「ほんとに高校生なの?」
「ミツキ、ついたよ」
「はあ……はあ……何がだよ……ってこれ街か?」
森を抜けたアルは足を止め、目前の景色にやっぱりか、と予想通りかのような反応を見せる。そのあと大分遅れて同じところまでたどり着いた美月は、驚きの光景に目を見張った。
アルと美月の目の前には中世ヨーロッパ風の大きな街が広がっていた。中央からいくつかの大きな道が伸びていて、そこに様々な店があり、さらにその道から何本も細い道に分かれている。ここからだと中央の大きな建物くらいしかよく見えないが、どこの道もある程度人がいて賑わっているように見える。
「急に走り出したときはどうしたのかと思ったが、考え無しに動いてたわけじゃなかったんだな」
「あーいや、うん、そう思ってもらえるならそれでいいよ。ところで、美月は何を背負ってるの?」
アルはその話題に触れてほしくないのか、美月が背負ってるよくわかんないものに指をさしながら話題を変える。
「急に襲いかかってきて返り討ちにしたやつだな。もしかしたらこいつらもドラゴンみたいに食えるかもしれないし。ほら、なんか見た目豚に似てるし」
「ふ、ふーん……」
アルは美月から少し距離をとる。
「なんで俺引かれてんの? あの全く食えそうにないトカゲをキラッキラした目で食おうとした奴になんで引かれてんの?」
不満を露わにする美月を無視してアルは話を続ける。
「まあここでべらべら話しててもしょうがないしはやく入ろうよ」
「このまま入れんのかな……」
美月はそんな心配をしつつも背負ってるものを置いていく気配はなく、担いだまま街まで向かった。
森の出口からは近く思えた街までの距離は実際には遠かったが、街までの道は奇麗に整備されていて森の中のような歩きずらさはなかった。
整備された道を歩いているとき、途中剣や弓などで武装した集団となんどかすれ違い、その全員が美月と担いでる豚?を見て驚愕したかのような表情をしていた。美月は喧嘩帰りにコンビニにぼろっぼろで向かい、店員に凄い目で見られたことを思い出した。
そんなこんなで入り口にたどりつき美月たちは中に入ろうとすると、今度は先程通りすがった人たちのような軽装ではなく、全身を防具でガッチガチに固めた人物に呼び止められた。
「そこのロックブルを抱えたお兄さん、ちょっといいかな」
「……え? 俺?」
「そうそう。一応安全確認のためにライセンスを見せてくれないか?」
「ライセンス?」
聞きなれない単語の連続に首をかしげる美月。その反対に、アルはなにを言っているのか察していた。
「ライセンスとかよくわかんないですけど、ちゃんと仕留めましたよ?」
「ああ……。なるほど。転生者の方々か」
すると甲冑の人は兜を取り外す。
中から出てきたのは整った顔に、肩口で切りそろえられた金髪のThe・イケメンだった。
「俺はガウス騎士団で団長を務めているキルス=グラーシュだ。キルスって呼んでくれ。あんたらみたいな直接この世界にきたタイプじゃなくて、死後転生した元日本人さ。あんたらは?」
「俺は藍沢美月って言います。美月って呼び捨てにしてもらって大丈夫です。こっちは……」
「アルハード、僕はアメリカ人。ちなみにいうとファミリーネームはないよ」
「なんだそれ?」
「まじ?」
ファミリーネームを知らない美月に一般教養をほんとに受けたのか疑問を持つアル。
「美月はほんとに高校生なの? ……ファミリーネームっていうのは、日本で言うところの名字ってやつ。僕は物心つく前から一人だったからないっていうか覚えてない」
「……苦労してるんだな」
「同情とかはやめてね。それより、ミツキは入れるの?」
「ああ、こいつは俺達がギルドまで運ぶから、お前達はまずギルドに向かってライセンスを発行してきてくれ。ギルドの方には俺から伝えとくから、そんなに時間かかんないはずだ」
「え、いいんですか!?」
「ああ、同じ転生者のよしみだ。それに騎士団長って立場的に困ってる人を助けないのは気が引けるんだよ」
「ありがとうございます!」
騎士団長とかギルドとか冒険者ライセンスとかよくわからないことはとりあえず無視して、入れるようになったことをシンプルに喜ぶ美月。彼にとってはキルスが転生者であることより街に入れるかどうかのほうが重要だったらしい。入れなかった時のことを考えると当然っちゃ当然だ。
「ほら、アルもお礼!」
「ええ……もともとは美月がその変な生き物を持ってきたから悪いじゃんか。そもそも僕普通に入れるし」
「え?そういうことなんですか?」
衝撃の事実を知ったような表情でキルスに視線を向ける美月。キルスは自分が転生者だと知ったときにして欲しかったリアクションで聞かれ、若干苦笑いをしながら答える。
「そ、そうだな。その辺に放棄されても処理する手間が増えてたまったもんじゃないし、適切な処置をしないとこの街、ゴーゼスタウンや近くのゴーゼスの森に悪影響を及ぼしちまうからな。ライセンス作ってもらうのも適切な処置の一つであるギルド買い取りをしてもらうためだ。森から出てきたあたり、この街で使える貨幣は持ってないだろうからな。その辺を考えるとアルハード君がお礼を言うべきは美月になるんじゃないか?」
「だってさ、なんか言うことは?」
「ありがと、それじゃあ早くそのギルドってところに行こうよ」
「え、あ、うん……」
水を得た魚のように急に調子づく美月だったが、素直にお礼を言われてしまい何も言えなくなる。
「ギルドまでは道なりにまっすぐ進めばつく。俺はこいつを運ぶから一緒にはいけないが、デカイ建物だからどれがギルドかすぐわかるはずだ」
「ありがとうございます!」
「おーい、ミツキー。おいてくよー?」
「行くの早すぎるだろ!」
美月は既に人混みに紛れ見えなりそうなアルを追いかける。キルスはその後ろ姿を見送りながら一人もの思いに耽る。
「なんの前触れもなく転生がこんなに起こるなんて……。この3日間で転生者らしきやつにもう5回も会ってる。……一応、警戒しておくか」
キルスは浮かび上がる一抹の不安と胸のざわつきが気のせいでないと考え、来るであろう災害に備えるのだった。