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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
神の真名
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「常識ねーのかよ」

 涼しい夜風が微かな音をたてながら部屋の中へ吹き込んでくる。

聴取が終わったあと、美月たちは紹介してもらった宿へ向かい三日間の疲れを癒していた。クロノがキルスに運ばれた後、他の兵士の人にもっと詳しく話を聞かれたため、終わる頃には既に時計は午後12時を回っていた。

 宿は予想より豪贅で、食事や温泉の他、店内の出店などを満喫したらあっという間に時間は過ぎていった。美月は夕食後、久しぶりのベッドの感触に歓喜しながら早々に眠りに落ちたが、アルはその限りではない。そもそもベッドにすら入っていない。すでに72時間の制約がなくなっているため、警戒してそれどころではないのだ。一応協力体制をとっているし、この三日間で寝込みを襲うような人間ではないことは理解しているのだろうが、彼のそれは意識的に行われているものではなく、無意識に本能から出ている警告なのだ。今ぐっすり寝ついているところを見てもその不安はぬぐえない。彼は傭兵。しかし、殺すのではなく生き残るスペシャリストだ。常にに最悪を想定して動き続けてきた彼にとっては当然の行動なのだろう。

 そんなアルは美月のだらしない寝顔を見て、力が抜けたようにため息をつく。

「なーんでそんなだらしなく寝れるのさ君は。無警戒にもほどがあるよ」

 そしてアルは窓の外に視線を向け、一つの木めがけてナイフを何本も放った。

「君がそんなんだと、こういう対処を僕がしなきゃなんないじゃん」

 アルの投げたナイフは狙った場所に直撃する。しかし彼は間髪入れずにもう一投、勿論同じ場所にナイフを投げ込む。

「……うーん? ややこしいな……」

 アルは美月を起こさないように音を立てずに窓から、今度はナイフではなく自分のダミーを木に向かわせる。その直後に気配を殺してナイフを投げた木から死角となる場所に潜む。すると、その木の中から男が飛び出し、ダミーを上から突き刺した。

「いや~、気づかれたときはどうかと思ったけど、案外ちょろくてよかったよかった。これで試したいことが試せる」

 男はナイフを抜き、ダミーの頭に手を伸ばすが、直前で違和感に気づく。

「……血、出てなくね?」

 男がそう呟いた瞬間、男の首に何かが当たる。その後、どぷんっ、という音が鳴り、首に当たったものは首の中に吸い込まれるように消えていった。

「……っち、さっきから人に向けて物を投げやがって、常識ねーのかよ」

「寝込みを襲おうなんて考えている奴に問われる常識なんて持ち合わせてないのが当然でしょ。キューブが鳴らないから敵意を持った動物かと思ったけど、ただの獲物でよかったよ」

「口のへらねーガキだな。これからどうなるかわかってねーのか?」

 威圧してくる男に対し、アルは不遜な態度で対応する。

「そうだね。とりあえず今わかってるのは、アンタのスキルが物を吸収する能力ってことくらいかな」

「……そこまでわかってりゃあどうなるかも予想つくだろ。今見たように、物を吸収出来る俺は武器じゃ倒せない。ということはつまり、お前に俺を殺す手段はない。逆に俺はいつでも殺せる。いづれ殺すが、降参すりゃ長生きできるぞ。まあ……お前の働き次第だが」

 男はにやけながらアルを値踏みするかのように上から下まで観察する。

「さあ、正道サマって土下座しながら媚びてみろ。10秒時間をやるから、ほら、早くしないと死んじまうぞ?」

 アルは以前不遜とした態度で正道に話しかける。

「こういうテンプレな展開は見飽きてるんだよね。もっと新しい感じで来てよ。それにさ、自分のスキルをペラペラ喋るのって負けフラグなの知ってる?」

「あ?」

 アルは武器での攻撃が致命傷にならないと判断し、攻撃方法を徒手空拳に切り替える。飛び蹴りで大木を破壊できる力を持っているため、一般人程度ならすぐに制圧できる。……はずなのだが。

「っち、いってーな。人をサンドバッグみたいにバカスカ殴りやがって」

「驚きだよ。本気で殴ったつもりなのに全然効いてないなんて。……ショック受けちゃうな」

 正道はアルの息つく暇ない連撃をくらい5m程吹っ飛んだのだが、何もなかったかのようにすぐに起き上がった。強度が一般人と同じならもう死んでるだろうし、最低でも失神はするはずなのだが、全く堪えてないどころか打撃痕すら残っていない。恐らくこれもスキルによるものだろうが、アルは一旦距離を取って攻略法を考える。

「おうおうおう、逃げんのかよ」

「うん、逃げるよ。このまま耐久戦になったら勝ち目なさそうだし」

「よくわかってるじゃねえか。でも、諦めないんだな」

 アルは気配を殺し、夜闇に紛れて正道の隙を伺い、隙が出来るたび様々な攻め方で仕掛けまくる。意識外からの不意打ち、反応できない速度での刺突、同時に100本突き刺す。しかしそのどれもが致命傷を与えるに至らなかった。アルは、一通り複製したナイフを突き刺し終え、地面を蹴り上げて視界を妨げながらもう一度距離を取る。

「くっ……」

 アルは土が顔にかかった時の正道の反応にある違和感を覚える。何故吸収できるのに土煙に目を押さえているのか。その違和感からアルは吸収能力の弱点に気が付いた。

「わかっちゃったな、アンタの弱点」

「何寝ぼけたこと言ってんだ。苦し紛れに目つぶしくらいしかできないのに強がっちゃって」

「……試してみる?」

 そういってアルは正道に気づかれないように、地面に転がる岩をそっと掴むのだった。

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