「ほんとに何が目的なんだか」
「……すっげ」
美月は目の前に積み重なる皿を見て唖然とする。丁寧に盛り付けられた料理は周りに飛ぶことなく一瞬で消え、一向に食べることをやめないアルがせっせと手と口を動かしている。
ごくん、と注文したものを全て食べ終えひと段落ついたのか、いまだに唖然としている美月に話しかける。
「ギルド内にご飯食べるとこあってよかったよ。料理もおいしいし」
「あー、まあそうだな。それにしてもよく食うな、お前」
「食べれるときに食べなきゃ次の機会まで生きてられるかわかんないからさ、全力で今を生きてるんだよ」
「でも、俺ら全財産これだけだぜ?そんなにバカバカ食って大丈夫なのか?」
美月はそういって机の上に小包を乗せる。その小包の中には一枚一万円相当の金貨が60枚はいっていて見た目以上に重く、持ち運びに不便さを感じさせる。
「その辺で狩ってくればすぐに増やせるでしょ」
「確かにそうだけどさ……。あー、てか俺らは別に行く場所とか決まってないしここにとどまるっててもあるのか」
「うん。100人殺せば願い叶えるとか言ってたけど、叶えてもらうまでもなくスキルでなんとかなっちゃうし、期限とかも決まってるわけじゃないからわざわざそれに乗っかる必要ないよね。なんならそこまでちゃんと話聞いてる人少なそうだし」
「だよなー……。ほんと何が目的なんだか」
そう、まさに今アルの言った通りである。この世界、多少の危険はあれど得ることのできたスキルがあればなんとかなるし、不自由しない。なんなら元の世界より快適に暮らせる人物も多くいるだろう。
誰かを100人殺すなんて時間と人間的な心を失い、命の危険がよりある行為をするまでもなく、ほとんどの人間の願いは叶っているのだ。何故こんなルールにしてしまったのだろう。時間制限でもつけていれば否応なく殺し合いをさせることが出来たというのに、何か考えがあるのか、はたまた単純なミスなのか……まあそれを知ったとしても特に生活に支障が出ることなんて滅多にないし、このあたりで考えるのがめんどくさくなった美月は思考を止める。
「お話の最中に失礼しまっす。伝え忘れていたことがあったので、お伝えに来ましたっす」
「わっ!」
「え、ああ、ミリスさん、でしたっけ」
警戒中のアルは、気配を全く感じさせずに声をかけてきたミリスを不思議に思いながら驚く。
「そうっすけど、名乗ってもないのになぜ?」
「キルスさんの手紙に……」
「そういうことっすか、了解っす。それじゃあ伝え忘れていたこと、冒険者ライセンスの機能について説明しまっす」
ミリスは手に持っていた謎のカードを美月に渡す。
「作った後、渡すの忘れてたっす。申し訳ないっす」
深々と頭を下げるミリスに、美月は少し動揺しながら答える。
「あ、全然、気にしてないです。早く頭を上げてください」
「ありがたいっす。機能なんすけど、ギルドにお金を預けると、いろんなお店で引き落としができるようになるっす。それで、よかったらなんすけど、今から預けませんっすか?」
「是非」
美月は即答し金貨の入った小包とライセンスをミリスへ差し出す。先程も述べた通り、金貨は思ったより重く、小包といえど存在感があり場所も取るため持ち運びが凄く不便なのだ。美月からしたら願ってもない申し出だ。
「了解っす。それじゃあ……登録完了っす」
ミリスの姿が一瞬にした消えた……と思った瞬間、また一瞬のうちに現れ美月にライセンスを差し出す。
「これで失礼するっす」
そして再度消えるミリス。瞬間移動か高速移動かよくわからないが、そんなものを二度も見た美月たちは驚きで声が出ず、店員さんに声を掛けられるまで固まったかのように動けなかった。
「あのー、ご注文の品はすでに届け終わりましたので、追加の注文がないのであればお会計の方を……」
「あ、じゃあおか……」
「さっきのステーキ3皿追加で」
「かしこまりました」
まだ食えるのかよ……と美月は先程とは違う衝撃で言葉を忘れる。
「ん?手、止まってるよ美月。早く食べないと冷めちゃうよ?」
「あ、ああ。それもそうだな。……やっぱ調理されたものってうめえな」
とこんな風に美月たちが食事にいそしんでいる間、この街、クラウン・ヘッジである事件が起こされていた。……美月の親友である三辻晴祥にの手によって……