりも体力を持ってかれるらしく、一般人よりは体力に自信 のあった美月も足を止め、その辺のいい感じに寄りかかれそうな大木の幹に体を預けた。
一時間歩き続けた足をほぐしながら休憩していると、服のポケットからジリリリリリ、とアラームのような音が突然鳴り出した。風と葉っぱの擦れる音くらいしかない空間で突然なった機械音に一瞬本気で驚くも、すぐにとりなおしポケットの中から音の正体を取り出した。
「なんだこれ……」
ポケットの中にあったのは小さなキューブだった。それはかすかに振動しながら音を発し続ける。そこまで大きくない音だし、使い方もわからないため少しすれば止まるだろうと考えた美月はキューブをポケットに戻す。
ジリリリ
「……」
ジリリリ
「……」
ジリリリ
「……」
ジリリリ
「うるせぇ!」
いつまでたっても一向に鳴りやまない音に痺れを切らし、美月はポケットの上からキューブをぶったたいた。その直後音は鳴りやみ美月の目の前にはスマホの画面のようなものが表示されていた。その画面の上部には「ネムだよ」から始まるメールの通知がいくつか届いていた。戸惑いながらもその通知に触れると、先程まで青い背景といくつかのアプリアイコンが並んでいた画面がよく見るメール画面に切り替わった。
……ここまで来たらいちいち驚くのも馬鹿らしくなってくる。
そのメールにはこのキューブの使い方などの詳細が記載されていた。以下全文。
『おはよう、ネムだよ~。
ちょっとドタバタした空間転異移になっちゃったから重要なこと伝え忘れちゃった♪ごめんね?
まずはこのキューブについて説明するね。名前は……そっちで適当に考えといて。
簡単に言えばスマホみたいな感じだか立方体のスマホって思ってくれればいいよ。
まずアプリの紹介から。一番左の若葉マークみたいなアイコンは、自分の情報が見れる。手に入れたスキルとかレベルとか見えるから要チェックだね。
次にその隣のメールアイコン。これは今使ってる機能だね。主に僕からの連絡はこれを介して行うから通知ON必須だよ。てかじゃないと死ぬ。
最後に電波マークのやつ。これは仲間と連絡が取れるアプリだよ。使用方法アプリ開けばわかるからここじゃ割愛させてもらうね。
あ、言い忘れてたけどこのキューブ、仲間登録してないキューブが近くにあるとアラームがなるようになってるから、アラームがなったら要警戒、もしかしたら背後に立ってるかも!
これで説明終了。ご静読ありがとね~』
……絶妙にうざい。が、美月はそれよりも気になるところがあった。それは最後の一文。
「「『アラームがなったら要警戒、もしかしたら背後に立ってるかも!』」」
美月はすぐさま振り向いた、が後ろにあったのは木の幹だけ。しかし美月はそのまま木の幹と向き合い問いかける。正しくは裏側にいる誰かに。
「誰、だ……?」
「僕は木の幹だよ。美月君、君って案外短気なんだね」
「ええ……」
あまりに予想外の返答に、美月は若干引いてしまうのだった……