「……って、うわぁ……」
「魔法が、使えない?」
美月は無言でこくりと頷く。
「じゃあスキルは?」
「使えない。使えるのは『神出鬼没な手品師』だけだな」
アルは軽く考えるふりをして軽快に着替えながら考察を述べる。
「んー、レベルアップで手に入ったものだけ使えなくなってるっぽいね」
「あー、確かに。そういや魔法も追加で手に入れたスキルもレベルアップ後に手に入れたもんだな」
「てことは今のミツキはただの高校生並みの戦力しかない……って、うわぁ……」
アルはあからさまに落胆して大きくため息をついた。
「そうなるな。……てことは俺今めっちゃ危険なのか。お前にザクってやられたら終わるな」
「随分あっさりしてるね」
「異常に余裕があるっつーか、不思議と精神が安定してるんだよ。夢の中でも特にとりみだ……さなかったし」
美月はふと夢の内容を思い出してしまい、話してる声がだんだんと小さくなっていく。
「なんで目が泳ぐのさ。てか、ミツキ明晰夢見てたんだ」
「明晰夢?なんだそれ」
「夢だと気づいて自由に動ける夢のこと。見ても体に悪影響を与えるものじゃないし、気にしないでいいと思うよ」
「なるほどな……」
美月は苦い顔をしながら夢のことを考えるが、思いだしたくない部分が真っ先に浮かんできてしまいすぐに思考を辞める。
「それで、今日は何するんだ?また森にでも行くのか?」
「うーん、街で情報収集かな。キルスさんの言い方からしてこの街にまだ転生者いると思うし、すでにいなかったとしても手掛かりくらいは見つけられると思う」
「堅実だな」
「そりゃあね。死んだら終わりなんだし、いくら早く帰りたいからって焦ってどうにかなるもんじゃない。それに……」
アルは美月の方を向く。
「ミツキが戦えるならまだしも、そんな状態で動き回るのは僕も危険だからね」
「悪いな、足引っ張っちゃって」
「別にいいよ。ほんとに邪魔になったら置いてくし」
「冷たいな。けど、案外そういう関係のが楽なのかもな」
「随分達観してるじゃん。なんか別の人格でも入った?」
「……どうだろうな」
アルの発言を美月は軽く流す。正直なところ美月自身もどんな力が作用してこの精神状態になっているのか把握できていない。誰によってこうなったかはある程度予想はつくが、どんな状態か把握できたところでなすすべはないので深く考えることもない。それどころかプラスに考えられている程だ。
「足引っ張らないように頑張るか」
「そうしてくれたら嬉しいよ」
そうして二人は宿を後にするのだった。