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【閑話】カタリナの仕置き⑦ ~秘薬~



「ずっとわからなかった。全員、どうしてこれほどハンスを陥れることに固執するのか・・・。まあ、少なくともあなたに関してはなんとか調べが付いた」



 ばさっと紙の束を横たわったままの男の枕元へ置く。



「情報ギルドがある統計を取ってくれたの。そうしたら面白いことが判明したわ。あなたの妻たちと付き合った女たちはおおむね似たタイプなのね。金髪、碧眼、ストレートの髪、体型はやせ型手足が長い・・・とか?それをつなぎ合わせると一人の人物に繋がる・・・」



 身体のしびれがだんだん解けて来たジェームズは頭を浮かせて唸る。



「・・・っ、やめろ・・・っ」



「五歳のハリが大人になったらこんな感じかな?という女性ばっかりよね」



 いったん壁際まで戻ったカタリナはそれに背中を預けて小首をかしげた。



「あなたは、ハリの形代を女たちに求めては挫折していたのね」



「やめろ、やめろ、やめろーっ」



 叫ぶと、バリバリと男の身体の周りで閃光が走った。



「・・・っっっっ!!」



 ベッドに預けた身体がはねる。



「・・・あのね。ちょっとは気づいて?貴方の首に嵌めている金属、それは飼育用の魔獣の首に嵌めるものと同じで、自分以外のすべての人間に歯向かおうとすると雷が走るか、首を絞めることになるから。おとなしくしてちょうだい」



 あきれ返った眼でカタリナはみつめた。


 男たちもただ黙って冷たく見下ろすばかりだ。



「ころせ・・・いっそ・・・」


 胸をふいごのように上下させながら、ジェームズがつぶやく。



「お断りよ。ああ、そういや調べているうちにあなたの知らない真実が一つ見つかったから報告するわ。ロザリーって人、覚えているかしら。あなたが二十歳前後のころ、ハンスに家を借りてもらって、更にハンスのお金で養っていた女性」



「・・・ロザリー?」



 しばらく考えて、ようやく顔がおぼろげながらも頭に浮かんだ。



「ああ・・・。あれか・・・」



 貴族の庶子で修道院から出て来たばかりの少女。


 たまに寝室へ上がりこんでいた伯爵夫人の下級侍女だったのを見かけ、甘い言葉を囁いて囲った。


 世間知らずで内気な彼女は従順で、なにもかもジェームズのいいなりなり、それまで付き合った女の誰よりも思うままに振舞うことができた。


 一年くらい通ったが、最後は父親の借金のカタに老人の後妻に入らねばならなくなったと言い出したので、ハンスに祝い金を用意させて渡し、別れた。


 よく泣く女だったなと思いだす。



「その様子だとほとんど印象にない感じね」



 予想通りの反応だったらしく、カタリナは話をつづけた。



「あなた、彼女を妊娠させて、産ませたくないから粗悪品の中絶薬をこっそり飲ませて流した上に、後遺症で不妊にさせてしまった事も、覚えていないのかしら」



「ああ、そういやそんなこともあったな」



 考えてみれば、あれが、唯一の成功例だった。


 抱いた女に子供ができたのは後にも先にもあの一度きり。



「彼女に対して本当に関心がなかったのね。そんなだから、種無しにされたのよ」



「・・・は?」



「ロザリーが預けられていたノルヴィータ女子修道院は薬局を経営していてね。彼女は還俗する前は製薬部にいたのよ」




 ロザリーは流産からようやく回復したころに、偶然ジェームズの持ち物から中絶薬を見つけた。


 金がないわけではないのに粗悪品を買い求め、妊娠を喜んでいるふりをして祝いの食卓に混ぜた。


 それを知った時に、それまでのジェームズの仕打ちを思い返し、殺意がわいた。



 ジェームズは機嫌の悪いときにはつらく当たり、時には暴力も振るった。


 しかし翌朝にはそれまでの言動を悔いて、甘く優しく愛を囁く。



 愛があるからだと言われたが、それが嘘っぱちなことは、死んでもおかしくない薬を飲まされたことで、ようやく理解した。



 なので、彼女はひそかに材料を集め、薬を作った。



 貴婦人たちが極秘で買い求めに来る秘薬。


 子種殺しの薬。



 度重なる妊娠につかれた人や、夫に庶子を作らせたくない人。


 事情は様々だが、表向きは女性向けに香水と石鹸を商うノルヴィータ薬局のひそかな売れ筋商品だった。



 そうして。


 出来上がった薬を、コーヒーに混ぜて渡した。



 ジェームズが、殊更に優しい朝に。



「その薬は、一度につき確率が三割程度。三回飲ませればほぼ種は作れない身体になるらしいのだけど、あなたは十回飲んだそうよ。ずいぶんな念の入れようね」



 それで、おたがいさま。


 区切りを付けたロザリーは、六十になる男の元へ嫁いだ。



「あいつ・・・っ。なんてことを・・・」



 ロザリーとの付き合いと前後して結婚したが、何年経っても子どもができなかった。


 なので、妻を何度も変えた。


 徒労だったのだ。



「俺の人生を滅茶苦茶にしやがって・・・」



 親や親族からは孫の催促が続いた。


 この際、出自の悪い女でもいいかと思い、手あたり次第試した時期があったが、それも無駄だった。





 それなのに、気が付けばハンスは二人の子供を抱え、幸せいっぱいになっていた。



 許せなかった。


 ハンスも、あの陰気な女も、子供たちも。




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