「僕そんな対応されるほど恨まれてたの?」
「……」
ぼやけた世界の中、全身が深い水の中に沈んでいるような感覚に襲われる。起き上がろうにも手足の自由が奪われまともに動くことが出来ない。しばらくすると、ぼやけた視界は意識と共にだんだんと鮮明になっていき、はっきりと白い世界が確認できるようになるころには全身の感覚は消え去っていた。
「どこだ?ここ」
美月は起き上がり周囲を見渡す。しかし、どこを向いても風景に変化はなく、ある既視感を覚えるだけだった。
「最初の変な世界か?」
美月は一番最初の真っ白な世界を思い出す。ネムが映ったモニターはないが、感覚はここと似ている。
「……これもあいつの仕業か?」
「正解さ」
真っ白な世界の中、その声は不自然に反響し、美月の背筋は凍り付き、全身に鳥肌が立つ。背後を振り向こうとした瞬間、美月は後ろから誰かに抱き着かれる。首筋には滑らかな指の感触、背中にはかすかに柔らかい感触が温かさと共に伝わってきた。
「……ッ!!」
「わっ」
美月はその手を乱雑に振りほどき、抱き着いてきた人物を睨みつける。
「……あんな不快になったの初めてだぜ、ネム」
「僕、そんな対応されるほど恨まれてたの?」
ネムの表情は変わらない、というよりわからないが、雰囲気で少し落ち込んでいるように感じ取れる。
「ただただ嫌悪感がしただけだよ。恨んでるわけじゃねえし嫌いってわけでもねえ。まあ急にこんなとこに連れてこられて嫌いになりかけてるけど」
「そっか、ならよかったよ」
「どっちが?」
「どっちもさ。誰かに考えられるってのはそれだけで尊いことなんだよ。わかるかい?美月君」
「そんなことよりこの場所についてわかりたいんだけど」
ネムの思想など気にもとめず、率直に疑問をぶつける美月。正直いって興味のないことに対しての対応なんて人間こんなものだろう。それにしても、前に似たような感覚を味わっていたとしても、美月は妙に落ち着きすぎているような気がする。
「もう、君はムードってやつが理解できないのかい?」
「お前は人の気持ちが理解できないみたいだな」
美月の火の玉ストレートにネムは一瞬押し黙ったあと、不服そうな顔をしながら説明を始めた。
「……まあいいや。ここは君の精神、夢の中って言った方がわかりやすいかな?」
「ふーん、で?お前はなんで人様の夢の中に入り込んでるんだよ」
「飲み込みはやっ!」
ネムは美月の飲み込みの速さに柄にもなく少し大きな声を出してしまう。その後、少しの沈黙を挟んで、恥ずかしくなったのか早口で立て直した。
「……こほんっ、それは君に話したいことがあるからさ」
「えー……いいよそんなの。時間的に結構寝たし、そろそろ起きたいんだよ」
「ちなみに最後まで聞かないと君は起きないよ」
「マジか……」
「それじゃあ始めるよ……この企画の真の目的と、僕たちの目的について」