「……諦めたってわけか」
アルは両手に岩を持ち、構える。
「無駄なことが好きだねー。それは俺に効かなぐっ……」
正道が話している途中で投げられた岩は、先程までのナイフと異なり直撃した後確かなダメージを与えた。額から垂れてくる血に驚く正道を見て、アルは間髪入れずに二投目、三投目と続けて投げつけた。
「ぐう……。どうなってやがる!なんで吸収できない!」
「そんな睨んでも教えないよ」
「くそがっ!」
突っ込んでくる正道から距離を取りながらアルは投石を続ける。傷ができるのはいいが、すぐに回復されてしまうので、どうしても決めてを欠く。このままでは先程までと変わらない。正道も最初の方こそ焦っていたが、アルがこれ以上のダメージを与えてくるようなことをしてこないため、すぐに余裕を取り戻していった。
「どうやら弱点は本当にあるみてーだが、見つけても活かせなかったら意味ないよな。お前今、焦ってんじゃないか? どうやったら倒せるんだ!ってな感じでよ」
アルはぴたりと動きを止める。
「お? 図星みてーだな。ほら、俺は心が広いから三秒以内に土下座すりゃあ許してやるぜ。ほら、3、2、1」
1、のカウント共に正道めがけて岩が飛んでくる。しかしこれも当たった直後に吸収されてしまった。
「もう無理だ。時間切れだ。ぶっちゃけ、力づくで屈服させる方が好みだしな。それにしても、最後の抵抗が投石って、さっきまで投げてたナイフはどうしたんだよ。まさか、吸収できる種類に限りがあるとでも思ってたのか? ……笑っちまうぜ」
勝利を確信した正道は、高笑いをしながらゆっくりとアルに近づいていく。正道がアルの目の前まで来た瞬間、ぱっとアルの姿が正道の目の前から消えた。
「またかよ……。そんなに鬼ごっこが好きかよ」
「ううん、アニメとか見る方が好きさ」
「……諦めたってわけか」
「まさか? 君の仮説が当たってるだけだよ。種類に限りがあるってところのね」
正道が後ろを振り返ろうとしたとき、ざしゅっ、と首から血が噴き出した。正道はアルの手に持っているものを見て、回復し忘れるほど狼狽した。
「な、なんで岩で首が……」
「早く治さないと死んじゃうよ?」
「ちいっ……」
アルが看破した正道のスキルの弱点、それは「吸収した一種類しか吸収出来ない」ということだ。例えば、ナイフと同時に岩が当たったとき、同時に吸収することは出来ず、どちらかから先に吸収しないといけないということ。そして、先にナイフを吸収していたら、ナイフの見た目をした岩を吸収することは出来ない。アルはそれを見抜き、岩をナイフに、ナイフを岩と見えるように『大人騙し』で誤魔化した。そして、ただの石を投げて吸収させることで、さっきまで吸収出来なかった事実を薄れさせ油断させたのだ。
正道は距離を取ろうと後方にジャンプするが、アルはそれを許さず追撃をする。この攻撃もまた吸収されず、正道の首を貫いた。
「……!……!!!」
「あ、喉に刺さったまんまだから治せないし話せないんだ。……あ、もう大丈夫みたいだ」
アルはよくわからないことを口走ったあと、右手で正道の胸を貫き心臓を引きずり出す。そしてそれを絞るように握りしめ、滴る血液を飲み始めた。正道の体は力なく崩れ落ちる。正道のスキルでも即死を免れることは不可能だったようだ。口元を汚しながら血液を飲んだアルは、見えない誰かと話し始めた。
「んっ……。んく……。は~、まっず。……こうしないとスキル奪えないって、悪魔の王のくせしてだらしなさすぎでしょ」
『俺が力を貸さなきゃ危なかったくせして、なに生意気なこと言ってやがる』
「だったらもっと早く貸してよ。僕が死んで困るのは君なんだから」
『しょうがないだろう。さっきまで視られていたのだから。……それにしても《大人騙し》、かなり優秀だな。岩をナイフに見せかけるなんてよく思いついた』
「それくらい、《大人騙し》持ってたら誰だって思いつくよ。ま、優秀なのは確かだけどね。美月の前じゃ「使いにくい!」とか言ってたけど、今は汎用性という点においては勝てるスキルないんじゃないかな」
『……やはりお前を選んで正解だった』
「君は僕を女だと思って入ってきた口だろう?」
『だから違うと言っているだろ。今まで適合率の高い人間がそうだったから勘違いしただけで、俺は貴様が女に見えたから契約したわけじゃ……』
「とっとと寝なよ。全く、うるさいな」
『貴様……。俺が復活したら真っ先に殺してやる』
「それはまた大層な夢だこと」
見えない誰かとの会話が終わったのか、アルは口を拭う。そして、右手を開き、アルに見えているものを読み上げ始めた。
「えーと、スキル《超吸収》。自分に触れた物質を吸収する、エネルギーとしてため込むこともできる、ね。吸収した一種類しか吸収できないってとこを頭に入れて使わなきゃな」
右手を閉じたあと、アルは音を立てないように部屋に戻るのだった。